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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

三途の川~怪談噺~

作者: RAIN

 この度は私の開催する船上怪談寄席にお越し頂き誠にありがとうございます。


 えっ、私をお呼びでない? まあまあ、そう言わずに。

 向こう岸に渡るまで五分と掛からぬ船旅ではありますが、今回語り手を務めさせて頂きます私の名前は『極楽亭地獄(ごくらくていじごく)』と申します。


 私の師匠である『極楽亭閻魔(ごくらくていえんま)師匠』に付けて貰った芸名なんですがね。

 どうもこの名前は、お客さんからの受けが悪い様なんですよ。

 皆様から口を揃えて「縁起でもない」「馬鹿にしているのか」などといつも言われております。


 いやぁ、私も本音を言いますと『地獄』よりも(あに)さんたちの様に『天国』や『極楽』といった縁起の良い名前にしてくれって師匠に直談判をしたことがあるんですよ。


 そしたら師匠にこう言われましてね。


『お前の芸名を天国や極楽なんてのにしたら、お前は調子に乗って舞い上がったまま、永遠に降りてこなくなるだろうが』


 私も師匠にそんな心配をされたら引き下がるしかないですよ。

 私は天狗になりたいんじゃなくて、落語家になりたいもので…。


 それと、私が話す怪談の内容は覚えていなくても一向に構いませんので、私の名前を冥土の土産にでも覚えて頂けると幸いでございます。

 ここが本日一番の笑いどころですのでお気を付け下さいませ。


 おや、本日のお客様は船に揺られてか、顔が青白い方ばかりのようですね。

 まるで死人の様な顔をしております。


 それはそうと、本日の乗客は老若男女国籍問わず乗っておりますが、私の話す言葉はどの国の方でも分かる様になっておりますのでご安心下さいませ。


 実はここだけの話なのですが、地獄もグローバル化が進みましてね。

 最近では色々な国の総統や独裁者だった人、裏組織の重鎮だった人などが次々と送られてくるんですよ。


 勿論、死んだ後に身分や肩書なんてのは関係ないもので生前の行いが悪かった人は軒並み地獄の中でも特に厳しい無間地獄に落とされてますがね。


 特に無理なノルマを課す上司や残業代を出さずに扱き使う会社の役員は全員無間地獄行きです。

 私たちの業界ではこれを無限地獄巡り(ブラック企業めぐり)と呼んでいます。


 それと気分が悪くなった方は、船頭さんに言ってくださいね。

 特製エチケット袋の在庫は十分にありますので、いつでも無料でお渡し致しますよ。


 おや、ちょうど向こう岸では、私の寄席の常連でもある奪衣婆(だつえばあ)さんがニコニコ顔で手を振ってますね。

 昔こそ荒ぶっていた奪衣婆(だつえばあ)さんですが、今では私の師匠の勧めで始めたクリーニング屋さんが連日大盛況の様で、彼女の機嫌が良ければ皆様の御召物も無料で洗濯して貰えるそうですよ。


 実はあのクリーニング屋さん、一昔前には泡をふんだんに使ったバブル洗浄が売りだったんですが、(バブル)が弾ける度に新しい泡を継ぎ足さなきゃいけないんで採算が合わないから辞めたらしいですよ。


 実は地獄にも不景気ってもんはあるもので、昔は血の池地獄は一度でも入ってしまえば二度と浮き上がって来れない場所だったんですよ。

 それが整備費用をケチったせいで池の血量が年々少なくなってしまいましてね、今では子供でも安心して入れる深さになってしまって地獄の鬼や罪状の軽い者たちの憩いの場になっているそうですよ。

 

 それと最近は地獄でもインターネットが導入されるようになりましてね、メッセージや画像が短文投稿出来るサイトなどでひっそりと生前に悪いことをしている人がいないかを巡回しているんですよ。


 最近ではデマや憶測で他人を貶める人や嘘の話で共感を得ようとする人もいるそうなので、そういう人に対して生前の内から叫喚地獄(きょうかんじごく)大叫喚地獄(だいきょうかんじごく)に行けるように手配をしているそうですよ。


