第56話 ほのぼの名水探偵事務所でのひととき(3)
花梨ちゃんと日花梨さんが『雑用』をしているようだが……愛芽さんは関係ないらしい。
――『チリンチリン♪』
「愛芽さんお帰りなさい。日花梨さんと花梨ちゃんは、何かあったみたいで今出かけてます」
「日花梨さんと買い物していたときに血相変えて飛んでいきましたね……まあ、いつもの事なんで気にはしませんが」
……どうやら毎度の事らしい。愛芽さんは慣れているのか、一線を引いているのか……
「それじゃあ、お昼ご飯作っちゃいましょうか!……で、何買ってきてくださったのですか?」
「いつものパターンだと結構時間かかると思いますので、『カレー』でも作っちゃいましょう」
……カレーだと!?
「……カレールー……からですよね?」
「もちろん!熟カレー買ってきましたよ……スパイスからの方が良かったですか?」
――『セーフ!』
「いえいえ、もちろんOKです!……以前……カレールーを使ってカレーライスを作った事があって、『カレールー使うの!それインスタントじゃん!料理なじゃないよ!』とか馬鹿にされた事がありまして……正直、カレールーの方が手軽で美味しいと思うのですけどね……」
「ほうほう……その人はお友達とかですか?」
「今は友達じゃないかな……。中学の時に私の家でお泊まり会をした時の事ですね」
「ちなみに、お名前は?」
……なぜそこまで食いつく!?
「報復とかしませんよね?」
「そうですね、熟カレーの素晴らしさを『伝授』するだけですよ」
……水槽楽部の『伝授(物理で殴れ)』の可能性がある!?
「絶対教えません!あと、別の高校ですし、もう面識無いですよ……」
「あら、残念ですね。七海さんを虐めたクズに『教育訓練』を施そうと思ってましたが……」
――間違いない!?去年の『寿姉妹絡みの混乱』の首謀者の一人だ!?
「でも、良かったです……カレー作っちゃいましょうか?」
日が高くなるにつれ気温が上がり、薪ストーブを消していた。カレーはキッチンで煮込むことになりそうだ。
――花梨邸のキッチンは最新式である!
「花梨ちゃんの家のキッチンって、本当に最新式ですよね?なんかモデルルームみたいですよ」
「あ、実際モデルルームのお下がりを入れてますからね。花梨ちゃんの家って去年リフォームしたばかりですので」
……通りで最新式……
「去年、ハイエースが突っ込んでほぼ半壊しましたので、リフォームしてまだ時間経ってないですから。それにしてもキレイに元通りに直しましたよね。さすが『黒龍会』土建業だけのことはあります。なんか、間違えられて花梨ちゃんの家に突っ込まれたらしいですけど」
――『鉄砲玉が飛んできた!?』
「……なんか……聞かなかったことにします……」
「事故は怖いですね。そう言えば、七海さんは料理出来るのですね?」
「はい、家ってほぼ母子家庭みたいなものですからね。役割分担で色々家事とか経験してきてますので。難しい料理とかは全然出来ませんが、一通りは母から教わってますね」
「いいお母様ですね。いつでも花梨ちゃんのお世話係としてここに引っ越し出来ますね!」
……!?
「いやいやいや……学校遠いですよ!よく日花梨さんと花梨ちゃん通ってますよね……」
「高野山は良い所ではありますけど、ちょっと海からは遠いですよね……アクアリウム愛好家としては、住みづらいですね。やっぱりチャーム便が1日で届く範囲に住みたいですね」
「あのう……チャーム便って?アクアリウム愛好家には重要なのですか?」
「そうですね、アマ〇ンのアクアリウム版みたいなWEBサイトですねー。品揃えとスピード出荷では日本一です。和歌山でも朝の間に注文しておけば次の日には届いてますよ。でも高野山は2日かかりますね」
……そんなに早いのか!?
「それじゃあ……わざわざアクアテイ〇ーズ行かなくても……」
「いえいえ、買いに行く方が実際物を観て買えますからねー。あと、生体は可能な限りショップから自宅に安全に輸送した方がストレスが少なくて済みますし。チャーム便は早いので生体も売ってますけど」
「え!?お魚もネットで買えるのですか!?」
――何でもネットで売っているのか……。
だからこそ、実際お店に行って買いたいと思う。アンティーク好きな私は特に『ショップの雰囲気』も参考にしたい。
「何でもそうですが、実際観て買いたいのですよね。特に生体は『大きさ』や『発色』なども観て吟味したいですからね。どうしてもネットだとキレイに写っているとか、思ったより大きさが合わないとかあり得ますからね。生き物を飼う以上、避けられるリスクは回避したいのが一番です」
ネットショップの話をしながら『カレー作り』を手を動かした。愛芽さんも料理は出来る方のようだ。
――『スパーン!』『ダダダダ!』
……というより、『刃物』の取り扱いは『超一流』だった!凄い勢いでジャガイモなど野菜類を皮むきからカットまで鮮やかに処理した。『レンジャー部隊』か!?
「七海さん、こんな感じでどうでしょう?」
「完璧ですね……本当に刃物の取り扱い上手いですよね?何処かで習ったのですか?」
「そうですね、パパから習いましたよ。世の中物騒な人多いですからね。いざという時、取り扱いを間違って『ぶっ殺してしまったら』刑務所送りですからね」
――暴力団の抗争などで誘拐された時に、「思わずブスッと」やっちまったら大変って事と理解した……
「……世の中ヘンタイが多いですからね……」
「そうですか?その手のややこしい部類に産まれてから会ったこと無いのですけど……」
――黒服が守っているのであった!何かあったら『海水魚の餌』になるらしいぞ!
本題のカレーの進捗だが、『至って普通』なご家庭のカレーが仕上がった!
「愛芽さんは、どのタイミングでルーを投入しますか?私は食べる手前に入れますけど。出来たてのカレーが好きなんですよね」
「私は半分だけルー入れておきますね。一度冷やしてから食べる前に加熱して、残り半分を入れてますよ。ブイヨンとルーでベースの味を付けておいて、食べる直前に入れて香りを引き立てる方法です」
――なるほど!
「それでいきましょう!味が染みこみますし、出来たての香りも楽しめますね!」
カレーは完成したので、ご飯を炊飯器にセットして調理完了。サラダはレタス・ブロッコリー・トマトなど、カレーの付け添えでよく出てくるサラダを作った。
普通のカレーが出来上がった……なぜ普通のカレーを仕上げたか?
愛芽さんもだけど、花梨ちゃん達は『非日常』的な出来事を『今』処理しているのだろう……だから、『素朴で普通なカレー』を作って出迎えるのが『彼女達を迎える最高のカレー』だろうと思った。
少し残念なのは、リビングにある『大型水槽のライト』の点灯時間が『午後2時から』で、立派な水槽を眺めながらグダグダ過ごせない事ぐらいである。
花梨邸にある『水槽ジャーナル』の続きを読みながら、無事花梨ちゃん達が戻るのを待つことにした。




