020 スケルトンより味方の方がやばい
遅くなりました。
そしてクエストは2話で終わると言いましたが、終わりませんでした。なんででしょう。
最初こそ一面を埋め尽くしていた白の軍勢は、今ではちらほらと点在するばかりになってしまった。
明かりを灯す炎の残滓と抉れた地面が、荒れた墓石群を更に酷いものと変えている。
蹂躙ってこういうことを言うんだなぁ。
ろくな連携もなく、むしろ足を引っ張りに引っ張りあって尚、狂化個体をここまで一方的に削り尽くした。個々の能力の高さが伺える。
勇者いらないと思います。はい。
残った僅かのスケルトン達も攻めあぐねている。カタカタ揺れる細身は、如何にも恐怖に震えているようだ。
「フフ、やっぱりボクが一番そーりゅうの役に立つんだ。フフフフ」
「・・・・・・蒼流、どう?いっぱい、倒したよ?」
「あはぁ♡蒼流様♡蒼流様♡」
これ勇者パーティーってマ?
バーサーカー集団なんだけど。お前らの方が狂化かかってんじゃねえの。
「もう早速やになってきたわこのパーティー」
黄色髪を揺らしてリリエルが溜息をついている。
しかし悲しきかな、国際的に決められたパーティーなのでよっぽどの事がないと抜けられないのだ。ざまぁwwww。お前も道連れだwww(勇者)。
ひとしきり胸の内で不幸少女リリエルを嘲笑った後、改めて状況確認をと、辺りを見回す。
・・・・・・なるほど、ヤンデレ三人衆の周囲は全て殲滅し終わっている。残るスケルトンは専ら俺に群がってきている。
・・・・・・なんで?
他四人には一切の脇目も振らず、ジリジリとにじり寄ってくる。
もしかしたら化け物並の女性陣を諦めて最も雑魚そうな俺に標的を定めたのかもしれない。こいつら頭いいな。
だがしかし、俺もそろそろ自分の力を把握しておきたい。
腰に下げた聖剣を引き抜く。
「悪いが実験台になってもらうぜ!」
「──だ、ダメだよ!!」
「むむむ無理をなさらないで下さい蒼流様ぁ!」
「・・・・・・だめ」
びっくりするぐらい止められちゃったんだが。
凄い形相で駆け寄ってくる。全員もれなく顔面蒼白だ。
「な、何で?もっとボクを使っておくれよ。ダメだよ自分で戦っちゃ。ボクを、ボクをもっと使い潰して!」
「もし蒼流様がお怪我でもなさったら・・・・・・ああああ!!!わたくし、正気を保っていられる自信がありません!どうか考え直して下さいませっ!」
「・・・・・・蒼流、足りなかった、の?・・・・・・大丈夫、すぐに、残りも片付ける、から・・・・・・ね?蒼流、いるだけでいいから。それだけで、私頑張れるから」
過保護かよお前ら。戦わせてくださいお願いします。
ほら見てこれ、聖剣。凄いから、パワーアップするから。多分余裕で倒せるから。
必死で自分の有用性をアピールする。
なんで戦いより説得に力を割いているんだろうという疑問が浮かんでくるが無視しよう。
「「「・・・・・・じゃあ、一体だけなら」」」
渋々と、本っ当に渋々と一体に限り許してくれた。
まあ、倒せるだけ妥協しよう。たかが一体されど一体だ。
「大丈夫なの?」
リリエルが首を傾げてきた。
俺がつい最近この世界に転生してきたことを知っているようだし、純粋に心配してくれているのだろう。
「フッ、心配すんな。見せてやるよ、聖剣の実力ってやつを」
俺の実力では断じてない。
腰を深く落として聖剣を引き絞った。
刺突の姿勢。
視線の先で揺れるスケルトン。
狙うは脳天。一撃必殺を叩き込む。
地面を踏み抜き、膝のバネで飛び出した。
風の壁が叩きつけられる中、聖剣を前へと突き出す。
爆速で流れる景色。
やはり速い。
・・・・・・え?速すぎね?
