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第十四話 ゆうきとゆき

 予定通り愛華と午後六時半に別れ、自宅に着くと午後七時を過ぎていた。

 いつもは一輝が玄関で待ち構えているのだが今日は母だった。


「萌絵、遅かったじゃない。何してたの」


「小学校の同級生と会ってた。っていうか遅くなるのは電話で言ったじゃん」


 母は軽くため息をつき「ご飯できてるから早く食べなさい」と言って台所に向かった。

 俺は先に自分の部屋に行って部屋着に着替え、ダイニングルームに移動した。

 ご飯はすっかり冷めて美味しさは半減していたが、作ってもらってる身でとやかく文句は言えない。

 

「萌絵、あんた最近帰り遅いけど気を付けなさいよ。人生何があるのわかんないんだから」


 いきなり人生について語られても…。はいはい、気を付けますよ。

 ご飯を食べ終えた俺は自分の部屋に戻り、読書に勤しむことにした。

 基本は出版されている本を読むが最近はweb小説も読み始めた。だがランキング上位の作品は下ネタが多い傾向がある(絶対ではないけど)。オーディオブックにしたらピー音(自主規制音)が出まくって全部聴けるかいささか怪しい。『下ネタは用法・要領を守って適度にお使いください』とページのどこかに明記した方がいいかもしれない。

 目が疲れてきたので一旦本を閉じて体を動かすと、長時間体を固定していたせいもあってかかなり凝っていた。

 明日はテスト一週間前だからそろそろ本腰入れるか。時間を見ようとスマホを見るとメールが来ていた。バイブならないようにしてたから気付かなかった。愛華か。

 

『明日も会いに行っていい? 無理なら無理でいいよ』


 …うーん。勉強に専念したいけどよく考えたら勉強漬けなのもなぁ…。学校のテストはほとんど暗記だから解き方覚えとけば悪くても七~八十点は取れる。決して自分を過大評価しているわけじゃない。


『いいよ。まだ訊きたいこともあるし』


『OK、じゃあ、また明日』


 俺はスマホの電源を切った。そういえばゆうきは元気にしてんのかな。小学生の頃はよく遊んでたな。

 翌日の放課後、昨日と同様に駅前まで歩いていると愛華の姿が見えた。


「萌絵、また会ったね」


「また会ったって…待ち合わせしてただろ」


「それはいいじゃん。今日はどこ行く?」


 駅中の喫茶店は昨日行ったし、ファストフード店はカロリーが高いから避けよう。値段も地味に高いし。


「なんなら私の家でもいいよ。場所は変わってるけどここからそこまで離れてないし」


 再会して二日目で家に訪問か…。でも少し気になるな。


「うん、そうする」


 愛華の家は駅から徒歩でおよそ十五分のところにあり、俺の家とは真逆の方向だった。そこまで離れてないという割には結構歩くな。


「ここだよ」


 愛華が指さした先には二十階はあるであろう高層マンションが建っていた。俺が小学生の頃は普通のマンションに住んでたのに…スケールが大きくなった。


「萌絵、入るよ」


 俺は愛華に促され、中に入りエレベーターで十六階まで上がった。高っ。

 

「ただいま」


 玄関を入るとすぐに横に洋室(?)があり奥にはリビングルームがあった。間取りのことは詳しくないけど、普通のマンションより広いのは確か。

 リビングに入るとソファーに私服の子が座っていた。ゆうきだ。ゆうきは振り向くと意外そうな顔をした。


「おかえり姉ちゃん…もしかして横にいるの萌絵っち?」


「久しぶり"ゆき"」俺は右手で口をふさいだ。


「萌絵っち、再会して早々その呼び方はやめてよ」


 五十嵐有希、本当は「ゆき」が正しいのだが本人がその呼び方をなぜか嫌っていて皆「ゆうき」と呼んでいる。愛華の一つ下の妹で幼いころは僕っ娘口調で喋っていた。今はどうかわからない。

 愛華と同様、髪の色はベージュだが髪型はポニーテールにしている。姉妹だからか顔立ちは愛華に似ていて身長は愛華より低い。


「ごめんごめん、まだ『ゆき』で呼ばれるの苦手だったのか。見た目は幼い頃とあんまり変わってないな」


「喋り方もね」愛華が茶化すように言った。


「別に僕がどんな喋り方してもいいだろ。萌絵っちはどうなの?」


「全然変わってない」


 俺が言う前に愛華が返答し、有希は目を丸くして小さく笑った。


「そうなんだ。僕は『俺』で喋る萌絵っちに慣れてるからそのままでいいと思う」


 いや、今後のことを考えると卒業するまでには完全に俺口調を直さないといけない。よく考えれば姉妹揃って僕っ娘ってすごいよな。小学生の時、二人とも「僕」で会話してたのが印象に残ってる。女子なのに。姉は僕っ娘卒業したけど妹は今も現役。


「ところで愛華とゆうきは同じ学校に通ってるの?」


「そうだよ。ゆうきはカズくんとよく喋ってる」


 俺が有希を見ると有希は目を逸らした。さっき見たときは完全な僕っ娘だったのに今は普通の女の子みたいな雰囲気を醸し出している。二重人格?


「余計なこと言わなくていいよ。一輝が話しかけてくるだけで私は…」


 あっ「私」になった。有希は顔を赤くして俯いている。こんなに照れてる有希初めて見た。愛華は何も言わず微笑んだ。

 小一時間話した後、愛華の家を出ると一直線に自宅に向かった。結構距離あるな。

 歩いてからおよそ三十分、ようやく自宅に着いた。今度行くときは自転車使おう。


「姉貴、今日は早いな。昨日七時過ぎてたのに」


「昨日は六時半まで愛華に付き合ってたからな」


「え。愛姉? どこで?」


「どこって駅の前だよ。一輝が教えたんじゃないの?」


「まあ、そうだけどホントに会いに行ったと思わなくてさ。愛姉、だいぶ変わってただろ?」


 一輝は心なしかすごく嬉しそうだった。もしかして…とは思ったがそれ以上は考えないことにした。

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