第64話 大惨事!ヤマト隊長が!?……まさかこんな事になるとは!?
5月初旬は昼間は暖かいが、夕方になると川湯温泉街の気温はグッと下がってきた。
――しかし我々には薪ストーブがある!
「……さすがマキちゃん!タープの中は南国である!」
――ここは紀南である!
「やーっぱり5月でも、さーむいかなかな!」
っと水槽楽部特攻隊3人を観てみると無茶苦茶オシャレなブランケットを肩にかけていた!
「花梨ちゃん達……いつの間にそんなオシャレなブランケットを!?」
「……むむ!七海も我が水槽楽部の特殊ブランケットを掛けるのだ!」
なに!?私の分もあるのか!?
愛芽さんからとてもオシャレな北欧柄のブランケットを受け取ったが……。
「こ、こ、このブランケット無茶苦茶重いですが!?かなり上質なブランケットと思いますが……」
「このブランケットはスウェーデン王室御用達の一品ですね。特殊ルートで手に入れたウール100%ですよ」
「……去年の大惨事の経験から、ウール100%のブランケットに買い換えたのだ!」
――だ、大惨事!?
「思い出した……あなた達が景気よく薪を燃やしキャンプファイヤー一歩手前まで火力を上げたお陰で、姉様のお気に入りブランケットに火が着いた事件……」
「あの時は凄かったよん!さすがポリエステル繊維100%!」
「そうよ!危うく姉様が丸焼けになるところだったのよ!あなた達の大暴走でブランケットに火の粉が飛んで大惨事だったわ!」
「……うむ!去年の大惨事の経験し、我々はウール100%にしたのだ!いい経験だった!」
部員一人が丸焦げに危うくなりかけたのだ!
ちょっとオシャレなブランケットだが……ウール100%……重い!これをミニマムキャンプだと持ち運びするには若干重い位だ。先ほどから話していて明日香さんもバックパックでキャンプとかを奈良さんとするのではあれば、軽い化学繊維のブランケットだったのだろう。去年の教訓からか奈良さんもどうやらウールっぽい。
ブランケットを被り、日花梨さんの指示でポトフ作りを開始した。基本的に味付けは日花梨さんがするとこことで、カットだけの手伝いとなる。愛芽さんと二人で軽快に野菜やベーコンをカットしていった。
……我々、水槽楽部員は『火気・刃物・鈍器・薬品・火薬』のスペシャリストである!
そうそう、忘れそうになっていた『ヤマト隊長の水替え』だが、日花梨さんが水替えをしてくれていたようだ!
私達がポトフの下準備をしながら材料を薪ストーブで炊き始めた位に、日花梨さんも何やら美味しそうな料理を仕込んでいるようだ。
オリーブオイルとガーリックの香りが漂ってきたのである。どうやらオリーブオイルを使った『アヒージョ』か?もしくはシンプルな揚げ物料理を作っているのだろう。もしくはパスタ系であろうか?
「いい香りですね!オリーブオイルにガーリックをいれたいい匂いです」
「……うむ!これはコーラが進むぞ!」
「そうですね、大人でしたらビールとかでしょうか?」
オリーブオイルとニンニクの焦げたいい匂いの後に、トマトの匂いが立ちこめてきた。まさここれはパスタなのか!?
今夜のメニューは『ポトフ』と『トマトベースのパスタ』でほぼ間違いないだろう。
「ほーい!ちょーっと薪ストーブ借りるよん!」
っと言うと、日花梨さんがお鍋を持って来た。
「日花梨さん……これは?お鍋料理2品目になっちゃいますよ?」
「ううん、これはねココパンを使ったパン作ってるよん!」
――『ココパン』で『パン』?単語にしてしまうと変ではある。……が、ココパンとは『CocoPan』というフライパンのことである。
下は中華フライパンのような大きさのフライパンをディッシュサイズのフライパンで蓋をしていた。
「なんかダッチオーブンみたいですね!」
「だねだね!フライパンでパン焼くのだ!」
日花梨さんの料理スキルが半端なく高いのである!キャンプ場でフライパンで焼きたてパンを作るのである。
パスタにポトフに出来たてパン。グランピングを超えそうである。
愛芽さんと日花梨さんとで2品作っている最中、奈良さんも料理をしていた。
……何やら『蟹』の匂いがしてきたのである!
しかし、振り返ってみると、本を読んでいる奈良さんだった。『長方形の弁当箱?』っぽいのが大小と2つあった。1つはガスバーナーで、もう一つは……?
