第07話 さあ出発だ!琵琶湖を目指せ!切り身で魚を釣り上げろ!?
夏休み初日の……朝1時……朝1時!?
七海は水槽楽部専用アプリ『アクアリウム生活日記』の目覚まし機能で起きた!
アプリのSNS機能で花梨から即メッセージが来た。
◇
花梨:『……我々水槽楽部の朝は早い!』
いくら何でも早すぎる!
日花梨:『ええ!今深夜アニメ鑑賞中だよん!』
録画しろ!……もしくはDアニメストアで見ろ!
愛芽:『出撃OKですよ!ビックボス!』
貴方の家が893のボスの家です!
七海:『……皆さん……朝早いですね……』
花梨:『何を言っている!七海!遠足前に安らかなる眠りにつけると思うな!』
『……よし行くぞ!』
『ラジャー!』
◇
こうして、水槽楽部は一路新潟県を目指すことになった。
今日の予定は、『琵琶湖』で休憩をとり、お昼には今日の宿屋である丸太屋に到着する予定だが……。
もう一度確認するが……朝1時である!
3時間ほどで到着できる民宿には早すぎるスタートだった。
「花梨ちゃん、琵琶湖で2時間ほど休憩するとはいえ、まだ2時ですよ?」
「……!?」
「……何を油断している七海!我々水槽楽部が琵琶湖で何もしない訳がないだろう!」
……予想したくない事が起きる事だけは理解した七海だ。
だが、『ヤマト隊長惨殺事件』を超える悲劇は起きないだろうとは思った。
――まあ、起きるのだが。
「――って!皆さん早いですよ!今1時半ですよ!」
「どうやって紀の川SAに半時間で来られるのですか!」
確認事項として、日花梨と花梨は30分前に間違いなく高野山にいた。
愛芽は昨日『エビとカニの水族館』で珍しい魚が入ったので学校から直接水族館へ行ったのは確認した。
七海は『3人にジト目』をキメた――!
「……うむ!時間厳守に感謝する!」
集合時間は朝2時なのだが、1時半には全員集合していた。
水槽楽部に『食パンを加えて遅刻!』というシチュエーションは皆無である。
そもそも、早く集合しすぎである。
「……よし!出発する!」
紀ノ川SAに集合した水槽楽部員の荷物を確認すると、ほぼ全員過積載状態だ!
一番先頭を走るZ250の花梨を二番手走行の七海から見ると、『ホームセンター箱二段乗せ』している為、花梨の頭が確認できない位過積載状態になっている。
七海から見て即後ろの日花梨はフルパニアR3≪痛車仕様≫だ。どうやって接合したか不明だが、完璧なツアラー仕様だ。
最後尾のNINJA400愛芽もフルパニア化しているが……。
「愛芽さん!そのパニア……OBKですよね……」
「ええ、そうですね。ワンオフでステーを特注して貰いました」
さすが半端ない財力だ……!
箱だけで数十万コースな上、ワンオフでステーを特注となるといくらの金が動いているか七海は不安しかなかった。
……例のごとく、ツッコミは避けるた……!
「……うむ!心強い過積載状態だ!」
褒める花梨のZ250の『ホムセン箱二段乗せ』も半端ない過積載状態だ!
「って!いくらキャンプを1日挟むとはいえ、無茶苦茶積載しすぎですよ!」
「……何を言っている!七海!」
「……そんな装備で大丈夫か?」
「そんな装備で大丈夫かなかな?」
「そんな装備で大丈夫か?」
――小悪党3人に見事にハモった!
「七海こそそんな軽装備でサバイバルを乗り越える事が出来るのか!」
一方七海は、TTOLの20リットルのバッグとリュック1つだけだ。
「ななちゃん!その小さなバッグ一つで着替えとか大丈夫かなかな?」
「おぱんつ忘れてきてないかなかな?」
「いえ……忘れてないですよ……」
「……七海!その荷物の量ではとてもテントを積んできているようには見えない!本当に大丈夫なのか!?今回は一人一張りを義務づけているんだぞ!」
「ちゃんと積んできてます!」
七海の軽装備スタイルに小悪党の3人は驚愕している!?
「そもそもですけど、CBR250RRに荷物積みたくないんですけど……」
七海にも拘りがあるようだが……!
