第十二話 報告と再会
五日間のゴールデンウイークが終わり、再び学校が始まった。
生徒の足取りは重く五月病発症者が多く見受けられる。社会人はもっと大変だろうな。
でも、学生にとって一番キツイのは夏休み後の九月だと思う。特に無駄に多い宿題は幽霊よりも恐怖。
閑話休題、ゴールデンウィークの間、バイト尽くしの由佳は軽い放心状態だった。
「由佳、大丈夫か」
「大丈夫に見える?」
うん、見えない。すごいやつれてる。
「最終日ぐらい休めばよかったのに、フルタイムで五連勤とか男でもキツイぞ」
「私の知ってる人は十五連勤だったよ。私はまだ少ない方」
十五連勤とか超ブラックじゃん。時間短くてもスタミナ切れるぞ。
「ねぇ、噂で聞いたんだけど、めぐちゃんと関野坂って付き...」
「しっ! その話はここでは禁止」
「え。なんで?」
俺は由佳の手を掴み、一緒に教室を出て四階まで上がった。
「萌絵ちゃん、なんで教室で二人の話しちゃダメなの?」
「関野坂がそのことで質問攻めに逢ってやっと落ち着いたばかりなんだ。今、その話を教室でしたらまた同じことになるかもしれない」
「考えすぎじゃない? 興味失せてる人多いと思うよ」
由佳、なかなか毒舌だな。まあ、その方が都合はいいけどどうなんだろうか。関野坂には一昨日、「俺と佐倉さんか付き合ってることは誰にも言わないでくれ」と釘を刺されている。騒ぎになるのが嫌だかららしい。杞憂すぎな感じはするが本人の意思を尊重することにした。
「ねえ、萌絵ちゃん、誰かに口止めされてるってことはないよね」
うっ、鋭い。由佳は不適な笑みを浮かべて俺を見た。
「図星だね。どうせ関野坂でしょ? あいつ心配性だから」
由佳の言う通り完全に図星だが、なぜ関野坂が心配性なの知ってんだ。一年の時は違うクラスだったし今回は同じクラスになったけど会話もそこまでしてないはず。
「自分でいうのもなんだけど、私、勘はいいんだよね。中学の時『リアル嘘発見器』って言われたことあるから」
すげーあだ名だな。敵には回したくない。
「別に隠さなくてもいいのに、どうせ時間が経てば分かるんだから」
「隠す、隠さないは本人の自由だからな。他人がとやかく言ってもしょうがない」
「まあ、そうだね。別にいいもん。めぐちゃんに訊くから」
放課後、由佳は宣言通り恵に訊いていた。恵は「なるべく内密に」と言って関野坂と付き合ったことを伝えた。
「マジで付き合ったんだ。めぐちゃん、関野坂と会ってどれくらい?」
「えっと、三週間くらいです」
「知り合って三週間で? 早っ、最低でも一ヶ月はかかると思ってた」
まあ、結果的には恵が押し切る形になったけど、関野坂も心を開いてきてる。恵の事を名前で呼ぶようになったし、ホントの意味で恋人になるのに時間はかからないと思う。
「萌絵ちゃんは知ってたの?」
「ああ、恵本人から聞いたからな」
由佳は口を開けてポカンとしていた。それはどういう意味なんだろうか…。
「えー? めぐちゃん、なんで私には言わなかったのー?」
「大園先輩はゴールデンウィーク中バイトでしたから、今日言おうと思ってたんです。報告が遅れて申し訳ないです」
「ああ、そうなんだ。でも良かったねOK出て」
恵は笑顔で「はい」と答え、由佳は少し寂しそうに俺を見た。
「由佳、どうした?」
「めぐちゃんに先越されちゃった。嬉しいけどちょっと悔しい」
結局どっちなのか。まあ比喩にガチでツッコんでもしょうがないんだけど…、例えるなら二つの感情が同時に出た感じかな? シュレディンガーの猫的な…いや、例えが良くないな。アレは猫が酷すぎる。
「そういえば大園先輩、バイトは大丈夫なんですか?」
「ん? 入るのは休日だけだから問題ないよ。勝手に時間伸ばされることあるから若干腹立つけど」
ドンマイというほかない。とりあえず頑張って。
「やっほー、久々に来たよ」
大東先輩が意気揚々と部室に入ってきた。前に見たのが先週の日曜だから八日ぶりか。
「早乙女さん、ちょっといい?」
大東先輩は来て早々に手招きで俺を呼び、肩を掴んで体を寄せてきた。ちょっとビビった。
「早乙女さん、こないだ幸太と一緒にいたでしょ」
幸太? 誰だそれ。
「花丸堂書店で早乙女さんと一緒に入るとこ見たんだけど…」
もしかして大西さんか? 記憶が正しければ下の名前は幸太だったはず。
「ええ、場所を知らないらしくて案内したんです。大東先輩もいたんですか?」
「うん、受験対策の本を探しに寄ったんだけど道案内してたんだ。てっきり幸太がナンパしたのかと思った」
一回しか会ってないからなんとも言えないけど、あの人はナンパよりもエロ本読むのを優先しそう。どうでもいいけど。
「話を聞く限りじゃ何もされてないみたいね。とりあえずよかった」
なんだ確認しただけか。一瞬恨まれたのかと思った。
午後五時半を過ぎ、部の活動は終了した。毎度女子部が部活と言えるのかを疑問に思ってしまうが気にしたら負けだ。
校門を出て五分ほど歩いていると、目の前に駅…ではなく一人の女子が現れた。
ベージュ色のセミロングヘア、顔立ちはかなり整っていて一言で表すと美人。スレンダーな体型で背丈は高く百六十センチは優に超えている。
制服は一輝が通っている学校と同じものだった。その女子は俺に一歩ずつ近づいてきて一言。
「久しぶり」
…へ?
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