013 大丈夫大丈夫、うち風通しいいからさ☆(愛情ブラック)
ひゃっほぉうヤンデレだあ!
「ぐ、ぅぅぅぅ·····ひぐっ、ひっ」
「はぁ、はぁ、はぁ、ウェヒ、ウェヒヒヒヒ」
とっても風通しに優れた3人の男女。
男はその部屋にかろうじて残った椅子に腰掛けている。
眼前には、普段の無表情を歪め泣きじゃくる白髪少女と、なんかもうすっごい興奮してる赤髪少女が正座中だ。
経緯を説明すると、少女たちが怪獣大戦争を始めた止めた叱ったそして現在に至る。
「ご、ごめ、なさい·····そうりゅ、ごめ、ぅぅぅ、捨てられたく、なぃ·····がんばる·····がんばって、そうりゅうの役に立つからぁ·····」
「ああ!そのゴミを見るような目!ああ!あああ!」
もう病院行けよお前ら。
取り敢えずさっき叱ったので言いたいことは言えたし溜飲も下がった。
立ち上がって見るも無惨な扉があった場所へ歩き出す。
修理って、何処に言えばいいんだろう。
「あ·····待って、そうりゅ」
「取り敢えず、ソウレスさんにでも聞いてみ──ブホァっ!」
何かに足を取られた。
予想だにしない攻撃に、俺は顔面から地面にダイブ。とっても痛いよ。
「お願い、します·····そうりゅぅ、見捨てないで·····見捨てないでぇ」
地面とチュッチュしてる顔を起こすと、俺の片足にシルヴィアが巻き付いていた。
いつもの透き通るような白い肌が、今は不健康な青白い色に見える。
「何でも·····何でもするから·····」
「──ん?今何でもって?」
え?何でもって、え?もしかして、え?え?エッッッッ!!
「あ、じゃ、じゃあ·····ここ、すぐ直す、い、急いで直したら·····許して、くれる·····?」
な、なんだこの目は!?純・新・無・垢!!く、そ、そんな瞳で見られても、俺は、俺はッ!!
「うん、許しちゃう」
世界って、綺麗だな。
透き通った瞳に心を洗われた俺は、仏の微笑で答える。
シルヴィアの不安に揺れていた双眸に、一瞬で喜色が広がった。
「ほ、本当·····!?──が、頑張る。私、頑張るね」
シルヴィアが口元を吊り上げて歪に笑う。
逸る気持ちですぐさま駆け出した。
「え?そっちはドアじゃな──」
ガシャンッ!!
何故か窓を突き破って飛び出すシルヴィア。
「ことごとく俺の部屋を破壊していく!?」
王城でもかなり高くに位置する部屋だが、シルヴィアには関係ないようで、屋根から屋根へと器用に跳んで行く。
「えへへ、許して、貰える。許して貰える·····!蒼流、やっぱり優しい·····他の奴らなんかとは、全然違う·····えへへ、蒼流·····蒼流、蒼流蒼流蒼流蒼流·····えへへ」
空を舞う白髪。
その美しさとは裏腹に、顔は狂気の笑顔を浮かべている。
溢れ出た〝愛〟は誰にも届かず宙に溶け、
開かれた瞳孔にはどろりとした何かが渦巻いていた。
■■■
椅子ぐらいしか残っていない部屋。
先程窓も割られた。飛び降りるならせめて壁に空いた穴から出ろよ。
しかしこれはシルヴィアが修理業者を呼ぶかなんかしてくれるので、彼女が戻ってくるまで少し待とうか。
「あはぁ♡」
紅玉の瞳がこちらを穴が空くほど見つめてくる。
·····何この人。
「あ、そう言えばヤミリーはなんの用で俺の部屋に来たんだ?」
まさかシルヴィアとドンパチやるためだけに来た訳では無かろう。
もしそうだとしたら本当にやばい人だ。
「そうでした♡実はわたくし、この度〝特別狂化対策部隊〟に配属されることになりました♡」
お前語尾にハート多くね?
「その〝うんちゃらかんちゃら部隊〟ってなんだ?」
「もう、王の間での話聞いてなかったんですか?可愛いです♡」
なんだコイツ。
「〝特別狂化対策部隊〟とは蒼流様を隊長とした、今回の魔物凶暴化の騒ぎを解決するために動く部隊です。現在〝対狂化大同盟〟から人員を選出中なので本格的な活動は少し後になると思いますが」
「ああ、確かに王様に〝うんちゃらかんちゃら部隊〟の隊長に任命されたな·····でもなんでヤミリーが配属されることに?王女なのに危険なとこに行っていいのか?」
戦闘能力はさっきので申し分ないことは承知しているが、それでも彼女は第一王女というとんでもな身分だ。無闇に危険な部隊に入れさせていいわけが無いはずである。
「お父様に直談判しました♡」
あの強面のおっさんに直談判とか正気じゃねえぜ。
「どうしても、蒼流様と一緒にいたかったので·····」
「·····今日が初対面、だよな?」
ここまであからさまな好意を向けられれば童貞の俺もさすがに気づいちゃう。しかし会ったのは今日が初めて、まず転生したのが昨日だ。一日二日でこの好感度の高さは並々ならぬ理由があると見えた。
「わたくし、蒼龍様に」
張り詰める雰囲気、思わずかたずを飲んだ──ごくりんちょ。
「一目惚れしてしまいまして♡」
「予想以上にどうでもいいッ!!」
「貴方様を目にした瞬間、このお方こそわたくしの全て、勿論命さえもお捧げするに相応しい。わたくしは清水蒼流様に傅く為に産まれてきたのだと痛感させられまして」
「一目惚れに本気出しすぎだろ!???」
想像より遥かにメルヘン脳なお姫様ならしい。
よく見れば目の奥にハートが浮かんでいるのが見える。
一目惚れで〝うんちゃらかんちゃら部隊〟とかいう危険部隊に足突っ込んでくるとか·····てか名前覚えずらいんだけど。
「分かりました。今すぐ正式名称を〝うんちゃらかんちゃら部隊〟に変えさせてきます」
「思考読まないで?そして絶対やめろよ?〝うんちゃらかんちゃら部隊隊長〟とか恥ずかしすぎて歩けないから」
穴だらけの部屋に二人。
どうしてこんなに疲れるのだろ。
とても風が、冷たかった。