「奈良さんも何か作ってくれているのですか?」
「ええ、かに缶を使った炊き込みご飯よ。日花梨さんがパスタとパンを作っているのなら、米の方がいいと思って炊き込みご飯にしたわ」
「自転車でも結構道具積めるのですね!コンロ2つとは……」
「正確にはガスバーナーと固形燃料だけど。この固形燃料1つで丁度メスティンの小さい方のご飯がピッタリ炊けるのよ。あと、大と小、固形燃料と台はマトリョーシカ出来るわ」
マトリョーシカとはロシアの民芸品のことである。私の趣味には合わないが、収納技術の一つとして語られることもある。マトリョーシカ収納すると大抵中身を忘れられてゴミ箱行きになる運命である。
料理が出来上がり、水槽楽部員……もとい、生徒会全員で夕食時間となった。
テーブルには、『色とりどりの野菜とベーコンのポトフ』、『エビのトマトパスタ』『蟹の炊き込みご飯』が揃ったのである。
「……うむ!では夕食の時間とする!」
「いただきまーす!」「頂くとするわ」「頂きます!」 「どうぞどうぞ召し上がれ!」
まずはポトフを頂いた。当然、私が監修しているので大体の味付けは判っているつもりだったが、キャンプ飯がこんなに美味しいと感じた。
続けて『甘エビ?のパスタ』を食べた。香ばしく揚げた甘エビ?にトマトベースのソースが絶妙にマッチし、最高の美味しさだ。もしかして……。
「日花梨さん!もしかして……このパスタ……キャンプ場で……」
「ぬぬ?何か気になるのかなかな?」
「キャンプ場で作った手作りパスタですか!凄く美味しいですよ!」
「ああええ?そっち??だねだね!ここで作った生パスタだよん!」
「ちょっと不揃いかなーっと思ってましたが、やっぱり。さすが日花梨さんですね!普通、乾燥パスタにするところですよ。しかもキャンプ飯で生パスタ!本当に美味しいですよ!」
「……うむ!最高のできである!さすが料理だけはハイスペックな日花梨だけのことはある!」
「日花梨さんの料理は料理コンクールに出場出来るレベルですね」
珍しく日花梨さんがベタ褒めされているのである。いつものパターンでは絶対『何かやらかして』楽しんでいる節がある日花梨さんだが、今回のキャンプは奈良さんとの親睦会も含まれていると察してくれたのだろう。意外と『いい人』なのかもしれない。
……しかし、なーんか不満そうな反応を見せた日花梨さんが気になるのは私だけだろうか?褒められると困ることでもあるの……か?
……考えすぎなのだろう。人を疑うことはイケナイ事である。よき行いをした日花梨さん……なーんかひっかかる?
とても美味しかったパスタが即完食したのは語るまでもないであろう!
付け合わせに出された焼きたてパンでキレイにソースまで平らげたのである!
「……うむ!特にこの『新鮮な、ャ……エビ』がトマトベースのソースと抜群な相性だ!下処理もきっちり出来ているようで、かつガーリックオイルで殻までカリッと揚がっていて、とても美味しかった!残念なのは少し小ぶりなエビって事位だったか?」
……ん?
……新鮮なエビが?
…………ん?
……残念なのは少し『小ぶり』なエビ?
……脳裏に今日の日花梨さんから口酸っぱく言われていたことが……!?
『ナナちゃーん!ヤマトヌマエビの水替えきっちりしとくんだよん!』
『ヤマトヌマエビのバケツの水をこまめに交換しておいて欲しいカナカナ!』
――な!?なななななな!?
……ま!まさ……まさか!?この新鮮なエビの入手先は!?
……「日花梨さん・・・・・・このパスタのエビは……家から持って来たのですか?」
まさかそんなことはないだろう?冷凍甘エビを持って来た……そんなわけ無い!冷凍甘エビを家からキャンプに持ってくる女子高生がいてたまるか!
「お!・・・・・・」
日花梨さんの瞳がダイヤモンドのように輝いているぞ!
