プロローグ01
なろう初心者の作品になります。
至らないところがあると思いますがよろしくお願いします。
●2062年 日本 国立東京特科第一高校●
1人の教師とつんざく悲鳴をもって事件は始まった。血だまりの中央で静止している教師と、全てを睥睨する黒ずくめの大男。男は重厚なライフルで武装している。
オーバーテクノロジーである特殊科学。世間では魔法と呼ばれるそれが公表されてから、世界情勢は一気に崩れた。破綻した国、新たに生まれた国あまたあれど、日本という国は米国と共に怒涛の時代を乗り越えた。資源の面では不安があるが、相変わらず平和な国、日本。そのはずだった。
国を挙げて警備していたはずの日本国立特科高校へのテロ行為。この国がどれだけ平和ボケしているのか、世界に知らしめられたのだった。
人の命が引き金一つで消える非日常に恐怖しない生徒はいない。嗚咽交じりに泣く者、虚ろに死体を見つめる者、ぷるぷると震える者。それぞれの形で恐怖に支配されている。
沈黙を守っていた男が、満を持して教壇に立つ。男は舞台役者のように優雅に一礼してみせると、ゆっくりと口を開いた。
「みなさんこんにちは。授業中に失礼します。突然ですが、今から皆さんに20分間自習をしてもらいます。明日は数学の小テストがあるそうですし、ちょうどいいですね。私からの要求はただ一つ。静かにしてもらうことです。そのまま座っていれば、先のデモンストレーションのようなことは起きません。それでは各自、自習を始めてください」
殺人を犯した者とは思えないほど、柔和な口調だった。フルフェイスマスクの下でいったいどのような顔をしているのか。口調に合った優しい顔をしているのか、はたまた全く感情を映していないのか。どちらにしても、男が狂人であることは自明の理だ。
私、川崎世純はこれほど人を軽蔑し、恐れたことはなかった。
●同年 日本海●
日本海上空を飛翔するティルトローター機に通信が入る。
『こちらレッドフラッグ。帰投中のアルファー・ワンへ緊急連絡。「code-00」発動。繰り返す、「code-00」発動。座標を送る。直ちに現場へ急行し、対応せよ』
「アルファー・ワン了解。直ちに急行する」
本部のコールサインであるレッドフラッグと操縦士の無線通話を聞き届け、貨物スペースに座った十人の男女に緊張が走る。
「code-00」とは、最優先の緊急出動要請を表す暗号だ。場合によっては国家存亡に関わる仕事になる。
俺は眉をひそめ、他九名の隊員たちに指示を出す。
「聞いての通り、緊急のタスクが入った。しかし、我々は既に一つの任務を終えた身。残り弾薬数と稼働できる武装を考えると、作戦への参加は3人が限度だ。よって、俺と、ヒュオン特曹、ミラ・クレイヴン特士のチームで臨む。いいな」
指示を聞くと即座に他9名が了解する。
何を隠そう、この航空機に乗る部隊を率いるのは俺――千田蒼士中尉だ。
今回作戦に参加するヒュオンとミラは両者とも俺と同年代、17歳前後。所属する組織の中でも、二番目に若い面子だ。
ヒュオンの出自ははっきりしていない。年齢も不明。ただ白髪碧眼のロシア系と見なされている。くりくりとした目や身長も小さいことから、この中では一番年下扱いだ。出会いは6年前になるが、それはまた別の話。
ミラは最近欠員補充でやってきた新入りだ。長い金髪に緑の瞳をしたイギリス人。おしとやかな性格に加え、回復術式を使いこなすことから男連中に聖女と崇められている。
少し時間を置き、機内の緊張も和らいだ。
「今回も千田劇場開演ですな」
緊急作戦に参加する俺たち3人を見て、隊員の1人が軽口を言った。決して嫌味ではなく、強い信頼のもとに許されたあいさつのようなものだ。
「部隊最年少の3人組による、美しい仕事ぶりをご覧あれ。ってね」
「ディック一士、戦場での油断は命に関わる問題だ」
俺は少し声のトーンを落とし、教訓の再確認をさせる。合わせて機内の温度も下がった。冷や汗を流すディックを見て満足した俺は、語気を和らげる。
「そんなディック一士からは、帰ったら観覧料を徴収しよう」
「そ、そんな⁈」
機内にわっと笑いが溢れ、今度は温度が上昇する。
ひとしきり笑った後、改めてディックが話しかけてきた。
「しかし、羨ましいですな。戦場でも両手に花とは」
俺はため息交じりに言う。
