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第十話 ゴールデンウィーク①

 ゴールデンウイーク初日、俺は一人で散歩していた。

 恵は同じ学年の子達とカラオケ、由佳は好きなアーティストのライブ行くためにバイトを始め、大東先輩は受験勉強に忙しいらしい。女子部四人の中でノープランなのは俺だけだった。

 

 さて、どこに行こうか。パッと浮かんだ候補はカラオケ、ゲーセン、ボーリング…考えんのめんどいから順番に行こう。もちろん予算の範囲内で。

 ということでまずはカラオケ。ちょっと寂しいがぼっちは小学生の時に免疫ができているので問題ない。

 けど一人で歌うのは退屈だ。高得点出ても「よっしゃー!!」ではなく「おっ」程度の喜びしかない。結局、一時間で店を出た。さ、次行こう。


 二番目はゲーセン。先週はUFOキャッチャーしかやってなかったけど俺が一番やりたかったのは格闘ゲーム。幼いころ男子とばっかり遊んでたからその影響だな…多分。

 しっかし相手コンピューター弱すぎんだろ。ワンパンで倒れてんじゃん。ほかのゲームでも遊んでみたがどれも初心者向けでまったく楽しくはなかった。はい、次。


 三番目はボーリング。遊ぶのは中二の時以来なので三年ものブランクがある。絶対なまってるわ。

 予想は見事に的中し、ストライクどころかスペアすらとれない散々な結果だった。ここまでひどいと涙も出ない。

 三つ消化して旅立ったお金は一葉さん一人。ボーリングで結構お金を使ってしまった。

 ボーリンク場を出て時間を確認すると午後一時、まだ帰るには早いな。


「あの…」


 後ろから声をかけられたので振り向くと長身の男がいた。目は二重で日本人には珍しい赤色の瞳をしている。パッと見、百八十センチはあるな。名前わかんないからA君にしとこう。


「道を教えて貰いたいんですけど…」


「どこですか?」


「花丸堂書店というところに行きたいんです」


 花丸堂か。場所は知ってるけど道が複雑だから口では説明しづらい。…時間はあるしいいかな。


「よかったら案内しますよ」


「え。いいんですか?」


「はい。おr…じゃなくて、私もそこに行こうと思ってたので」


 あぶね~。思わず「俺」が出るとこだった。もう出かかってたけど…。A君は俺を見て首を傾げている。さすがに初対面の人(目上の人も)相手に男口調で喋るのは躊躇われる。

 

「じゃあ、行きましょうか」


 俺が歩きだすとA君が横についてきた。向かっている間、長い沈黙が続く。

 

「えっと…高校生?」


 ずっと無言なのが耐えられなかったのか、A君が声をかけてきた。


「はい高二です。そちらは?」


「俺は高三、年下だったんだね。君大人っぽいから年上だと思ってた」


 大人っぽいか? 由佳にはよく言われるけど。


「名前訊いてもいい? 俺は大西幸太」


「えっと、早乙女萌絵です」


 なるほど、大西さんか。何がなるほどなのかは自分でもわからない。


「早乙女さんって、彼氏はいるの?」


 グイグイ来るな。ナンパか?


「いいえ、まだです」


「そっか。俺はつい最近彼女と別れたばっかりなんだ」


「へ、へ~。そうなんですか」


 こんなところで暴露されても困る。気ぃ使うわ。


「何でまた…」


「彼女は束縛がきつくてね。ほかの女子と喋っただけで咎めてくるんだよ」


 ん? これはデジャブ? どこかで聞いたことがあるような…。


「ちなみに何年付き合ってたんですか?」


「五年、彼女は短気なんだけどよく続いたよ


 あー、これ間違いないわ。この人大東先輩の元カレだ。まさかこんなところで出会うとは…。歩き始めてから十分後、目的地の花丸堂書店に着いた。

 花丸堂書店はあらゆるジャンルの本を取り揃えていて、老若男女を問わず人が訪れる。あー、舌噛みそう。

 適当に店をうろついていると奇妙な小説を見つけた。『私は同性で同姓の同級生と同棲しました』…なんつータイトルだ。見たところ十巻まで発売されていて、帯には「アニメ化決定!」の文字。すげーな。


「それ同同同棲じゃん。俺、三巻まで読んだことある」


 なんだその前○○世みたいな略称。その気になれば替え歌もできそうだな。やんないけど。

 脳内会議を行なった結果、『私は同性で同(以下略)』の一巻を買うことにした。

 レジに並んでいると大西さんが後ろから肩をつついてきた。


「あの、お金渡すから俺の分の会計やっておいてほしいんだけど、いいかな」


 俺は「はい」と答えようとしたが寸前で止めた。大西さんの手にはエロ本が七冊。そんなもん女に渡そうとするな。


「すいません。断ります」


「なんで。まとめてレジに出して払った方が早いだろ?」


 まあ、そうだけど出しづれぇよ。雑誌や漫画ならいいけどエロ本は無理。


「大西さんがやった方がいいじゃないですか? 私はちょっと…」


「それは困るよ。レジでエロ本出しづらいじゃん」


 そのセリフそっくりそのまま返すわ。あんたデリカシーなさすぎだ。結局、大西さんは不満顔で俺が持っていた小説とその代金を受け取りまとめてお金を払った。


「まったく、君もケチだね。はい、これ」


 会計を終え、俺は大西さんから小説を受け取り自分の鞄に入れた。顔を引きつった店員さんの姿が印象に残る。


「じゃあ、俺は帰るよ。今日はありがとう」


 大西さんは手を振って帰っていった。俺は軽く振って返す。なんで大東先輩あんなエロ男と五年も付き合ってたのか。初対面の人に「エロ男」なんて失礼かもしれないけど絶対そうだよ。まあ、浮気と比べたら幾分マシか。

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