エルフの事情とマイヤー伯爵家の事情
荷解きがほとんど終わった。
「あぁ~、疲れた。ハンナ、少し休みましょう」
「え、えぇ。そうですね、王女殿下」
ハンナの同意を得て、一息ついたところにノック音が。
「ウラニア? もうそろそろ夕飯だから、準備してね」
「あっ、ま、待って。ね、ねぇ。その……。ドレス、選んでくれないかしら?」
それに、聞きたいこともあるし。
「いいよ。フェイボスの好みがいい? それとも、この家の雰囲気に合ったやつ?」
婚約者といえど、まだ顔も見たことないし、恋してるわけでもないのだけれど……。
「あー、両方っていうのはないのかしら?」
「んー。あ、これなんか、どう?」
フェドラが選んだのは落ち着いた水色のドレス。ドレスのふくらみも抑えられていて、露出も少ない。上品で綺麗なドレス。
「いいわね、とっても素敵。こんなドレス持ってたかしら?」
なんせドレスがたくさんあるのでどんなドレスを持っているかなんて覚えきれていないのだ。
「ふふっ。たくさんドレスを持っているのね。でも、気を付けて。ここらへんではあまり煌びやかな装飾を纏うのはよしたほうがいいわ。それと、赤系統の色は控えたほうがいいわね。白と黒もあまりお勧めはしないけど、少しあるぐらいなら問題はないと思うわ」
「どうして?」
「エルフたちがあまりそういうのを好まないの。エルフの暮らしは質素で上品。何よりも自然を大切にするわ。あぁ、茶色系は大丈夫よ。幹の色だから」
そうなのか。だからこの家もあまり煌びやかで派手な色の物はないのか。
「それと、あたしに何か聞きたいことがあって呼び止めたんでしょ? 何が聞きたいの?」
バレてた……。さりげなく聞くつもりだったのに。
「家に入ったときから使用人が見当たらないのはどうして? それと、家でもフードを被っているのは?」
そう聞くとフェドラは目を伏せ、黙ってしまった。
「……。ごめんなさい。昔からの取り決めなの。でも、大丈夫。フェイボスがあなたに教えてもいいと決めたらその時は全て教えられるわ。今は少しだけしか教えてあげられないけど、いい?」
ようやくフェドラは口を開くと、そう言った。
「えぇ、大丈夫よ」
「使用人は裏で働いているわ。表に出てくるのはフェイボスと父上が決めたとき。それと、フードは基本的には家では被っていないわ。客人がいるときだけ。客人がいるときにフードを外せるのも同じく、フェイボスと父君だけ。たまに使用人を見かけるかもしれないけど、彼らもフードを被っているわ。うっかり声なんかかけたらびっくりして逃げちゃうから気を付けてね」
最後のほうは何故か面白そうにそう言った。もしかして本当に驚いて逃げ出した使用人がいるのだろうか?
「さぁて、もう夕飯の時間よ。そろそろ部屋を出ようか」
驚いて逃げ出した使用人。
思わずツボりました。
お話に出しちゃおうか……。
名前を聞きにいかなくては。




