011 溢れるリビドーぶちかましていくぜいぇあ。
最早おっぱいって言いたいだけ。
ヴァンゴ王の話を聞き終わった(聞いてない)俺は、自室で慣れない白いベッドに腰掛けながら、膝に聖剣を横たえている。
後ろで枕に顔を埋めてパタパタ足でリズムを刻むシルヴィアたんを感じる。ベッドに残り香とか移るのかな。すっごい気になる。
さり気なく鼻を動かすと(童貞)、お花の香りが漂っていた。
「・・・・・・ふぅ」
そんな残り香とか今はどうでもいいんです!(賢者ァ)
煩悩を追い出す。冷静な心で聖剣に向き直った。
聖剣は動かない。ただひたすらに静謐を貫いていた。
おっかなびっくりにつついてみる。
反応はなく、黄金の刀身は電灯の灯りを返すだけだ。
コイツは結局なんなのだろう。
意志を持つ剣。
「・・・・・・なあシルヴィア」
枕から顔を上げて、無表情のまま首を傾げた。
「この世界には自我を持った武器とか存在すんのか?」
こういうのは現地人に聞いた方がいいに決まっている。
「噂、だけど。・・・・・・数年前、ザクスザガンで、心を作る研究が、あった・・・・・・とか?」
ザクスザガン。機械国家。
人道問題は抜きとして、心を作る研究・・・・・・もしかしたら聖剣もそこで作られたとか。あ、でもこいつ何百年も前にあった剣じゃん。昔にも同じことしてたやついたのだろうか。
「でも、なんで心なんて作ろうとしたんだろな」
「──さあ」
シルヴィアは再び枕に顔を落とす。
深い呼吸音がこちらまで聞こえる。何をやっているかは考えないことにした。
「蒼流の·····匂い·····」
考えないようにしても無駄だった。
「安心、する」
よかったね。
相変わらずの不思議ちゃんだ。どういう思考をしているのか疑問である。
することも無くただ呆然と膝上の聖剣を眺めてはや数分。
部屋の扉が三度ノックされる。
「はーい」
来客に立ち上がる。聖剣をタンスに立てかけドアを開ける。
「どちら様で──あれ?」
そこに立っていたのは、おっぱいだった。
いや失礼、正確には豊満なお胸を携えた赤髪の美少女。先程の王の間で王様の後ろにいた人だ。
「わたくし、キャメロット第一王女のヤミリー・ヴィール・コンスタンティンと申します。以後お見知りおきを、清水蒼流様♡」
一目で一級品だとわかる真紅のドレスの裾を摘んで一礼。鮮やかさまで含んだ所作は完璧に板に付いている。
しかし何故だろう微かに違和感を感じてしまうのは。
「お、王女!?──こ、これはこれは、あっしごときになにか御用でしょうか」
王女という位に驚愕する。取り敢えず媚びへつらっておこう。
「もぅ、そのようなよそよそしい態度はおやめ下さい♡」
·····まただ。またこの違和感。なにか、彼女の声音にいやに好意が篭っている気がしてならないのだ。もしかして俺に気があるのかな (童貞)。
しかしあくまで気がするだけ。明確なな根拠など何処にも無い。
そんな不確かな感覚に眉を顰める。
「·····取り敢えず、入ります?」
「はい♡」
王女様を立ったままにしとくのは流石に拙いだろう。
部屋にある一番高級そうな椅子を引っ張り出して差し出す。
「いえいえお構いなく、わたくしは床で十分ですので蒼流様がおすわり下さい」
「何を言ってるんですか貴方は」
本当に床に腰を下ろす勢いの王女様を、肩を掴んで少し強引に座らせる。
肩に触れた瞬間、彼女の身体が大きく跳ねた。
あれ?これもしかしなくても不敬罪じゃね?
来たるお首グッパイに血の気がグッパイする感覚、ワタワタと手を引こうとした瞬間、
王女様が、爆速で俺の手を抑えてきた。
·····え?ちょいたいたいたい!王女様握力つっよ!?
万力パワーで板挟みにされるお手手。
そろそろ手の骨がグッパイおっぱいしちゃいそうだ。
「あの王女様?ちょっと手が痛いなぁ、なんて思う今日この頃なのですが」
「敬語なんてやめてください。わたくしと蒼流様の仲ではありませんか」
「俺と王女様の仲だから使ってるんです」
一層抑える力がアップする。
あれが本気じゃないとか。万力人間ベムベラヤミリーなんだけど。
「分かりました。──いや分かったから、王女様に敬語使うのやめるやめる」
「王女様も禁止です。ヤミリー·····もしくは雌犬とお呼びくださいませ」
「あんたマジで何言ってんの!!?」
しかし段々指先の感触も薄れていく。迷っている時間は残されていないらしい。
「分かった。──ヤミリー、これでいいだろ?」
「はい♡ゴミを見る目で吐き捨てる様に言うのがポイントですよ」
やっと両手が開放される。ヤミリーの言葉を無視して久々の外気に歓喜する。·····なんかラップみたいだ。外気に歓喜、いぇあ。
脳内で華麗にビートを刻んでいると、目の前が爆ぜた。
·····目の前が爆ぜた(大事)。
けたたましい轟音の後、俺の横スレスレを吹き飛ばされるヤミリー。
ドアと衝突。突き破って廊下へ投げ出された。後でドアは直るんだろうか。
「──蒼龍を·····傷つけた·····許さ、ない」
ベッドの上に、無表情ではあるものの瞳孔かっ開いちゃってる系女子シルビィアが、突き出した五指から薄く煙を立ち昇らせている。
こいつ王女に何やってんの。
「おやぁ?何やら羽虫がいるみたいですね。少々お待ちを蒼流様。直ぐに害虫を駆除してご覧に入れましょう」
多少の汚れは目立つものの、逆に言えばそれだけだ。
あの速度で吹き飛ばされて、怪我ひとつなく笑うヤミリーに、おしっこチビりそうだ。
怪獣大戦争インマイルームが始まろうとしている。
多分これを止められるのは俺だけな気がする。
俺は、
俺は──
「が、外気に歓喜。最近の天気。本気でファンキー·····いぇあ··········」
ラップに逃げた。