フェイボス・マイヤーとご対面
「こちらです、ウラニアお姉様。父と兄が来るまで少々お待ちください」
部屋から出て少ししてから急に他人行儀になった。王女様になれなれしくするなんてできないから仕方ないか。
案内されたのは手前の真ん中の席。奥の席はフォレスト卿がきっと座るんだろうな、この家の主だから。
「お待たせして申し訳ありません、王女殿下」
急ぎ足でやってきたフォレスト卿はやっぱり向かいの席に座った。フードは相変わらず付けている。
「お構いなく、フォレスト卿。……ところで、その……フェイボス様は?」
「あぁ。……もうじき帰ってくるでしょう。もう狩りの時間は終わりのはずですから」
「狩り?」
「えぇ、まぁ。ただの趣味ですよ。夜の帳が落ちると狩りの時間は終了です。ですので、すぐに帰ってくると思いますよ」
そう言ってフォレスト卿は謎めいた目で私を見たような気がした。すぐ優しげな目に戻ったからよくわからない。それに、フード被ってるから表情が読めない。
「遅れて申し訳ありません父上。彼女は?」
深緑色のフードを被った青年がこっちを見た。少し長めの前髪がフードから出て、鮮やかなベビー・ブルーが左目を隠していた。ダークブラウンの瞳と目が合う。どこか見覚えのあるような……。そんなことを考える暇もなく目をそらされた。
「昨日言っておいただろう。王女殿下と婚約したから、二年ほど王女殿下がこの家で暮らすと。こちらが王女殿下だ。王女殿下、こちらが愚息のフェイボスです。これからよろしくお願いします」
「これは失礼しました、王女殿下。フェイボス・マイヤーと申します。とうぞフェイボスとお呼びください」
きっと一瞬目つきが鋭くなったのは気のせいだ。
「ウラニア・アーヴィングと申します。ウラニアとお呼びください。二年間よろしくお願いしますわ」
私も席を立ってお辞儀を返した。
その後、フェドラが合流し、みんな黙々と食事を終えた。
部屋に戻って、ぼんやりとしていると
コンコン
「失礼します、ウラニア様。入ってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ、フェイボス様」
するりと入ってきたフェイボス様は部屋の中を見渡して言った。
「早く王宮に変えればいい。俺はこの婚約に反対だ。どうせ可愛い王女様が嫌がればこの婚約は白紙に戻る。王宮に戻ってこんな田舎臭いところ住みたくないと言ってきたらどうだ?」
会った時とは態度が全く違う。
「私、別に嫌じゃないわ。それに、ここを田舎臭いだなんてそんなこと思っていないわ。寧ろ自然が多くて綺麗なところだと思うわ」
驚いた私はそんなことしか言えなかった。
「ふんっ、どうだか。まぁ、いい。とにかく俺はこの婚約に反対だ。もちろんお前と慣れあうつもりもない。じゃあな。……。失礼しました、ウラニア様。長旅でお疲れでしょうから、ごゆっくりお休みください」
出ていくときはまた真摯な態度に戻っていた。
「な、なんなの、あの二重人格者はっ」
結局その夜はゆっくり休むこともできず、ウラニアは怒りで震えていた。
二重人格者最高。そして、フェイボスイケメン過ぎて鼻血が。
深緑色のマントに身を包んだ、細身の美青年。
ベビー・ブルーの透き通った少し長めの髪に真っ白な肌に映えるダークブラウンの瞳。
これぞ王子様ですなぁ。
あっ、左目の色は……ごにょごにょごにょ……。
ま、まぁ、いつかわかるのでお楽しみに。




