第29話 温かい食事?これが食育である!
こぢんまりした田舎のスーパーに立ち寄ったが。
「あのう、花梨ちゃん、料理って……」
「……できるはずがない!?」
見事なドヤ顔である!
丁度そんな会話をして時に、『ヴァアアアアアン!!』っと……静かに走りましょう!……ってもう戻ってきたのか!?
……水槽楽部のバイクは時速50kmである!!!訳がない!!!
「いたいた!晩ご飯なににするする?」
戦力的にはとても怪しい日花梨さんがすごいスピードでお買い物に加わったのである。
「……ふむ、水槽楽部っぽいメインディッシュは『アクアパッツァ』やはりご飯物も食べたいので『魚介のパエリア』を頼む!」
花梨ちゃん!!さすがにそれは無理でしょ!!!ハードル高い!?
「おけおけ!確か、香辛料とオイルはこの前の結構残ってたはずだから、材料だけで出来るね!」
「で、出来るのですか!?」
「んん?簡単じゃん!どう゛ぁーっと入れたら終わりよん!」
「……ふむ!熱帯魚を観ながら魚料理を食べる!まさに心理である!」
見事なドヤ顔である!料理するのは日花梨さんだ。
本当に作る事が出来るなら、日花梨さんの女子力高すぎです!学校一の顔面を持ち、メロンを2つ装備して、さらに料理までできる。チート過ぎるスペックである。但し性格が少々難あり。あと付け加えるなら道路交通法違反行為も多数あり。
日花梨さんがスーパーの中をギャンギャンと猛スピードでカートを押して食材を集めて回っていた。本当に料理できそうである。
そして食材の支払いの時だが……
「……支払いは任せろ!『バリバリ!』」
ドヤ顔……いやもういいって!
「出してもらっていいのですか?泊めてもらうのでここは出しますよ」
「……ふむ、気にする必要ない。招待したのは私だし、昨日七海の家にお世話になってる」
持ちつ持たれつって事のようです。水槽楽部員以外にはあまり喋らない花梨ちゃんだが、私とはとても会話してくれるように思えた。意外なのは、日花梨さんとは必要な事しか喋ってない気がする。あと、日花梨さんもだが、奥の院の手前で会った時も私には積極的に話してくれるが、花梨ちゃんにはちょっと違う感じがした。花梨ちゃんと日花梨さんとの間には何処か距離感を感じる事が多い。
――私を巡っての争い!?
もちろん、私は花梨ちゃん側であるが、そういう妄想は控えなくては!?
その後、スーパーを出て花梨ちゃんの家と歩いて帰った。日花梨さんのバイクに……食材は積めなかったので、私と花梨ちゃんが持って帰った。役立たずなバイクめ!?花梨ちゃんに重い荷物を持たせるとは!?
探偵事務所に到着すると、日花梨さんはバイクを車庫の前に置いていた。どうやら屋根付きの車庫の内には入れないようである。春ではあるが、高野山の夕暮れは短くとても寒かった。早く家の中に入って暖を取りたい気分である。
探偵事務所に入ると、薄暗い部屋に光り輝く水槽がよりい際だっていた。
「相変わらず花梨ちゃんの水槽すごいねー!この水槽維持するのメンドクさそうー!」
面倒くさいのか。日花梨さんは水草水槽には特に興味が無いような素振りを結構する。海水水槽を観ている時とは真逆である。アクアリウムも一括りするとダメなのだろう。
「……よし……やはり『だるまストーブ』に限る!」
先ほど、探偵事務所に来たときは気付かなかったが、アンティーク魂に火が付きそうな薪ストーブがあった。
「薪ストーブですか。今時珍しいですよね。灰の処理とかも必要ですし」
「……ふむ、土地柄木を伐採した廃材が沢山手に入るから使っているのだ。ご近所さんも薪ストーブ使ってるので毎年必要分安く別けてもらってる」
「あの、西洋風?のでーん!としたのでなくて、この実用的だけど古めかしいフォルムいいですね!」
「……うむ!ストーブの上でお湯も沸かせる。あと火を観ているととても心が落ち着く……やはり火遊びは楽しい!」
しばらく花梨ちゃんと火を眺めていると、オリーブオイルの焦げるとてもいい匂いがしてきた。
「薪ストーブはパエリア作るにはとても便利だねだね!」
日花梨さんが変わったフライパンを持ってきた。取っ手が無いフライパンのようだが、『ティ……何たら』ではないようだ。とてもシンプルなデザインのフライパンだが、またまた私の触手が動く一品だった。とても使い込まれてはいるが、ただの鉄のフライパンではなさそうである。