『人の振り見て我が振り直せ』といいますので、私も気を付けないといけませんね。

 どんな地獄か気になった方は是非ともご自身でお調べくださいませ。


 おやおや、どうやらお客様の中にも何人か御心当たりがある方もいるようですが、あまり気にせず進めましょうかね。


 せっかくの怪談寄席ですし、私の友人がちょっと不気味な体験をしたってんでこの場で話しましょうかね。

 これは、私の友人が大学生二年生の頃に体験した話らしいんですがね。


 その友人が通っていた大学は非常に広く、大学内には学部毎に専用の校舎が幾つもある程の敷地面積を誇っていたそうですよ。

 あまりの広さに、別の学部が開講している講座の授業を受けようする場合には休み時間を利用して大学内の端から端まで移動しなければならないことも度々あったそうです。


 そんなある日、その友人は次に受ける授業時間まで暇になったらしく、大学内をぶらぶら散策することで時間を潰そうとしたそうです。

 それで、普段はあまり利用しない学生食堂や図書館、購買部などを回っていく途中で不気味な光景を目撃したそうです。


 その光景を見た友人は『枯れ葉が地面を覆いつくしている校舎の前に大量の白い手が地面から生えていた』と語っておりました。

 勿論、本物の人間の手が埋まっている訳ではなかったんですがね。


 その友人が手の生えている地面に近づいて注意深く観察したところ、美術の授業で使う様な石膏やプラスチック製の材質で作られた人の手だったそうですよ。

 それにしても、地面から生えている手は肘の辺りまであるものや手首までしかないものまで様々だったそうで、不気味なことには間違いないですがね。


 白い手は無造作に地面から生えてきたかの様に置かれておりまして、見方によっては地面から人間が助けを求めて這い出ようとしている様にも見えたそうです。

 亡者があの世から助けを求めて手を伸ばしてきたんでしょうかね。


 最初は学生や教授がした質の悪い悪戯かとも考えたそうですが、学園祭の時期が近いことを思い出した友人はお化け屋敷の演出のために用意したものなのではないかという結論に達したそうです。


 そして、その友人は興味本位で写真を撮ったあとに次の授業を受けるためにその校舎の前からを立ち去ったそうです。



 その後も何度かその校舎の前を通ったそうですが、土に埋もれた人形の手首は徐々に増えていたそうです。

 何人かの生徒が面白半分で写真を撮っている姿も見かけたと言っておりましたね。


 それだけの数の腕を校舎の前に埋めたまま誰も撤去もしないということは、校舎全体を使ったお化け屋敷でも作るのではないかと他の学生も考えたのかもしれないですね。


 しかし後日、学園祭が行われた際に各学部やサークルの催し物が書かれたパンフレットに目を通した友人は驚きと恐怖に包まれたそうです。


 なんとその学園祭では確かにお化け屋敷を行ってはいたものの、開催場所は人形の手が埋められていた校舎から遠く離れた別の校舎の一室だけで行われていたそうです。


 そのことを知った友人は学園祭中に慌てて人形が埋められていた場所に向かったそうですが、そこには最初から何も無かったかの様に落ち葉だけが寂しく地面に広がっていたそうです。


 念のために撮った写真を確認したそうですが、人形の手が地面からはみ出た写真はちゃんと残っていたそうですよ。

 ただし、どの写真も手の部分の輪郭が不鮮明になっており、友人は怖くなって写真を全て削除したそうですが……。


 その友人は大学を卒業後、恩師に会うために時々学園祭へと来ているそうですが、その度に白い手が地面から生えていた校舎近くで驚いた様子をしている生徒を度々見かけるそうです。


 もしかしたら、今でも地面から白い手が生えてきては在校生を怖がらせているのかもしれませんね……。





 おや、もう向こう岸に着いてしまったようですね。

 本日は枕の部分までしか話すことが出来ませんでしたが、本日の船上怪談寄席はここまでとさせて頂きます。





 はい? この噺にオチはないのかですかって?





 そのことならば、ご安心くださいませ…。





 乗客の皆様がこの先落ち(オチ)るのは地獄ですので。

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― 新着の感想 ―
[一言] 白い手というのは怖いですね。石膏と勘違いしてうっかり握ったら引きずり込まれてしまうんでしょうか。ラストで語り手の表情・顔つきががらりと変わっていそうですね。落語、応援しています。
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