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異世界転生が闇すぎたんですが ?(キレ気味)  作者: 鹿里マリョウ
プロローグ 強制転生 TO THE FIRST DAY
8/23

008 聖剣バトル開始だぜヒャッハァ!!













 ・・・・・・精神持ってかれた。

 辛すぎやんあんなの。実際にあったんだなああいうことが。


 精神と肉体が曖昧な状態で、俺は確かに真っ白に消えかかっていた。

 てか、めちゃくちゃ眠いな。少し寝ちゃおうかな。

 意識した途端急速に重くなる瞼、人体って不思議。


 ──あまり、自分のエゴを押し付けるなよ。エクスカリバー。


 泉の底に明かりが灯る。

 瞼が軽くなった。

 そこはもう夢の世界ではなく、あの泉の中だった。

 あれ、息ができるぞ?久しぶり空気、恋しかったよ(エアコン)。


 目の前には輝きを失った聖剣が地面にぶっ刺さっている。

 ・・・・・・もしかして寝起きドッキリですか?


 再び、杖をつく音。

 同時に誰かの声も反響する。


 彼女が悲しむぞ?


 どこか嘲笑の混じった言葉。

 聖剣の黒いモヤが怒りに震えて蠢いた。


 寝起きドッキリだったわ。

 モヤの一端が俺の顔付近でモゾモゾしてる。あばばばばば。


 古びた木製の杖に灯りを携え、突如その人物は現れる。


 艶のある黒い長髪をひとつに結んだ長身の男。

 深緑単色で仕立てられたローブを羽織り、胡散臭い笑いを貼り付けている。


 体に電流が走る。

 俺はこの男を知っている。

 というか、さっき知った。


 かつてアーサー・ペンドラゴンを偉大な王へと持ち上げた伝説の大魔道士。


「──マーリンやんけ」

「そうでーす。皆大好きマーリン君でーす」


 そう、コイツは常時こういうテンションなのだ。

 先の追憶を思い出す。


「マーリン君は遠路はるばる君を助けに来てあげたのだよ!」


 上機嫌な大魔道士は胸を張る。


「その前になんでお前生きてんのか聞きた──」

「ピョー!!それは企業秘密でーす!残念でちたー、プギャー!!」


 最早怖いわこいつ。

 怒りに震える右手を抑えて、それでも零れた激情がマーリンを睨みつける。


「ハッハッハッ、そんな怖い目で見ないでよー。──それっ」


 怒りの形相も何処吹く風、マーリンは陽気に杖の底でで地面を一突き。


「──!?」


 たったそれだけの動作で、周囲の水がはける。

 出来上がる空間。

 泉の底なのに、本来落ちてくるはずの水たちは、頭上でドーム状に止まっている。水のドーム屋根だ。


「どうだい?これが〝魔法〟さ。たしか見るのは初めてだったよね」


 やだファンタジー。胸がときめいちゃうわ。うふ。


「動きやすくもなったことだし、早速そこのエクスカリバーを説得して手に入れよう」


 え?こんなばっちい武器いらないんだが。ていうかその黒いやつ空気中でも漂うんだね。汚いね。


 地面に突き刺さる聖剣は、未だ黒い瘴気を飛ばしていた。


「アイツが人間に対し強い怒りを覚えているのは知ってるよね。君はそれを何とかするんだ」


 難易度高くね?要するに無策じゃん使えな大魔道士(笑)。


「そこさえクリアできれば邪悪なオーラは僕が消そう」


 めちゃくちゃ使えた。大魔道士ってやっぱ尊敬しちゃうなあ。


 マーリンの背中に安っぽい後光を見ながら、おみ足ぺろぺろ大運動会しようとした時、瞳の横を凄まじい速度の何かが過ぎ去った。


 甲高い金属音で飛来物は止まる。

 金の体に黒い謎物質。

 聖剣エクスカリバーが、一人でに射出されていた。


「ひょえ?」


 瞬時、地面が割れた。

 爆発的速度で真上に飛び出した聖剣。

 刹那の静止。そして切っ先が急転換、目線とかち合う。

 剣がブレた。

 こびりついた瘴気に尾を引かせ、風を穿って迫り来る。


「ちょ、うぉおおおおおおお!!!?」


 焦りに足がもつれて視界が傾く。

 尻から落ちると同時、後頭部を風が吹き抜けた。

 ちょっと禿げた!