「何を言う。お前にはフィアンセがいただろう」
「違うのですよ中尉。若さには別の魅力が……」
「その辺にしておけ。ヒュオン特曹とミラ特士に……わかるな?」
俺に同行する少女2名の発する気配に、お調子者のディックも縮こまる。
また戦場へ駆り出されるというのに和気あいあいとした雰囲気だ。しかし、目標地点に近づくにつれて隊員の表情も引き締まる。
『レッドフラッグよりアルファー・ワンへ。とタロン部隊とアンバー部隊が応援に向かった。既に作戦空域にて待機している。タロンズ・ワンの指揮下に入り、偵察部隊の連絡を待て』
「アルファー・ワン了解。燃料計算の結果、待機は30分が限度。留意されたし」
『レッドフラッグ了解』
本部からの指示を受け、俺も行動に移る。
「突入隊降下用意!」
「「了解!」」
プロペラが空を切り裂く轟音の中でも、二人の復唱は勇ましく響いた。
どの生徒も恐怖に固まる中、私は指先に力を込めていた。
この状況の中で、誰も声を上げることができない。人が死んだのだ。私だって怖い。それでも、私たちはエリートと呼ばれ、様々な保護を受けてきた。学費全額免除。学園都市内の商業施設での好待遇。気にしたこともない生徒もいるだろうが、私たちは温室の中で優しく育てられてきたのだ。こういう時こそ行動しなければ、私たちは社会に対して本当に何も返せない。
「んっ………」
私は震える足を叱咤し、太ももをちぎって無理やり立ち上がる。椅子の足が擦れる音だけが残り、心臓が暴れだした。
「川崎、さん……?」
隣で親友である赤坂結が絶望を露わにしている。頭のいいあなたなら、こんなことしないでしょ? と責められているような気がした。それでも――自分可愛さで、目の前の男の非道を許すわけにはいかない。
「………」
発音したつもりが、舌にからめとられて外に出ない。立ち上がったのだ。今更後には引けない。何か言わなければ、間違いなく男に刈り取られる。
「……」
なぜだ。覚悟は決めたはずだ。それなのに口が言うことを聞いてくれない。足元から崩れていくように、身体の重心が安定しない。私はその場に倒れるような錯覚を引き起こす。
「どうか、しましたか?」
男はマスクの下からこちらを覗いている。
その腹立たしい声を起爆剤にして、
「ここッ……こんなこと、や、やめてください。ここは国の重要施設の一つ……です。すぐに救援が来ます!」
ようやく手先に血が巡ってきたようだ。アドレナリンが胸の底を突きあげ、次々と頭に言葉が浮かんでくる。これだ。こうなれば、私は強い。
「ここがどんな施設か知っているなら、私たちがどんな力を持っているかご存知でしょう? あなたがどれだけ強くても、ここはAクラスです。一対多では分が悪いはず」
男は沈黙の後、口を開く。
「日本国立東京特科第一高校。日本初魔法を必修化した学園。ここでは誰もが魔法を使う。その中でも選りすぐりの成績優秀者が所属するAクラス。つまりあなたは、勝ち目がないから引き下がれと?」
「えぇ、そうです」
男は大げさに嘆息してみせる。
「もっと賢い生徒さんかと思っていました。我々が無鉄砲にここを占領したと? 事前に情報を集めるのは当たり前。あなた方が今、魔(、)法(、)を(、)使(、)え(、)な(、)い(、)ということは分かっています」
私は徹底的な情報収集に唾を呑んだ。
今男が話していることは国家機密として秘匿されている情報だ。男が言った通り、私たちは今の状態では魔法が使えない。大気中に浮遊する「e-ca」に、プログラミングされた術式で作用を働きかける「Ee-caST(Eキャスト)」がない限り魔法が使えないのだ。問題はそれだけではない。
「校則第二七条第一項、演習、研究以外での魔法の行使を禁ずる。よって、各々が所有する「Ee-caST」は学校側が管理、保管する。でしたか? Aクラスの委員長であるあなたが知らないとは思えませんね」
「買いかぶりすぎです。私たち、そんなにいい子じゃないんですよ」
男は確実に真実を突いてきた。もちろん、私が言っていることは嘘だ。この学校において校則を破るような生徒はいない。
男は見透かしたように息を吐き、私は肺を絞るように息を止めた。
もうひとつ「神に殺され異世界転生」を投稿しています。よろしければどうぞ!
メインは上の作品なので投稿が遅くなることがあります。