「もちろん!『ヤマトヌマエビ』のトマトベースのパスタだよん!丁度新鮮なヤマトヌマエビが手には入って良かったよん!」
「……ひ、日花梨!?貴様なんて事をしてくれたんだ!!よりにもよって我々水槽楽部員にコケ対策で最優秀戦士であるヤマト隊長を食べさせるという愚行!!!万死に価する!!!……とても美味しかった……南無……」
「なななな!?なんて事言ってるのかなかな!!」
「日花梨さん!見損ないました!私達が苦労して採集したヤマト隊長を夕ご飯のおかずにするなど酷いです!!……とても美味しかったです」
「えええ!?去年みんなで採集して『ご馳走じゃー』って騒いでたじゃないかなかな!」
「まあ、ヤマトヌマエビはアクアリウムでは魚の餌にされる運命ですからね。エビ類は全生物のご馳走なんで、仕方ないですよね。下処理も完璧でした。とても美味しかったです」
――全会一致で『とても美味しかったDEATH!』
「……残念だが、ヤマト隊長は『食育の一環』として我々水槽楽部に未来永劫に記憶に残る運命となった……」
――なんだこの茶番劇は!?絶対コイツら『ヤマト隊長だと知ってた』だろう!まさに自分達は『知らぬ存ぜぬ』を通している感いっぱいである!!
「ひ、酷いんじゃないかなかな!去年はなーんにも言われなかったよん!」
「何を言っている!!日花梨!!去年のエビは冷凍甘エビだった!ヤマト隊長を料理に使うなど!なんて酷いことを!」
「花梨さん食べてしまったのは仕方がないですし、まだヤマト隊長は沢山おられます。日花梨さんもヤマト隊長を食べちゃう発想は以後禁止ということで。残りはアロワナとディスカスの生き餌として持ち帰りましょう」
……結局食べられてしまう運命である!
「ヤマト隊長……結局全部食べられてしまう運命なのですね……」
「そうね、でも、ヤマトヌマエビは死んだ魚も食べるわ。食物連鎖の上に立つライオンですら最終的には死体処理班によって食べられる運命よ。そういう意味ではヤマトヌマエビは食べられることによって自らの子孫が残るということになるわ。尊いわね」
「七海、我々水槽楽部の魚は死んだらどうなると思う?」
……え!?
――いきなりそんなフリをされても回答に困る。
「私は、金魚が死んだら金魚専用の共同墓地に埋めるようにしているわ。私の場合は愛でて楽しむ傾向が強いから」
「そうですね、私の場合は希少種の場合は大小関係なく解剖して死因原因の研究材料にしますね。最終的には花壇に埋めておきますね。生ゴミとして処理する方法もありますが、やっぱり私達に癒やしと学術的知識を与えていただいた生命、敬意を払う意味も含めて」
「ナナちゃん、私はね!……」
「ああ、日花梨は特殊過ぎるから答える必要が無い」
「……ちなみに、私の場合はエビが勝手に処理するので気付かない。ヤマト隊長が肉の味を覚えるとコケとりをサボる傾向にあるのが悩みでもある。しかし、普段はコケばかり食べているので時々は食してもらった方がいいのも事実だ」
……みんなが少し間を与えてくれたお陰で答えを考えられた。
「あ、あのう、どう答えていいか判りません。私はまだ自分の魚を飼って死なせていないので……」
実際、その場面にまだ出くわしていないので判りません!いつか出会すあろう事である。ずっと頭の片隅に思っていたことだった。
「……ふむ、全く経験が無い者が始めて魚を飼うと大抵落としてしまう事が多い、だが最近の用品の充実で初心者でもハードルが低くなっている。同時に安易に飼い始める輩も多くなっているの事実だ。七海のように良い手本となる者が身近にいればいいのだが……」
「確かに、七海さんはハイパーチートの課金MAX状態で始めているみたいな状態ですからね。私はその事に関しては別に良いことだと思います。でも、世の中不公平で出来ていますので」
「……世の中は『生まれた環境』である程度の地位が決まってしまうのだ。努力や根性ではどうにもならないことだってある。特に、『命を預かる』とはそういうことだ。だから、我々水槽楽部は口には出さないが、無理のない範囲で、皆、アクアリウムを愛しているのだ」
——普段はおふざけ満開の水槽楽部だが、『アクアリウム』に対しては『クソが付く程真面目な部』だ。だから私はこの部に居るのかもしれない。
「花梨ちゃんも愛芽さんも、ちょーっと意地悪じゃないかなかな?改めて口に出して『解』を出させようとしなくても良いんじゃないかなか?みんなそのうち『例外なく死んで』『土に帰る』だけだよん!」
——日花梨さんは多分死なないのですね!
「うーん!この話はヤメヤメ!折角のキャンプが陰気くさくなるよん!」
「……うむ!では、ヤマト隊長の旅立ちを送るため『お焚き上げ』を開始する!」
——旅だったも何も、現在我々水槽楽部の胃袋内で消化ちゅうである!
その後、キャンプファイヤーが無事に何事も無く終わることは……ありえないのだった!




