022 帰路
「ホワチャァアアアアアアアアアアアア!!!!!」
完全無防備なルファシャーさんの首筋に、殺意増し増しスーパーチョップを叩き込んだ。
つい先程シルヴィアとヤミリーの不意打ちを注意した男の、渾身の不意打ちである。
しかもちゃんと聖剣は抜いてある。スーパー蒼流タイムでの全力首筋チョップだ。
相手の信頼を利用したクソ野郎攻撃は、綺麗に堕天魔の意識を刈り取った。
「シャア!勝ったあ!」
強敵を打倒しホネンジャーの仇をとった俺はガッツポーズを掲げる。
浮遊感に襲われた。
ここ空中じゃん。
「「「蒼流(様)!!」」」
六本の腕に見事キャッチされる。
危機一髪で助かった。
彼女達の腕から降り服を整えると、改めて辺りの惨状に目を向けてみた。
来た時よりも遥かに荒れ果てた墓地と、ぐるぐると目を回して倒れる翼の生えた女性。
砕けた岩なんかもある。
しかしまあ、酷い目に遭ったもののスケルトン討伐の任務は果たした。
チーム連携など皆無だったが。
やっと帰れる。
疲労の溜まった身体に鞭打って墓地の外へと歩き始める。馬車が停めてあるのだ。
ルファシャーさんは無視でいいんじゃね。めんどくさいし。
「やっぱり、蒼流は・・・・・・あんな女に、興味無い、よね」
シルヴィアたんが喜びオーラを放って横に並んできた。いや無表情だけど。
「少しお待ちください。この者を殺していきましょう」
「ダメです」
「・・・・・・むぅ」
ふくれっ面してもダメなものはダメです。俺の精神が持ちません。でもその表情可愛いからもうちょっと見せてもらっていいですか?
■■■
馬車に揺られながら、顔を出し始めた朝日を眺める。
シルヴィアは俺の膝を枕にして寝息をたて、リリエルも壁にもたれて眠っていた。ヤミリーは馬車を運転中。
必然的に、俺とサミの会話になる。
「そーりゅう、ボクは役に立ったかい?」
「まあそこそこ」
その言葉を聞いた途端、サミの猫耳とアホ毛ががピコピコと踊り出した。
嬉しいのだろう。自分の居場所が安泰なことが。
耳を優しくさすってやる。
「んみゃっ!?ちょ、ちょっとどうしたんだいそーりゅう?」
深い翠の瞳が見開かれた。改めて見ると本当に綺麗な色だ。
「サミはこの部隊に来るまで何してたんだ?」
「え?基本的には冒険者について回ってたよ・・・・・・んぁ、な、撫でながら続けるのかいこの会話」
口では拒否しつつも、猫耳を撫でる手を払おうとはしてこない。ほらほら、ここがええんか。
「んんっ・・・・・・まあ、その人たちも死ぬか捨てるかで僕から離れていってしまったけどね」
溜息混じりの呟きには、なんの感情も込められていない。
「悲しくは無いのか?」
空っぽの声音に、思わず無神経な言葉がついて出てしまったが、サミは気にした様子もなく続ける。
「その時は独り残された自分に堪らなくなるけどね、まるで自分が必要ない存在みたいな気がして。でも、次に使ってくれる人を見つければそんな気持ち忘れてしまうよ」
違和感。俺とサミの間に致命的なまでの認識の齟齬を感じた。
「死んだ人に対しては?」
「え?」
「いやだから、死んだ人に対して悲しいとか」
首を傾げるサミは、本当に言葉の意味が理解できないらしい。
なるほど、少しコイツについてわかった気がする。
「お前メンヘラだろ」
「めんへら?なんだいそれは?」
「自分大好きな奴のこと」
とんでもなく嫌味っぽくなったが、まああながち間違いではないだろう。
「それは普通のことだろう?誰でも自分が1番なのさ。ボクは人に使われるために作られた。存在理由を欠かないのに必死なんだ、ボクから見れば、寧ろそこのシルヴィアとかヤミリーとかが抱く、好きって感情の方が余っ程不思議だね」
正論カウンターが痛い。
確かに自分大好きなのは誰でもだ。人類皆メンヘラ。
しかしそうなると、コイツは俺が死んでも、俺を忍んではくれないらしい。泣きそうだわ。
「俺は・・・・・・」
「?」
オレンジ一色の日の出の空に目を向けながら、俺はボーッと話す。
「俺はサミが死んじゃったら、凄い悲しいけどな」
「・・・・・・そーりゅうって、変わってるね。ホムンクルスに情を抱くなんて」
「サミはサミだよ。俺の仲間だ」
「・・・・・・もしかして口説かれてるのかな、ボクは」
「なんでそうなんだよ!」
揶揄って笑うサミに嘆息しながら、頭の片隅でサミの人間らしさを感じ取る。
やっぱ、サミはサミだよ。間違いなく。
「ボクはボクなんて初めて言われたなあ。ちょっと嬉しいかも」
チラリと、サミは俺の膝を枕にする白髪を一瞥する。
「そうか、彼女らの気持ちが、少し分かったよ」
「というと?」
「自分の次くらいにそーりゅうが好きになったってこと」
突然過ぎる告白に戸惑うが、自分の次とは高いのか低いのか。
その真意についてその後も問い詰めてみるものの、上手い具合にはぐらかされて、結局言葉に込められた意図、想いを知ることはできなかった。
そう、その想いの丈を、サミにとって自分以外に愛着を持つというのがどれほどの事なのか、俺はまだ知らなかったのだ。