第63話 山・コーヒー・自転車がある生活にアクアリウム!?
……2泊3日もキャンプ場でやる事なんてもう無いぞ!
……っと思っていた……。
「……七海!次の薪だ!」
「はい!花梨ちゃん行きます!」
っと、掛け声と共に丸太を10本程束ねて立てた!
「秘技!薪割りダイナミーーック!」
――スパーン!!
っと、薪割りを続けているのである。薪割りとは、1本の丸太を鉈で4等分位に割って使いやすくするイメージがあるが……。
花梨ちゃんの必殺技で、なんと!10本同時に薪割りを行っていた……正確には『迷刀 真田丸』でバッサリカットしているのが正しい。
「……ふむ!さすが『名刀 幸村』パンだけではなく、薪も綺麗に6等分出来るのだ!」
当初の予定では、適度な大きさの薪を買ったつもりであるが、『割る前』の薪なら倍の量を頂ける事になり、10束分の薪を手に入れた。
「花梨ちゃん!こんなに沢山薪を貰っても、3日間で使いきれるのですか?」
「……うむ!大丈夫だ!これだけあればじゃんじゃん燃やせられる!」
「川崎さん、私が使っているこの焚き火台なら、効率よく燃えるから楽しいわよ」
疑問に思っていたキャンプグッズが焚き火台だったとは。何かを置く台かなと思っていた。金属メッシュの台だったので、キャンプ道具を置く何かかと勘違いしていた。
ちなみに、愛芽さんと日花梨さんは夕ご飯の買い出しに道の駅に行っている。このキャンプ場からすぐの所にあるらしいが……。距離感がおかしい水槽楽部なのでアテにはできない。
あと、日花梨さんから頼まれごとをされていた。『ヤマトヌマエビのバケツの水をこまめに交換しておいて欲しいカナカナ!』と。その際、できるだけ排泄物も流して置いて欲しいと。ヤマト隊長は『ウ〇コ』も食べるらしい……!
自分で出した物を自分で食べて……そして仲間のも食べて……そして仲間も食べる……!
更に言うと、死んだ仲間も食べてそして『ウ〇コ』になり、そしてそのウ〇コも仲間が……。
――おぞましい世界である!
という惨劇を防ぐためにも水替えを頻繁にしておくように言われたのだ。
……しかし大量のヤマト隊長である!さすがにこの量は多い気がするのだが……。
薪割りが終わり、ヤマト隊長の水替えも終わった頃に愛芽さん達が戻ってきた。
愛芽さんのバイクにはジュースとお菓子、夕食の食材など沢山積まれていた。
「おー!ナナちゃん!ちゃーんとヤマトヌマエビの水替えやっといてくれたんだね!完璧完璧!」
……日花梨さんは『海水水槽専門』かと思っていった。ヤマト隊長も海で生活されている同志ということなのだろう……か?
そろそろ午後3時なのでおやつタイムではあるが、キャンプ場には似付かわない音が……!
「このポテチ美味しいですよね!」
「……うむ!やはりポテイト!はコンソメこそ至高!」
愛芽さんと花梨ちゃんが部室ではまず食べない『ジャンクフードとコーラ』で乾杯をしていた!
一方、奈良さんは……。
「それって、パソコンですか?」
「違うわ、これはワープロよ。コラム記事を執筆する専用の機材なの。インターネットとかメールチェックすらできないの。でも、強力な辞書と漢字変換が可能な端末だから重宝するの」
「なんか、パソコンでも良いように思うのですけど……」
ワープロはキレイにステッカーでデコレーションされていた。まさに『JK!!』である!
ジャンクフードで盛り上がるグループは置いといて……。
奈良さんが、何やら『ガリガリ』し始めた。
「『七海』さんもコーヒー飲む?結構苦手な人も多いから……」
「ええ、頂きます!って、豆から挽いてですか!?」
……思わず驚いてしまった!……キャンプではありそうなことだが、驚いたのはそこではない。今、私のことをさりげなく『七海さん』と言ったところである。奈良さんは意外と人間付き合いが器用な方なのだろうと思った。本当にさりげなく自然体で名前を呼んでくれた。
「焙煎仕立ての豆は、いつでも手に入るからね。私の家、コーヒー専門店だから。結構うるさいわ『親が』だけど」
なん……だと!?てっきり公安関連にお勤めかと思っていました!
