第27話 帰り道!?高野山でパスタを食べる英国人!?
アクアテイ○ーズを出発した私達だが……
――時速50kmである!!!重要なことだ!!
「花梨ちゃん!せっかく大阪まで出たのだからドコかへ寄っていきませんか?」
普通に家に帰るには早い。あと、とても重要なことを忘れているのである。
「えーっと、花梨ちゃん!お昼にしませんかー?」
軽快に自宅に向けて花梨ちゃんは警戒にバイクを……
――時速は50km!!!ええ?もうシツコイッテ?とても重要な事だ!
「……確かに……朝ごはん食べてから何も食べてなかった。七海の言うことも一理ある」
既に出発して1時間程走っていて、丁度休憩にするには良いタイミングでもあった。私は後ろに乗っているだけだけど。最初はタンデムツーリングがとても怖いと感じていたが、半日程花梨ちゃんの後ろに乗っていて慣れてきた。慣れると同時に緊張が無くなり、空腹を感じてきた訳である。
「花梨ちゃん、何か食べたいものとかありますか?私は何でも良いですよ」
主婦泣かせの『何でもいいぞ!』とか結婚したら奥さんに絶対に言ってはいけない事である。離婚原因になりかねない事案である。しかし、本当に何でも良かったのだ。
「……じゃあ、私の家の来る?ここから30分程で高野山に着くし……」
「ええ!?それじゃあ帰り道大変じゃないですか?もう一日私の家に泊まって行くなら大丈夫だと思いますが、今からでしたら帰り夜になると思います」
「……ふむ、それも一理ある。じゃあ、七海が私の家に泊まっていくといい。たしか家の水槽気になってたはず……ゆっくり観ていくといい」
何というチャンスであろうか!?今日は花梨ちゃんと二人きっきりでお泊まりである!事案発生の恐れありだ。
「泊まっていいのですか?それじゃあ!あのファッションセンターに寄ってもらっていいですか?替えの下着持ってないので……」
和歌山の流行発信の最先端である『ファッションセンターしまーむら』である!!
『しまーむら』で適当な下着を購入し、再びバイクで走り出した。
――確か時速50kmだったはずである。
市街地を抜け、高野山へと続く峠道に入った。
最初はとても怖かったバイクでのタンデムだけど、和歌山に戻った頃には眠気でバイクから落ちそうな程リラックスできた。6月には部の方針でバイクの免許を取りに行くこととになる。花梨ちゃんが今乗ってるスクーターも結構いいなと思い始めた。しかし、私の趣味かと言われればNOであった。確かクラッシックなバイクもあるらしい。バイクに興味なかったけど、水槽楽部のみんなと出かけるならちょっと欲しいかなと思ってきた。花梨ちゃん曰く峠道の事を『ワインディング』と呼ぶらしい。軽快に高野山へと登る道をクネクネと走っている。車だと多分乗り物酔いしそうな道だが、バイクだとこんなに爽快なのだと改めて実感した。
無事高野山に到着すると、一気に古式ゆかしき街並みに変わった。作られた古都ではなく、仏教の発信地としての役割が大きい高野山ならではである。常に手入れされた寺が多くあり、修行僧が町中を歩く風景も珍しくない場所である。
「結構外国人の方多いですねー。高野山だと花梨ちゃんも意外と珍しくないかもですね」
「……観光客の人に迷子に間違われて困る……地元の人は私の事よく知ってるから言われないけど」
――確かに、親御さんからはぐれた迷子の外国人の子供だ。
「ぎゃ、逆パターンですね……」
「ふむ、意外と迷惑な事だ!英語で話しかけられたら何を言ってるのか『ちんぷんかんぷん』だし」
――どこからどう見ても英国人娘です!
「花梨ちゃんの家ってどこにあるのですか?」
「……もうすぐ着く」
奥の院の大駐車を通り過ぎ、少し奥まった住宅街の中に花梨ちゃんの家はあった。もっと古風家なのかと思ったが、普通の一軒家だった。ただ、違うのは1階玄関に小さな立て看板が立っていた。『名水探偵事務所』と書いていた。ちなみに、マジックで『めいすん』と『ふりがな』を書いている。ふりがなが無いと『めいすい』と読んでしまいそうである。
「花梨ちゃんは探偵事務所でバイトじゃなかったのですか?」
「……うむ!父の探偵事務所でバイトしているのだ」
――それはアルバイトなのか?
「七海先に入ってて、私はバイクを車庫に入れてくる」
花梨ちゃんはそう言い残し、車庫へバイクを入れに行った。しかし、ひとり暮らしなのに鍵をかけてない?昨日から私の家に泊まりに来てた事だし、ちゃんと鍵は閉めていると思うのだが……。
探偵事務所兼花梨ちゃんの自宅らしき玄関のドアを開けようとしたとき、勝手にドアの鍵が開いた!?
――どうなってる!?
ここは不思議ハウス的な存在なのだろうか?花梨ちゃんは入って待っててと言ってくれてたので、素直に入って待たしてもらうこととした。
中に入ると、玄関からすぐに『こぢんまりしたリビング』だった。靴箱はあるが、スリッパもなく、段差も無いフロアーから靴のまま部屋に入っていいのだろうとすぐに判った。1階全部がほぼこのワンフロアーになっているようだ。しかし、水槽は置いていないように思えた。
しかし、リビングの静けさの中に、水が流れる音が入っている……
……右を向くと――
――す、すごい!