「日花梨さん、このフライパン初めて見ますが変わってますよね?パエリア用……ですか?」
「ううん、ちがうよ!これは『ココパン』っていう鉄のフライパンだね!普通のお店には売ってないカナカナ?」
「このフライパンは職人が手間暇をかけて打ち出した取っ手が無いフライパンだねだね。アクアパッツァもこれと同じフライパンで作ってるよん!そのまま大皿代わりになるしね!」
説明をしながら、手際よくパエリアを薪ストーブの上で料理していた。パエリアを持ってくる前にある程度アクアパッツァの方は仕込みが終わっていたようだ。パエリアの方も薪ストーブの上で順調に仕上がっていった。
「それじゃあー、先に作ってるアクアパッツァから食べていくよん!」
キッチンの方から出来たてのアクアパッツァが出てきた。
「す、すごいですね!鯛ですね!お、美味しそう!!」
「……うむ!日花梨は料理上手なのだ。あと、唯一水槽楽部で料理が得意な部員でもある」
「愛芽ちゃんには料理任せてこの前大変なことになったからね!!」
花梨ちゃん、日花梨さんの顔を青ざめて震えていた。
「……では、頂くとしよう……」
日花梨さんが手際よく小皿に取り分けてくれた。本当に、口さえ閉じていれば完璧な美少女である。
「いただきますー。……!?すごく美味しいです!!!!」
本当に驚いた!?こんなに美味しいとは思わなかった。レストランとかで食べる物とはまた違った美味しさである。
「そかそか!良かった良かった!家庭料理の延長上だけどねー」
本当に美味しい料理とはこういう何気ない生活の中にあるのだろうと改めて実感した。
「……ふむ!水槽を眺めながらの魚料理、大変美味である!」
!?魚を眺めながら魚料理だ!?
「……牧場で羊を眺めながら食べるジンギスカンこそ最高である!」
「これぞ食育だねだね!」
「な、なんかビミョーになってきました……」
「そう?アクアリウムってとても綺麗だけど、綺麗事で済まない事てよくあるからねー」
「……ふむ!朝水槽観たらヤマトヌマエビが全部星になって事も幾度もあったな……ん?この海老美味しいね」
パエリアの海老を食べながら花梨ちゃんは語った!?
「た、確かに美味しいですが、な、なんかビミョーに……」
「あのアクアリウムカフェとかって、あれだけお魚山のように入れてたら、朝になったら数匹星になってるとかよくあることよん!あと、今日行ったアクアショップでも開店準備で死んだ生体を処理するところから始まるよん」
……現実はとてもグロい……
「あと、そこで『ツマツマ』コケ食べてるヤマトヌマエビとか、絶好の生き餌だよ?」
「……命を飼うということは、そういうことだ。だから、最後まできちんと飼育しなければならない。ベストを尽くす事が必要。だからアクアリウムは素晴らしい。この水槽も多くの命の営みとバランスの上に出来上がっている」
アクアリウムは直接命を扱う趣味であると思った。私も飼うことが出来るのだろうか?
「まあ、花梨ちゃんがいれば水草水槽は大丈夫よん!」
「……ふむ!七海も自分のやりたいアクアリウムを始めるといい。水草水槽なら私、魚メインでするなら愛芽、海水水槽なら日花梨が詳しい。あと、奈良は金魚の事に詳しい」
「あ!奈良さんも水槽楽部員ですよね?一緒にいる所観たことないです」
「うんとね、水槽楽部と冷戦状態なのだ!」
……何があった!?水槽楽部と?
「……というか、奈良の姉とも分かり合える事が無かった」
「でも、愛芽さんとは仲良くやってますよね?……お二人に問題ありですね」
「……方向性の違いでガールズバンド『Black Current』は解散となったのだ!」
なんかとても聞き取りやすい英語である……!?直訳すると黒い流れ!?とか半端なく中二病の匂いしかしないヤバいバンド名だ。
「直訳すると、『黒い流れ』……黒流ですか?訳するとちょっと匂いますね……」
「あ、黒潮って意味の私らが考えた造語だから!」
それ位判ります!
「……そ、そう意味だったのか!?」
花梨ちゃんは英語は出来ないと困ります!
「……英語なんて出来なくても大丈夫だ!」
英国美少女にドヤ顔されても困ります!