「あ!もしかしなくても高校の前にあるコーヒー専門店ですか?時々コーヒー買いに行ってますよ!」
実はアンティーク好きな私の御用達のお店である!とても雰囲気の良いお店である。俗に言うところの『純喫茶』や『カフェ』とは違う。『コーヒー専門店』だ。毎朝大型の焙煎機で焙煎をしている。そのお店のマスター『奈良さんの父親』の事になるのだが、焙煎仕立ての豆より3日程寝かせた方が良いとのことを教わった。また、コーヒーとは『雰囲気』も味になることを教わった。自分で焙煎したコーヒーでも美味しい、また、インスタントコーヒーも十分に美味しいとのことだ。『こだわり』が味を変化させると。
「え?私の家知ってるの?」
灯台下暗しであった!……しかしわざわざ目の前に高校あるのに人里離れた『東高校』まで来なくても良いと思うのだが……。
「すごくお優しいお父様ですよね。コーヒーに関して色々教わりました。インスタントコーヒーや缶コーヒーのお話がとても勉強になりました」
「コーヒーとは『雰囲気やこだわり』で味が変わるものだ……だよね。正直、私も登山するから判るけど、劔岳で飲んだ缶コーヒーは美味しかったわ。」
驚愕の事実が色々と判った……劔岳登頂済みで『缶コーヒー』まで持って登っている女子高生である。
「いつかはエベレスト!とかですか!?富士山とかもう登ってそうだし」
「登らないわよ!あと富士山も別の理由で一生登る事無いわね。私はキャンプ・登山・サイクリングを雰囲気を楽しんで旅をしているの。判りやすく言えば、美味しいコーヒーとお菓子があればいいわ。第一、金魚の世話が出来なくなるわ!そんなに家を空けられないわね」
「判らないから聴きくけど……愚問だと思いますが、『富士山』ってみんな目標にすると思うんですけど……」
「そうね、登山やってる人ならほぼ目指すわね。でも、私は登らないわ。別にみんなが登ってるから嫌だって訳ではないわよ。登山家……自称も含むね。私は雰囲気を楽しんでるだけだから人混みは避けたいの。正直、富士山は通勤ラッシュと変わらないわ」
「奈良さんはコーヒーがゆったり飲める位のキャンプ、登山、サイクリングを楽しんでるんですね」
雰囲気にこだわりを持っているのがキャンプ道具でも判った。椅子一つとってもオシャレなブランケットを掛けたりしていた。
「勘違いされないために言っておくけど、富士山はとても素晴らしいわ。ただ、皆が登っているからといって簡単な山ではないわ。標高が高いからちゃんとした装備、体調も整えないと危険な山でもあるから。私自身、登ってもいない山のことを語るのはとても失礼だけどね」
「あと、私の場合は金魚の世話とかライターの仕事も抱えているから長期の休みが取れないってのもあるけど」
やはり奈良さんはとても真面目な方だ。少しではあるが私の中での奈良さんのイメージが固まったのを実感した。コツコツと真面目に向き合うステキな方だ。逆に言えば融通が効かないタイプかもしれない。花梨ちゃんや日花梨さん、愛芽さん達と少し距離を置いてしまうのにも理解できた。彼女たちは良くも悪くも柔軟だからだ。
――私がこの水槽楽部5人全員を繋ぐ役割が出来たらとてもいい部になるかなと思った。
――もとい……生徒会である。
奈良さんと何気ない会話をしている間に午後4時を回っていた。キャンプの時間がこんなに速く進むとは思わなかった。
「……夕食の準備を開始するとする!釜に火を入れろ!野郎共飯を炊け!」
「アイアイサー!」「アイアイサー!」
花梨ちゃんの合図と共に夕食の準備を始めた日花梨さんと愛芽さんであった。
……この時、何気ない夕食が『おぞましい惨劇』に見舞われる事はまだ誰も知らなかったのである!?




