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血の運命

 光子剣フォトンサーベルを手に、要塞への突入を果たしたジュリアス達は、立ちはだかる敵を次々と倒しながら前へと進む。


「やっぱり敵の数が少ない。あの野郎、本気でこの要塞を捨てる気かよ」


 兵の脱出が進む中、ジュリアスを阻む者は少なかった。

 しかし、それでも各所から現れた敵兵によってジュリアスは共に突入した仲間達から引き離されてしまい、今は1人で要塞内を駆けていた。

 以前に来た際に、要塞の主要な区画には案内されていたため、大まかな道筋は分かっている。


 その記憶を頼りにジュリアスは、まるで迷路のように入り組んだ要塞内の廊下を駆け抜ける。

 そして、ついに中央指令室の前まで辿り着いた。

 その時、なぜかはジュリアス自身にも分からなかったが、今目の前にある扉の向こうに、何者かの気配を感じた。


「……」


 ジュリアスは恐る恐る扉の横に設けられたセンサーに手をかざす。

 手にセンサーが反応すると、扉が音を立てながら横に動いて、中央指令室への道を開く。


 中央指令室の中に足を運ぶと、その先には椅子に腰掛けるローエングリンの姿があった。

 まるで待っていたと言わんばかりに、ジュリアスの方をじっと見つめながら。


「ふふふ。やはり来たな、ジュリアス・シザーランド。待ちかねておったぞ」


 ジュリアスは強い警戒心を抱き、右手に握る光子剣フォトンサーベルを構えながら前へと進む。


 対するローエングリンは、右手に何かのトリガーのような物を握り締めながら、椅子から立ち上がる。そのトリガーには右手の人差し指が添えられていつでも押せるようにした状態で。


「これが何か分かるな。ギガンテス・ドーラの発射トリガーだ。これを引いた瞬間、ギガンテス・ドーラは暴走して、この要塞は跡形もなく消滅する」


「そんな事をしたら、あんたも死ぬぞ」


「同じ事よ。そなたがあくまで余を拒むというのであればな」


 ジュリアスは、ローエングリンの話し方に違和感を覚える。そしてローエングリンから感じる異様な気配にも。

 その正体が一体何なのかを、ジュリアスは予想する事はできたものの、すぐに確信にまで至る事はできなかった。


 そんなジュリアスの動揺を感じたのか、小さく笑みを浮かべた後にローエングリンが口を開く。

「分からぬか?余は銀河帝国皇帝アドルフ・ペンドラゴンだ」


「なッ!? ……ローエングリンに転生したってのか?」


 かつて皇帝は、自身のクローンであるジュリアスに身体を乗り換えようとしていた。

 しかし、トーマスとクリスティーナの手によってジュリアスが救い出されたためにその計画は失敗に終わった。

 しかもその際に皇帝は重傷を負い、療養中である事は帝都キャメロットから遠く離れたトラファルガーにも知れ渡っている。


「リヴァエルの身体は、そなた等のおかげで使い物にならなくなったのでな。あのままでは後の転生にも支障を来たすと判断し、ローエングリンの身体に魂を移したのだ」


 落ち着いた口調という意味では普段のローエングリンと同じだが、今の彼からはどこか妖怪のような老獪さがジュリアスには感じられた。

 そして、かつての自分の身体を、まるで使い捨ての道具のような言い方で片付けてしまうアドルフにジュリアスは反感を覚える。

 300年続くペンドラゴン帝室は、全員がアドルフにとっては身体の予備のようなものでしかない。いや、そもそもこの銀河に生きる全ての人々もアドルフには、支配者を気取るための道具でしかないのではないか。

 そうジュリアスには思えたのだ。


「な、なら、もう俺の身体に用なんてないだろ」


「そうはいかん。これはあくまで仮の身体。身体の適合率が不充分にも関わらず、万全の状態ではない急な転生だったがために、ローエングリンの魂が消える事は無く、この身に留まり続け、二重人格のようになってしまった。劣化した血筋の身体では、これが限界だったらしい。やはり、そなたの身体でなければな」


「く! ローエングリンは、そいつは、あんたのためにここまでの事をやったんだろ! それなのに、」

 正直な所、ジュリアスはローエングリンの事は好きではない。だが、アドルフの命令で数々の戦争と政争を勝ち抜いて帝国の支配者になり、さらには自分の身体まで提供した彼を“劣化した血筋の身体”などと吐き捨てるアドルフにジュリアスはより一層の嫌悪感と苛立ちを覚えずにはいられなかった。


「確かに、ローエングリンは実に良い働きをしてくれた。300年生きてきた中で、これほど使える駒はいない。だが、しょせんは駒」


「あ、あなたは、」

 完全に性根が腐ってやがる。

 そう思い、ジュリアスは軽蔑の眼差しを向けた。

 300年に渡り支配者として君臨してきた事で、全人類の代表、統治者という意識が次第にアドルフの中に芽生えた自己神格化を助長させ、もはや人間らしい感性など持ち合わせていないのだろう。

 アドルフにとって全ての人類は、自身が支配する対象でしかないのだ。


「俺はあんたなんかの身体になんてなるつもりは無い!」


「余の分身がほざきおるわ。余は、全人類の意思そのものぞ。その余に逆らうという事は全人類を敵に回すという事。……見るがいい」


 ローエングリンことアドルフが空いている左手を軽く振ると、周りに幾つもの3Dディスプレイが出現。それ等にはこの要塞の内部、そして外で繰り広げられる戦闘の様子が映し出されていた。


 要塞の外で戦う突撃機甲艦隊ストライク・イーグルは、要塞の表面に張り付いて背水の陣のような態勢を組んでいる。

 それを帝国軍艦隊は包囲するように展開して逃げ道を塞いでいた。

 防戦一方に追い込まれて、反撃の糸口も掴めず、このままではいずれ戦線が崩壊して帝国軍艦隊に蹂躙されるのは目に見えている。

 そしてもし今、要塞が吹き飛ぶような事があれば、突撃機甲艦隊ストライク・イーグルは1隻残らず壊滅するのは疑いようもない。


「今、この戦場に集うそなたの仲間、そしてそなたの家族の命は、そなたの手の中と言って良い」


「……そうやってあの時みたいに、俺を揺さぶるつもりか?」


「事実を述べたまでよ。彼等をこの死地へと導いたのは、そなた自身。だが、まだ間に合う。余の手を取れ。さすれば、我等は1つとなり、新たな皇帝が生まれる」


「……」


「余はそなたであり、そなたは余。己の血の運命に従う時だ。でなければ、そなたの大切なものは全て宇宙の塵と消える」


「お、俺は、」

 ジュリアスは決断できなかった。

 かつて反逆者の烙印を押される事も意に介さず自分を助けてくれたトーマスとクリスティーナ。2人と生きる時も死ぬ時も一緒だと約束した。

 その事を、そして2人への感謝の気持ちは片時も忘れた事は無い。

 だが、ジュリアスも2人のためならば、命を捨てるのも厭いはしない。

 もし、2人の命が助かるのであれば。

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