高速道路を軽快に飛ばし……『制限速度域』の……はず……。
京滋バイパスに入った。
丁度入った辺りで『空が明るく』なってきた。
「……うむ!やっと夜が明けてきたか!この調子で行けば、琵琶湖の例のスポットにAM6時には着任できるぞ!」
花梨は朝6時に琵琶湖の某所にて何やら不穏な事をしそうだ……!
「……日花梨隊員!現着次第、マルロクマルナナジにサンドイッチ製作を開始」
「……同時刻、愛芽隊員は『竿』と『サンマの切り身』の準備を開始せよ!」
「イエス!マム!」「イエス!マム!」
――サンマの切り身?
七海は……インカム越しに……確かに花梨は『サンマの切り身』と言った。
琵琶湖で『サンドイッチ』……『竿』までは判るが……。
――サンマだと!?
「あのう……インカムの故障とは思えないのですけど……『サンマの切り身』って言いましたよね?」
「……むむ?七海?インカムの不調か?一人だけ『C・COM』買うからだ!」
「……通信にノイズが乗ったか?」
――通信は問題なくクリアーに聞こえてはいるようだ――!
インカムは七海以外は『アイルトン製』を使用している。
「だって、GT-AIRにアイルトン製の大きいの似合わないです……」
――この旅でアイルトン製を付けている小悪党3人にまさかの悲劇が来るとは、この時思ってもいなかった……!
「それで……サンマの切り身なんですが……」
「……七海!しつこい男は嫌われるぞ!」
――七海は東高校で2番目の美少女である!
1番は七海は現在七海の後ろを走行中だ!
「それで、琵琶湖に寄るのは判りましたけど、ライダーなら『メタセコイア並木』に立ち寄りますよね?まあ、琵琶湖も観光名所としては良いですが」
「……七海……我々は水槽楽部だ!木が100本程ズラッとシンメトリーに並んでいる道から、何も得るものはない!」
七海は『アクアリウム……水槽楽部』である事を忘れそうになっていた。
「そもそも、バイク&アウトドア部ですよ!かれこれ水槽楽部として活動してないです」
◇
サンマの切り身に引っ掛かりながらではあるが、琵琶湖の『某所』に、予定通りAM6時に到着した。
七海は道の駅すらない『ただの海岸線』へ到着したことで更に不安を煽られた……『海岸線ではなく湖畔』だった。
「本当にここで合ってるのですか?」
七海の質問に花梨は……。
「……日花梨隊員!サンドイッチの準備だ!」
「あいあいさー!」
……全く聞こえていなかった!
同時に愛芽隊員は花梨のホムセン箱より『釣り竿』を、そして愛芽が積載していたクーラーボックスから『サンマの切り身』を取り出した!
「ホントに……サンマの切り身……ですよね?」
「ええ、サンマの切り身ですね」
「愛芽さん焼いてサンドイッチに挟むのですか?」
「いえいえ、適切な大きさに切って……釣り針に付けるのですよ」
……。
――!?
「さ、サンマの切り身ですよ!本気ですか!?」
「ええ、間違ってないわ。サンマの切り身で釣りをするの」
……半端ない!?
「まあ、面白い魚が釣れるかもよ……?」
「花梨さん!竿の準備完了です!」
「花梨ちゃん!サンドイッチも出来たよん!」
サンマの切り身を釣り針に付ける愛芽も変わっているが、この短時間でサンドイッチを作り上げる日花梨隊員もなかなか凄い能力だ。
各自が乗せてきた椅子を出して『餌にサンマの切り身を付けた釣り大会』が開始された!椅子を取り出した事で、『長丁場になる』可能性を七海は感じ取った!
釣り針にサンマの切り身がぶら下がっている……!
「なんか……シュールですね……朝6時に切り身ぶら下げてサンドイッチ片手に女子高生が釣りですか?」
ほぼ事故映像である!
釣り女子はアリ……朝からサンドイッチはアリ……だが、切り身である!
「……よし!では水槽楽部!第一投目を開始する!」
花梨の合図と共に、水槽楽部の4人はキャスティングした!
もの凄い勢いで『切り身4枚』が琵琶湖へ飛んでいった!
「……ふむ、サンドイッチを食べよう!」
日花梨特製のサンドイッチを片手に、遠くに飛ばした切り身が付いた仕掛けを眺めながら朝食となった。
夏の湖で早朝に切り身の付いたウキを眺めている……!
