018 普通に犯罪
投稿が遅れたと言うより、俺たちが速く進みすぎたと言う方が適切なのかもしれない。
夜の帳も落ちて、明かりのない自室で瞼を閉じる。
一緒に冒険していく仲間もできて、これから本格的に勇者として動き出すことになるだろう。
期待二割不安八割で夢の世界 (悪夢) に潜ろうとした時、不意に腹を押し潰す圧迫感を覚えた。
「なんだ?」
重い瞳を擦りながら腹の上を見てみる。
「やあそーりゅう、こんばんは」
俺の上に寝そべる形で、サミが昏い瞳を向けていた。
叫んでいい?
ホラーじゃんもう。
「まだまだ夜はこれからだよ」
ファーwww寝てえwww
こちらの感情など意に介さず、薄い笑顔でサミが服を脱ぎ出した。
白い肢体が顕になる。
その手には何の躊躇もない。
ファーwwwジョニー起きちゃったwww
不屈のジョニー (準レギュラー) が朝と勘違いしてしまったようだ。もう、勘違いしないでよねっ!
そうこうしている内にサミは完全に服を取り払った状態になって寄りかかってきた。
「ねえそーりゅう。ボク、そーりゅうだけの物になるよ。だから、いっぱい愛してね?」
サミの双眸が間近まで迫る。
窓から差し込んだ月光が、サミの眉目秀麗な顔立ちを濡らし、息を飲むほど美しく彩ってしまう。
とても、幼女とは言えない色気が出ていた。
ただ一点、今朝は透き通っていた瞳は、濁り影を落としている。吸い込まれそうな虚ろ。
絶世の美女の裸の誘惑。
それを前に俺は、
俺は·····
「·····萎えちゃった」
「え?」
「不屈のジョニーが、萎えちゃった」
ロリコンに定評があるジョニー。イエスロリータノータッチ条約も超えたジョニー。それでも俺は、目の前の女に情欲を抱けない。
「お前の目には愛が無い」
仮にもシルヴィアとヤミリーの愛情、それも狂愛の類を常日頃から受けている身だ。ヤンデレソムリエなのだ。
彼女の虚ろは愛ではない。
そこに浮かんでいるのは自棄だ。
何もかもを諦めて、自棄が色濃くこびり付いている。
「自分をもっと大切にした方がいいぞ」
サミの目が見開かれる。
まさか夜伽を断られるとは思わなかったのか。
「キミに何が分かるんだい」
身勝手に安い言葉を並べられた恨めしさが睨みを利かせてきた。
「〝自分〟なんてものボクにはないよ。ただ言われたからここにいるだけだ。生きる意味なんて持ち合わせちゃいない
だってボクは人造人間なんだもの」
ホムンクルス、人工の命、人工の魂。
壊れた笑顔で吐き出された言葉は、想像もし得ない事実だった。
「巨大な水槽の中で生まれて、毎日身体を弄り回された。一緒に生まれた奴らは人の形を保ててない奴と自我がない奴ばかりだ。羨ましいよね、こんな辛い思いをしなくていいなんて」
自分の素性を吐露するサミに、俺は返す言葉を失った。
空虚な笑みは酷く悲壮に写っていて心に刺さる。
彼女の人生、辛さなど知り得ない俺に何が言えるだろうか。
だから俺は強硬手段に出た。
「ホワチャァアアアアアアアアアア!!!!」
サミの藍色の髪に手を置く。
もうなんか色々分かんなくなっちゃったから、必殺・全力頭ナデナデを発動した。
もう、本当に分かんなくなっちゃってるね。何やってるんだろうこれ。
「ちょ、えぇ!?急に何するんだい!?」
「うるせえ!ここがいいんだろ!」
「んきゅぅうううううう!!」
手触りのいい猫耳も纏めて撫であげる。
髪を掬ったり、頭皮をなぞったり、頭の輪郭に沿って滑らしたり、ポフポフ軽く叩いてあげたり。
嬌声を漏らすサミを決死の形相で撫でまくる。
あやふやにするんだ!この暗い空気をあやふやにするんだ!
持ち得る全ての技量と覚悟と集中力で手を動かす。
「ぁぐ·····まっ、そこっ·····ひゃぅぅん♡♡♡」
涎を垂らしてサミがノックダウン。俺は勝った。
「くくく、俺にかかればこんなもんよ」
サミは息絶えだえで心ここに在らずと虚空を眺めているが、暫く戻ってこなさそうだし、深夜も回っているため、俺は静かに瞼を閉じた。
普通に犯罪とかは言ってはいけない。
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朝、心地の良い陽光と小鳥のさえずりで目を覚ます。
腹の上には、全裸のサミ。
普通に犯罪とかは言ってはいけない。
そしてもう一つ、柔らかな温もりが俺の左腕を温めている。
指を動かす。
ムニッという感覚の中心で、コリコリとした固いものを転がす。
布団の中から、んっ、と微かに甘い声が漏れた。
「·····蒼流、えっち」
毛布を這い出てきたシルヴィア。いつもの無表情ながらほんのり頬に朱が差している。よかったちゃんと服着てる。
·····ふう、一旦落ち着こう、冷静に思考しろ。さっき俺はシルヴィアのどこを触った──もとい一揉みしたのだ?
いや、まさか、いや、でも、柔らかくて、コリコリしたやつって、いや。
いくら平坦な体つきで在らせれるといっても、そんな、いや。
「·····蒼流、もう一回」
な、なにぃいいいい!?痴女か!?痴女なのか!?
「もう一回、おへそ·····くりくり、して·····」
シャツを半ばまで捲って愛らしいおへそをご開帳。
くそう!!童貞を弄んで楽しいかちくしょう!·····てかそれ俺のシャツじゃね?彼シャツってやつ?やだいつ盗ったの訴えるよ。でも結局もみ消されそうだな、ん?揉む?ちくしょう!!
目じりに溜まる水滴を袖で拭きながら片手間にシルヴィアのおへそを弄くり回す。
「──んっ、ひゃっ」
·····少し待て、ちょっとエロいぞ?
「あっ·····しょこっ·····」
ちょっとエロいな。
「ひぅ、気持ちぃ·····」
ちょっとエロいな!!
満足しましたありがとうございます。
「それで、なんでお前ここにいんの?」
ちょっとエロいシルヴィアを堪能した後、疑問を呈す。
やめろ、へそを俺の指に摩りつけてくんな。
「·····この、女が·····蒼流に、しっぽ振ってた、から」
ポツポツと喋り出すシルヴィアの瞳は、酷く冷たくサミを睨んでいる。
「八つ裂きに·····しようと、思って·····」
「うんちょっと待って?」
「蒼流に、媚び売って、すり寄って·····ほんと、浅ましい、よね」
「あれ?聞こえてない?てかお前も現在進行形でへそをすり寄らせてきてるけど?」
「·····でも、やったら、きっと、蒼流起きちゃう·····」
起きたら目の前血の海って怖いね。斬新なドッキリだ。叩かれてしまえ。
「だから、先に、ちょっとだけ·····添い寝、した」
「そしたら本当に寝ちゃったと」
シルヴィアが首肯する。
なんでもない事のように普通に犯罪話を淡々と説明してきた。チビりそう。
「じゃあ、今から·····殺るね」
「やめて」
ベッドに横たえていた彼女の剣を抜くまでいったものの、俺の一声で渋々抑えてくれた。
そんな目で見てもダメです。普通に犯罪です。