周囲の情景の輪郭を捉えることすら不可能な速度。まるで制御が効かない。
減速できない。
一秒とかからずに、棒立ちのスケルトンの眼前へと辿り着く。
──が、
聖剣に振り回されるだけの俺は、スケルトンに掠ることすらなく、その横を通過した。
うそん。
当然そのまま飛んでいく。
スケルトンからすれば真横を突風が駆け抜けた程度の認識なのではなかろうか。
墓石群を突っ切って進む進む。
一体何処で止まってくれるんだろう。
聖剣を構えたまま飛んでいく。・・・・・・遠くの方で、岩が見えた。
あ゜。
岩は急速に大きくなっている。近づいているのだ。
減速などしないまま、大岩にぶち当たった。
爆音と粉塵。
あまりの衝撃に耐えかねて、岩には太い亀裂が縦断している。
「──ゴホッゴッホ、痛ぇ〜」
砂煙の中から這い出でる。
そして、何かによろめいた。
「ん?」
半ばで断ち切られた紐、というか綱。そんな物が足の下に。
よくよく見てみれば、綱には数枚の御札が貼り付けてある。
通常墓地にある筈も無い巨大な岩と、それに巻かれた札付きの綱。
・・・・・・これって、もしかしなくても封印的な奴じゃ──
思考まもなく、亀裂から眩い光が噴き出した。
大岩を縦に割る光は、薄気味悪い墓地を昼間の如く照らす。
「そーりゅうッッッ!!」
「蒼流様ッッッ!!」
「蒼流・・・・・・!!」
「離れなさい!」
光に内包される強大な力を機敏に感じ取った四人が吠える。
しかし、尋常ならざる鬼気迫る表情にも、清水蒼流は動かない。
まぶちい・・・・・・。
というかそもそも、その表情を見ることもできなかった。
目の前がめっちゃ光ってるからね、仕方ないね。
しかも、光の出処で一際激しいはずの力も、全く感じれてなかった。(鈍感系主人公)
なんかやったら叫んでんなー、くらいにしか思ってないのだ。やば。
激光の中で、縦に一本だった亀裂が、さらに岩を侵食した。
横へ斜めへと、蜘蛛の巣を広げるようだ。
すぐに岩全体を包み込んだひび割れからも、細かい光が溢れ出す。
さらにまぶちい・・・・・・。
次の瞬間、大岩が破片を散らして砕け散った。
閃光が瞬いた後、光はフェードアウトしていく。
いつの間にか、シルヴィア、サミ、ヤミリーが俺を庇って立っている。
背後にはリリエル。
全員気を張って武器を構えている。
それもそのはず、光は収まったものの、力の奔流は未だ健在。どころか、更に大きくなったのだ。
そして、その源が目の前にいるのだから。
そう、そこには女性が片膝を着いていた。
漆黒のシスター服。淡く煌めく黄金の髪。男の欲情を誘う豊満な胸。
恐るべき美貌。だが、それらよりもっと目を引く物があった。
彼女の背中から伸びる、一対の黒翼だ。
鳥のことなどろくに知らないが、それでも一目で見事と分かる、立派な翼。
綺麗な羽だ・・・・・・。とても目が惹かれる・・・・・・・・・・・・いやおっぱいでっか!!
やっぱおっぱいのほうが気になるわ。だって大っきいんだもん。
ヤミリーと互角、いやもしかしたらそれ以上かもしれない。
心が跳ねる。お胸も跳ねる。
一人舞い上がっていると、件の女性がゆったりと顔を上げた。
ツリ目気味の瞳。威厳と威圧感に満ちた透き通った紫、アメジストを想起させる。しかし今は、微睡みから覚めたように朦朧としている。
静寂の後、彼女が茫然と呟いた。
「──かみ、さま?」
光に飲まれがち主人公 清水蒼流




