016 ゴブリンくん。僕ら、仲間だよね·····?
緑の肌に醜い顔、下品な嗤い声。
女性はゴブリンに生理的嫌悪を禁じ得ないだろう。
俺だって嫌悪しちゃうもの。うふ♡
肌色の肌に平凡な顔、気持ち悪い笑い声。
女性は清水蒼流に生理的嫌悪を禁じ得ないだろう。
「つまり、僕たち仲間だと思うんだ!」
十メートル程離れた位置にいるゴブリンくんに語りかける。
「GYA,GYAHI·····」
案外効いちゃったんだけど。
「そう、だから武器を下ろそう」
俺の言葉に従って、振りかぶっていた石器的な武器をゆっくりと下げていく。
殺し合いなんて良くないよ。みんな仲良しなんだ。
ゴブリンくんが完全に武器を下ろした。
──今だ!!
「誰かぁあ、助けてぇええ!!!!」
「GYA!?」
あらん限りの大声を出す。
馬〜鹿め、これで俺の勝ちだ!
「··········」
「··········」
数秒、あちこちで起こる剣戟の音だけがこだまする。
「·····僕たち、仲間だと思うんだ!」
そう、俺たちは仲間。裏切ったりするのはよくないと思う。
「GYAAAA!!」
「──ヒィ!!」
ゴブリンくんが怒り心頭で迫ってくる。
ど、どどどどうしどど!??
ととととりあえず逃げ
「──ぅ、ぅうん」
後ろから声がする。
幼い女の子の声。
彼女は逃げられない。でもここで俺逃げなきゃ結局二人とも死ぬ。俺だけ逃げれば。
逃げれば。
逃げ··········
れないじゃん!幼女置いて行けないじゃん!ペロペロしたいじゃん!
涙目になりながらやけくそ気味に腹を括る。
念の為にと嫌々持ってきた聖剣に手をかけた。
な、舐めるなよ!?こちとらこれが初抜刀だ!
鞘から、聖剣を抜いた。
·····あれ?全然重くない。
不思議と手に馴染む聖剣。
何か、体の内側から未知のパワーが湧いてくる。
何だろうこれは、なんでもできそうな気がする。
ゴブリンくんは、まだ辿り着いていない。
全能感に包まれながら、俺は強く一歩踏み出した。
次の瞬間、俺はゴブリンくんの目の前にいた。
「GYA!?」
驚愕に目を染めるゴブリンくん。
それ以上に、俺はとんでもなくビビってた。
は、はっやッ!!!?顔ぶわってなった。ぶわってなった!!
焦りに歪んだ緑の顔が、大きく石の斧を振りかぶる。
狂化個体、一挙一動が速い。当たれば即死も有り得てしまう。
「ぅ、うおおおおおおおおおお!!!」
恐怖を跳ね除けるように叫んだ。
姿勢を低く下げてゴブリンの懐に潜り込む。
剣の振り方を知っている。
聖剣の夢の中、大英雄の戦いと血に塗れた人生を最も間近で見た。殺し合う相手に、情けなど口にしていられない。
幸い、謎のパワーアップを遂げた身体は、イメージ通りに動いてくれた。
「GYA!?」
脇腹から横に薙ぐ。
肉を断ち切り骨を砕く感触が直に伝わってくる。
「ふぬあああああああ!!」
気持ち悪さに吐きそうだ。
刃がするりと進み、やがてゴブリンの上半身が落ちた。
紫の血が立ったままの下半身から噴射した。
ナメクジ星人かな?