「花梨ちゃん!サンマの切り身では何も釣れませんよ!そもそもサンマ海の生き物ですよ!」
さすがに納得できない七海はぶち切れた!
……っと同時に……!?
「おお!キタキタかなかな!」
――なんと!日花梨の竿にアタリがきた!?
日花梨は手際よく釣り糸を巻いた!
なんと!ブラックバスを釣り上げた!
「なーんだ……外れ……かなかな」
っと同時に地面へ叩きつける!?
「えええええ!日花梨さん無茶苦茶ですよ!」
「んん?琵琶湖は外来種釣り上げたらリリースしたら駄目だよん!」
――『即ぶっころ』した死神様である!
そして、釣り上げたブラックバスを即3枚おろしにした!
「うーん……せめてブルーギルの方が好きカナカナ……」
釣り上げたブラックバスを皮を剥ぎ取り調理している!
再びサンマの切り身をセットし第2投目を日花梨はした!
「あのう……これ……サンマの切り身を食べた方が美味しくないですか?」
「ああ!ナナちゃん判ってないね!ブラックバス美味しいんだよ!」
「ただ、皮をキレイに剥がさないと臭くて食べられない位で、フライにすると食べられるんよん!」
……その後アタリはしばらく来なかった……!
その間に七海はブラックバスの切り身に衣を付け、油で揚げたした!
香ばして食欲をそそる香りを水槽楽部のメンバーを襲う!
「ブラックバスですよね……?ホントに美味しいのですか?」
「……心配するな七海、マクナルのフィッシュバーガーより美味しぞ!」
「ま、まくなる?……」
某有名ハンバーガーチェーンであることは判ったが……。
ブラックバスのフライは予想を遙かに超える美味であった。
まさに白身魚のフライそのものだ。
意外とさっぱりした味だが……。
「……美味である!……が、日花梨が釣り上げた1匹だけだな」
……かれこれ1時間程経過して、アタリは……。
早朝過ぎるメンバーに少し眠気が差し、七海はウトウトしだした。
ウトウトとしたお陰で、竿の動きもウトウトと……?
ウトウトと???
――アタリが……?
……アタリが!!!
「……七海!?アタリが来ているぞ!!」
「……って!え!?」
花梨の声に驚いた七海は竿を引き上げると……!
微妙なアクションにより、ビシッと合わせる事になった!
――そして、とてつもない勢いで竿を引っ張られ!
――一気に釣り糸が出ていく!毎秒数メートルの勢いだ!!
「ええええ!?花梨ちゃん!潜水艦に引っかかった!?」
「……そ、そんなわけ無い!」
「……主だ!琵琶湖の主がヒットした!!!」
「おおお!きたよん!きたよん!」
日花梨がぴょんぴょん跳ねて喜んでいる!?
「……何をやっている日花梨!七海の竿を支えるんだ!」
「アイアイサー!」
――とんでもない魚が掛かったのか!?
七海達、水槽楽部メンバー総動員で『琵琶湖の主』と対峙する!
――水槽楽部メンバーの絶妙なコンビネーションが発動する!?
「日花梨!この際だ!出し惜しみをするな!全力を出せ!」
「へい!花梨隊長!!」
花梨の合図で――。
日花梨と花梨は竿に精神力を注ぎ込む――!
七海は『潜水艦』でも引っ張り上げる程の力を感じ取る!?
――その様子を小さなフラッグを振りながら愛芽は応援する!
「もう少し!もう少し!20mのラインがみえてきましたよ!」
「……いけ!七海!トドメだ!」
――と、トドメ!?
「あ、はい!」
花梨の合図の勢いに任せ、七海は大きく竿を振り上げた!
「おりゃーーーぁぁあ!」
――『ドシャーーーーン!!』
――琵琶湖の空を『大魚』が舞う!
――魚!?いや恐竜だ!!!!
3メートル以上はあるぞ!
「って!!ワニだ!!!花梨ちゃん!ワニだ!ワニ!」
ダイナミックに放物線を描き、巨大な魚があらぬ方向へと飛んでいく!
――たまたま通りがかった……!
――車だ!!
――『ガッシャーーーン!!!』
「あ……」
「……うむ……見事にぶつかったな」
「ありゃりゃ、これまた上手いこと後部座席のガラスぶち抜いたよん!」
「うあぁぁぁ!!」
急停車した車から叫び声が!
慌てた様子で中から人が飛び降りてきた!