「お父様かお母さまは英語喋らなかったのですか?少しは喋れそうだと思いますが……」
「母の英語を聞いたことがないな……日本人より日本人っぽいイギリス人だったし」
「……あと、私は父の血を多く引き継いでいる。」
「???お父様は日本人ですよね???お母さまの方じゃないのですか?」
おかしな話だが、どちら側に寄るとかなさそうなのだけど……。
「うむ!父だ。これは間違いない。だから私は探偵事務所を継いでいるのだ」
何か、ぽっかり重要なピースが抜け落ちている気が……高野山に来てからずっと感じていた。高野山に来てから『何かが判らない』から矛盾ばかりである。
色々と話しながらアクアパッツァとパエリアを完食した。多いかなと思ったが、3人分と考えると少な目だった。
「アクアパッツァとパエリアも美味しかったね!んじゃーそろそろシメのパスタでも入れてみようかなかな!」
なんと!?シメのパスタだと!?
初めて日花梨さんが光り輝いて見えた!?いいお嫁さんになれそうだ!但し喋らなければ。
日花梨さんが手際よく茹でたパスタをアクアパッツァの残ったスープに絡めて手直しの香辛料をサラッと振り仕上げた。
「ほい!っとこれで8分目位かなかな?」
普通に美味しかったアクアパッツァのスープを利用したパスタだ。当然のごとく滅茶苦茶美味しかった。
――だるまストーブを囲み、3人で美味しいご飯を食べることが出来た。何処かのペンションで食べているような雰囲気だった。キレイな水槽・美味しい料理・暖かな薪ストーブ。アンティーク調の探偵事務所のリビング。映画に出てきそうな光景だった。本当に最高である。花梨ちゃんはいつもこの雰囲気の中ゆったりと過ごしているのだろう。私の家は良くも悪くも普通の家である。住宅展示場に立ってる家そのものだ。使い勝手は良いが可もなく不可もないツマラナイ家である。
花梨ちゃんの家は、少し古めのいい雰囲気の家である。古民家ほど古くもない、明治時代の雰囲気を醸し出していた。ちょっとしたカフェでもすれば○○女子とかが喜んで来そうである。
パスタを食べ終わると日花梨さんが言ったように丁度8分目位だった。ゆっくり話しながら食べているのもあるけど、あとケーキと紅茶とかがあれば最高である。
……その時である!
『ピッピロッピッピロピピピー』
この世界観をぶち壊す近代的な炊飯器の炊き上がりの音が流れたのである!?シメのスイーツが欲しいところで茶漬けが出てきそうな炊飯器の……ってすごく甘い匂いがする!?
「お!シフォンケーキ焼けたみたいだねだね!」
って!?炊飯器でケーキ焼いてるぞ!?
日花梨さんが炊飯器の蓋を開け、内釜を取り出しお皿の上でひっくり返した。内釜をパカッと持ち上げると見事なまでのシフォンケーキが完成していたのである。
――女子力……既に暴力である!?
食べやすい大きさに切り分け、トドメに生クリームとフルーツを盛り付ける。
そして、薪ストーブで暖めたヤカンのお湯で紅茶……ではなく、『番茶』をヤカンに入れたのである。少しお茶を炊き出し、あえて渋み・苦みを出したのだろうか?
普通のマグカップに番茶を注ぎケーキと一緒に日花梨さんが出してきたのである。
「んじゃーシメのスイーツたべようか!」
「……やはり食後は番茶に限る!」
トドメのドヤ顔である!!!!!
「驚きと……意外ですね……炊飯器からケーキが出てきたと思えば、シメに番茶とは……」
「紅茶はアフタヌーンティーとして戴くにはいいけど、夕ご飯の後にはやっぱり日本人は番茶かなと!」
今日の夕食は何も飾っていなかった。だが、本当に素晴らしい夕食だった。何気ない普段の食生活を磨き上げただけである。何も飾らないけどとても深みのある夕食だった。
日花梨さんがとても輝いて見えるのは、何も飾っていない自然だからなんだろうと思った。内面から出てきた美である……性格が料理にも繋がっているのだろうか。
「お片付けは面倒くさいから、ナナちゃん食器洗っといてねー!」
前言撤回である!やりっ放しか!?
だが、とても有意義な夕食が出来たのは日花梨さんのお陰であるのは事実だ。
私も役割を果たすこととした。同時に食器洗いはいつも双葉の仕事でもあったのを思い出した。