 息付く暇も無く、Uターンしてきた聖剣が首元を狙う。


「ひぃぃぃ!!」


 訳も分からぬままただ我武者羅のハイハイですんでで凌ぐ。

 切り返しで背中を狙う剣先を転がって避けた。


 空を切った聖剣はそのまま地面へと激突。

 真横の大地がひしゃげ捲れる。

 衝撃に体が浮いた。

 腕も頭上へ放り出される。

 殴打の衝撃。

 背中からの不時着で肺が震える。


 しかし、脳の(くら)みが爆発によって引き戻された。

 砕かれた岩盤と共に弾かれるようにして持ち上がったのは、怒りに染まった聖剣。

 振り下ろされる。

 これ以上ない無防備。

 一秒後の死を幻視する。


「き、きぇぇぇえええええええ!!!!?」


 明らかな死。

 それでも、出来の悪い頭はそれを受け入れない。

 上に投げ出された腕が立った。

 連られて足も。

 海老反り──すなわち新体操のブリッジで、およそ人間を超えた動きを見せる。


「きえ、きえ!きぇえええい!!!!!」


 血走った眼の勇者が、歯を食いしばりながら瞬速のブリッジで聖剣と距離を開けることに成功する。


「──案外俺が俊敏!」


 意地と火事場の馬鹿力で窮地を脱するが、息を着いたところで押し寄せる疲労に膝が震える。


 息を細く吐いて呼吸を落ち着け、今一度聖剣を見据える。


 ・・・・・・?微かに、震えてないか?