「ぶふっ」
突然の噴出に顔にモロに食らってしまった。
粘り気のある液体だ。
「グっロ·····」
お昼ご飯が逆流してきた。すまぬヤミリー、お前の手作り弁当がこんな姿に。
·····後からシルヴィアに聞いた話だが、ゴブリンはわざと相手を油断させて攻撃してくることがあるという。危ないね。
■■■
ゴブリン討伐作戦は成功した。討伐隊に死者は出ていない。怪我人は数人いるもののどれも軽傷だ。
俺のスーパー〇イヤ人現象は、聖剣を鞘に収めた瞬間終わった。剣を抜いてる時にしか発動しないらしい。ぴえん。
俺たちは村人たちが避難した隣村まで足を運んでいる。
討伐完了の報告と、俺が助けた幼女を渡しに来たのだ。
そこでは驚いたことに、村民の大部分が避難に成功していたらしい。なんでも、村の兵士たちが文字通り命を賭けて時間を稼いだお陰だとか。
幼女の足は完全に潰されていて、回復の見込みは絶望的と、鎮痛を施した治癒魔法士に言われてしまった。
命があっただけでも儲かり物と笑う幼女はどんだけ成熟してるんだと感心したものの、それ以上に悲しくなる。あまり抱え込まないようにと抱き締める。
何故か幼女の身体が震えて息が上がっていたが少し強く抱擁し過ぎただろうか。
車椅子に乗せて幼女を親御さんの元まで届けると、親御さんに泣いてお礼を言われた。
「おにぃちゃん、ありがとぉ!」
今度は幼女の方から抱きついてきた。
ちょっと、いやかなり、いんやとんでもなく嬉しかった。そしてほっぺがプニプニだった。ゲヘヘ。
自分が助けた小さな少女を見て、柄でもなく泣きそうになった。外見はクールを保っていたが、心の中では大号泣だった。あびゃぁああああああびょぇえええええええ!!
「おにぃちゃんだいすきっ!」
この瞬間俺はお兄ちゃんとなった。
聞けば今夜はここで夜を明かすらしい。
散った者たちへの追悼の後、二つの村の住民と討伐隊が合わさって大晩餐になる。
昼食の分を取り戻すように食べまくり、あーんをねだってくるシルヴィアとヤミリーの相手をしたり、幼女と交流を深めたり、大腿二頭筋コンテストを鑑賞したりと、散々騒ぎに騒いだ。
朝、布団の上で目が覚める。
右を向けばシルヴィア。
左を向けばヤミリー。
腹に違和感を感じて布団を捲れば、俺の上に幼女が乗っていた。
服を着ているのでドッタンバッタンはしていない。危うく犯罪者になるところだったぜ。
ハーレムだポヒョヒョヒョwwとテンション上がったが、うち二人が地雷持ちだったと思い出してテンション下がった。ポヒョヒョ·····。
しかしテンションの高さと男の生理現象は関係ないのだッ!!
三人が起きないことを願いながら、不屈のジョニーに語りかける。
鎮まれジョニー!
〈おいおい、据え膳食わぬはお〇んちん悲しいって言うだろう?〉
馬鹿野郎!イエスロリータノータッチ条約を忘れたか!?〇すぞ!〇ね!いやむしろ〇ぬ!
〈oh·····〉
流石の不屈のジョニーも、イエスロリータノータッチ条約には敵わない様子。
不屈のジョニーは小心者なのだ。だから童貞なのだ。
その日の朝村を発つ。
「おにぃちゃんまたね!」
サヨナラ幼女、また逢う日まで。
小さくなっていく村。見送ってくれる多くの村人たちに紛れて、車椅子に座る幼女が身体いっぱいを使って手を振っている。
·····あれ?兄ちゃん幼女の名前知らないんだが?そんなことある?
■■■
討伐隊が去った村、その一角。
「おにぃちゃん·····だ〜いすき。私をすくってくれたおにぃちゃん。──ふふ、おにぃちゃん·····おにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃんおにぃちゃん♡♡♡·····ふふふ、だ〜いすきだよ、おにぃちゃん♡」
頬を紅潮させ、瞳は虚ろ。
車椅子が、ギシリと軋んだ。
ホントはこの幼女ヤンデレにする気無かった。でも気づいたらヤンデレになってた。つまりそういうこと。