――時が止まったかと思った。
ドアの横の入り口側の壁一面に水槽が置かれていた。
大体ではあるが、玄関左側のスペースに120cm位の水槽が1つ。右側にも同じ大きさの水槽が3本並んでいた。部室とはまた違う雰囲気の水槽だった。
――左側の水槽はとてもシンプルだった。
部室にある水槽とよく似た水景、大きな岩が数個あるだけのシンプルなデザイン。しかし、水槽一面にとてもとても小さな葉の水草が絨毯のように覆っていた。その上をキラキラ輝くブルーの宝石のような魚が沢山泳いでいる。よく観ると部室の魚と同じようだが、若干色が違った。部室の魚は赤いラインが入っていたが、この魚はグリーンのラインが少し入っているだけだ。
――右側一番手間の水槽は、流木や岩など一切入っていない。しかし、水槽の手前、底面には先ほどの水槽より少し大きめの葉の水草がビッシリと茂っていた。水槽正面から観て、右側3分の1は左側の水槽と同じように底面を水草が覆っている。左3分の1にかけては、山のように水草が茂っていた。水草の種類は一種類のようだ。十字の形をした緑色の細くキレイな水草が、水槽の中央より少し手前から左側の縁にかけ徐々に高くなり縁になる所あたりは水面まで生い茂っていた。
この2本だけでも幻想的で素晴らしい水槽だった……自然と涙が出そうな位に……
――右側中央にある水槽に目を移した
大きな流木や岩が沢山入ってる。なんて表現したらいいのだろう……
水槽の手前、底面には隣の水槽と同じ水草が水槽の半分くらいまで絨毯のように茂っていた。しかし、途中から少し背の高めに若干濃い色のグリーンの水草が伸び出ていた。水槽全体の雰囲気だが、右側には流木が多めに配置されていた。流木と流木の間にはとても自然な感じに石をはめ込み崖のようになっている。流木の後ろには、右隣にあった水草と同じ者が伸び、十字の水草より背面から背の高い水草が水の流れに乗るように伸びていた。大体だけど、『左1』対『右2』位の割合で右側流木メイン、左側は岩がメインになっていた。左側の岩組の所には比較的大きめの葉の水草が顔を出していた。その大きい水草の葉の間のスペースを埋めるかのように小さく細い葉の水草が群がっていた。
――一番奥の水槽を観た……。
巨大な石が3つ入っていた。本当に大きい!水槽から上部がはみ出ているくらい大きい石……まるで岩だ。この水槽はある意味とてもシンプルだった。底面の前景は白いに近いとてもキレイな砂が敷かれているだけだった。後景は岩だけである。岩の間から所々水草が顔を出していた。そして岩の後ろから水槽の縁より高い水草……既に植物である。植物が出ている。岩の上面はまるで森に中にある川を切り取ったのような風景である。
――まさか……。
全部の水槽が見える位置まで移動すると……まるで一枚の絵のように繋がっていた。
――こんな事がアクアリウムで出来るのかと。
まるで芸術の域の水槽だった。
この水槽を花梨ちゃん一人で創り上げたのだったら、天才だ。
「……この水槽4本とも私が立ち上げてメンテもしてる。でも、一から私が創り上げた構図ではない……」
「……水草コンテストに出す人ならこれ位の水景をみんな創り出す……所詮私の水槽は趣味、そもそも私はコンテストとか嫌いだし」
いつの間にか花梨ちゃんが横にいた。隣に立っていることすら気付かない程魅了されていた。時間の流れが切り取られる感じがする。『とても綺麗』などという社交辞令の言葉なんて絶対に口に出せない圧倒感がこの部屋にあった。
――花梨ちゃんは趣味と言った、これ程純粋に好きを極める事が出来れば、何も語らずとも感じ取れる世界を創る事が出来るのだと改めて実感した。
アンティーク好きな私もお店で職人の技に魅了されり感動し鳥肌が立つ事もある。まさに五感で感じ取り、鳥肌が立つ程の感動を得た。驚くのは、目の前ある光景は、『生きている』からだ。そう、水草も魚も生きているのだ。模型じゃない。隔離された世界そのものだ。
「花梨ちゃんこれを一人で全て創ったのですか?ちょっと信じられなくて……」
「……ふむ、正確には助けの手を借りている。どうやってもこの水槽を搬入とかはできないし」
「……水景自体は私が考えた。でもオリジナルではない。この世界観を考えた先駆者がいる。それが私が愛用するA○Aの創設者」
「その人……こんな水槽を考えた人がいるのですね……一度会って見たいですね。きっと花梨ちゃんの水槽もきっと観てもらったら、色々水槽談義で盛り上がりそうですね!」
「……それはもう出来ないかな……」
「やっぱり……水草水槽界の先頭走ってる人ですもんね。いつか追いつけ着けるといいですね!そしたらきっともっと楽しい水槽が出来るかも!」
「……もうこの世界にはいない……」
――私は器用貧乏な自分が……やっぱり嫌いだ!結局薄い私の考えは薄い。私の言葉は薄い……。
――そして黙り込む……私……最低だ。
「……七海やっぱり貴方はいい子……自分を責める必要はない」
「花梨ちゃん、私の心、いえ、人の心読めるのですか?」
「……読めたら……そんなことが出来たら探偵事務所なんてやってない。事件が簡単に解決できてしまう」
「……七海、この先、七海がいれば、水槽楽部は楽しい部になると私は思ってる」
「……ちょっと遅くなったけど、ランチにしよう。近所に美味しいランチを出すパスタのお店がある」
「ここ高野山ですよ……イタリアンって」
……多分、普通の女子高生ならなんとも思わなかったが、花梨ちゃんだからちょっと面白かった。だって、見た目は外国人。高野山でパスタ食べている姿を想像するとちょっと笑えた。
日本に来てまでイタリアン食べてる英国少女になってしまうからだ。
「……ふむ、それも一理ある。うどんに変更しよう!」
「やっぱり私の心読めてますよね!!」
……花梨ちゃんは私の心が絶対読めると確信した。