 非常に小さくだが、聖剣が振動しているように感じた。

 黒いモヤも、禍々しく広がっている。

 感じる気迫は相当なもの。

 かつては(まばゆ)い輝きを帯びていたであろうそいつを、じっと見つめた。


 ふと、気づく。


 怒り。


 奴が放つ気迫は怒りそのものであったのだ。

 俺も怒りの対象のようだ。

 全ての人間が対象のようだ。

 主を裏切った、〝人間〟なのだから。



「──アホくさ」


 あまりのくだらなさに、そんな言葉が口から出ちゃった。蒼流うっかり。

 なんだか急速に脳が冷めてしまった。

 恐ろしかったはずの聖剣が、今は唯の意固地な子供を前にしている気分になってきた。


 だがどうやら聖剣様にはお気に召さなかったようで、怒りは一層膨大になる。

 何千年も、泉の底で蓄積してきた怒り。

 どんだけ拗らせたらこんなんなるんだ。


 浮遊状態の聖剣がゆっくりとこちらを捉える。

 死の宣告をするように。


「ちょっと失礼」


 切っ先横目に、俺はマーリンの前に立った。

 右手に握られた木製の杖を半ば奪い取る形で拝借する。


「すっごいナチュラルに盗られた」


 外見こそ使い古されてはいるが、いざ握るとなかなか安心感を与えてくれる。かなりの業物なのだろう。


 地面を踏みしめ、脇は締める。

 杖を構える。バッティングの体制。

 つまり、これから何をするかなど決まっているだろう。

 聖剣を睨む。


 視線の先には聖剣の切っ先。

 睨み合い。


 聖剣が動いた。爆速。初速が既に最高速度。

 風が割れる。音をも破る。

 まだ、俺は動かない。

 近づく。

 距離二メートル。

 ついに動く。

 引き絞った杖を水平に薙いだ。


 ──着弾。


 凄まじい衝撃が腕を通り過ぎた。

 俺の振るった杖と、聖剣が真っ向から激突しせめぎ合う。

 全身の苦しげな軋みが激しい痺れを呼び起こしている。

 気を抜けば一瞬の内に持っていかれるであろう両腕に喝を入れ、上半身ごと全力で捻った。


「うぉおおおおおお、蒼流フルスイングッッ!!」


 杖というバットで聖剣をぶっ飛ばした。

 ホームラン級のベストバッティングに、聖剣は回転しながら宙を舞う。

 やがて泉の壁にぶつかり跳ね返って来た。

 地面を滑る聖剣に、好機を逃さぬと飛びついた。


「フォオオオオオオオオオ!!」


 地面に倒れる聖剣の腹を、杖で全力でぶん殴る。


「おら!おら!おら!」


 折れろ!折れてしまえ!こんなばっちい物。


「人の!悪いとこだけ見て!勝手に!失望すんな!」


 吠えた。こいつを見ていると苛立ちしかわかない。苛立ち満点の杖ラッシュは止まらない。

 杖は打撃武器だったのだ。


「ちゃんと!いい所も!見極め──なさぁあいッ!!」



 ああ、かの王の最期は悲惨極まるものだった。

 目を逸らしたくなるようなものだった。

 ──しかし、しかしだ。

 その人生は、彼が歩んだ王道は、悲惨の一言のみで尽きるような単純なものだったか。


 否、否、断じて否。

 仲間と笑い合った友情も、信念を持って刃を振るった勇気も、夢を語った憧れも、全力で進んだ王道も、確かにあった。そこにはあったのだ。

 酷い終わりだからと、その人生全てを〝可哀想〟で片付けてしまえば、彼の努力は果たして何だったのだ。苦悩し葛藤し傷だらけになりながらも、歯を食いしばって生き抜いた努力は何だったのだ。


 認めない。認めてなるものか。彼の人生が〝悲惨〟などとは、断じて認めない!


 心に荒ぶる怒りを込めて、全力で、それこそぶち折る覚悟で、杖を聖剣に叩きつけた。



 ・・・・・・



 ・・・・・・あれ?何こいつ全然傷つかねえ。硬すぎワロタなんですが、ヨポポポポポww(笑い声)。


 しかし新品同然な外見とは裏腹に、聖剣は沈黙したまま動かない。・・・・・・死んだか?

 気づけば黒のモヤもかなりその身を縮小していた。


「ナイスだ蒼龍クンッ!」


 突如後ろからマーリンが飛び出した。俺の心臓も飛び出した。

 気合いの掛け声と共に弱々しくザワつくモヤを、あろうことか素手で鷲づかんだ。


「とりゃあ!」


 自分の体ごと後ろに引っこ抜く。

 スポンッと気持ちいい音がして、黒いモヤは完全に聖剣から乖離(かいり)した。


「あ、そうやって抜けるんですね」

「うん、これでお仕事完了だよ。お疲れ様、清水蒼流クン」


 マーリンの右手に掴まれたモヤが、まるで本物のモヤのように、空気に揺蕩(たゆた)って溶けていった。


「そろそろ僕はお(いとま)させてもらうよ」


 一息ついたところでマーリンが踵を返す。

 そっち壁ですけどね?帰り道間違えてやんの、ヨポポww。

 と思ったら急に透けだしたんですが。

 もしかして幽霊でした?だから今も存在してんのか。


「ちなみにエクスカリバーはもう君の物だ。どうかそいつの凝り固まった頭に、再び人間を信じさせてやってくれ」


 微かな微笑みを灯して、マーリンは首だけ振り返る。

 いらなさがビッグバン。いつ寝首掻かれるか分かんないぜ☆刺激的な寝起きドッキリになりそうだ。


「────きっと彼女も喜ぶだろうし」


 マーリンの顔に意味ありげな色が浮かぶ。


 ・・・・・・聞こえちゃった。意味深な呟きは聞こえないという制約があるのに、聞こえちゃった。てかそこそこ大きい声で呟くなよ。


「ん?今なんて?」


 俺はデキる男。空気を読んであげる。


「いや、君はまだ知らなくていい事だよ」


 じゃあ言うなよ。なんでわざわざ口に出したんだこいつ。イカれてやがるぜ。


「さようなら、清水蒼流クン」

「消え去れ悪霊め」

「なんのことだい!?」


 おい誰だ別れの場面で暴言吐いたの俺だ。


 マーリンがいよいよ消える。

 体の薄さが目を凝らさなければ気づけない程だ。

 もう数秒だろう。


「──あ、君を地上に送るの忘れた」


 マーリンが完全に姿を無くす。


「ん???今なんて???」



 魔法という支えをなくした超重量の水が、上空より落下した。
















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