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にんげんぎらいの、ぼくのかみさま。

作者: かっぱまき

 小説を書いている時に地震が来ました。……これが無ければ恐らく間にあったのでは? と思わないこともないです。

 今は黄昏時。子どもはそろそろお家に帰らなければいけない時間です。


 さくさくさく、という小さな音がしんとした世界に響きわたりました。

 その音を発しているのは、小さな男の子でした。彼の小さな足は、同じく小さな長靴にすっぽりとおおわれています。少しぶかぶかなコートと彼の首を何周も出来そうな長いマフラーに包み込まれた彼はお使いの帰りでした。


 彼――あまねは、母に薬草を採ってくるように頼まれていました。

 周の母親はこの辺りでは有名な薬師です。そして、周はそのことが何よりの自慢でした。

 周は母が仕事をするときにはいつもついて回りましたし、その仕事の手伝いをしたいと幾度となく頼みました。

 その度に母は少し困った様な笑みを見せるのです。――あなたがもう少し大きくなったらね、と。


 では、何故周が薬草を取りに行くなどということになったのでしょう?

 ……それには、この辺りの風土病から説明しなくてはなりません。



 周たちが住んでいるのは、山に囲まれた静かな集落です。穏やかなときが流れるこの集落には、一つだけ他とは異なる点がありました。

 それが、「氷結病」と呼ばれる病でした。

 氷結病とは、冬の時期だけに蔓延する少々特殊な病気です。身体の末端から冷えていき、次第に身体の自由が利かなくなっていくのです。

 実のところ、特効薬となる薬草は少し山に踏み入れば簡単に見つけられるものですし、調合も必要ありません。患者の体温を下げてしまうと症状の進行速度が上がるので患者本人は薬草を採りにいけませんが、つまるところ一人でも無事な人がいればみんな助かるのです。

 

 しかし、この病はこの辺りに住む人々から大変恐れられていました。何故なら、雪解けまでにこの病を治すことが出来ないとその人も雪と一緒に解けてなくなってしまうからでした。



 この年、周の集落では多くの人がこの氷結病にかかりました。そのため、薬師である母も大忙しで薬草を採りに行く暇さえないほどでした。本来余分にあるはずの薬草がそこをついてしまったのも仕方のないことかもしれません。

 勿論、彼女はすぐに新しい薬草を採りに行こうとしました。しかし、彼女が出掛けようとしたときに、新たな患者が運び込まれてきたのです。薬草が無くても、症状を遅らせることは出来ます。ですから、彼女は家を空けるわけにもいかず、困ってしまいました。

 その様子を見ていた周は言いました。――だったら、ぼくが採りに行くよ。



 周は此処に来るまでの経緯を思い出しながら家までの道を進みます。風が吹いてマフラーを引き上げましたが、彼の鼻の頭は真っ赤に染まっておりいかにも寒そうです。

 マフラーがはためき、周は思わず目を瞑りました。

 いつのまにか風が強くなっており、前がどちらかも分かりません。それでも、周は家で待つ母親のことを考えて一歩踏み出そうとしました。


「うわぁっ!?」


 しかし、踏み出したところには地面が無く、彼の足は空を切りました。ちいさな悲鳴は雪に吸い込まれて消えてしまいました。



「んぅ……?」


 周が目を開くと、そこには一面の白が広がっていました。しかし、寒さはありません。びっくりして自分の手を見てみると、それは透けていました。


 周は思いました。――ああ、死んじゃったのかな、と。

 それから、母親に申し訳ないことをしたと思いました。彼は知っていたのです。母が自分に薬師の手伝いをさせたくなかった理由を。……彼の父が薬草を採りに行ったまま帰らなかったということを。

 何だか泣きたくなりましたが、涙は出ませんでした。この身体では、泣くことすらできないようです。



 暫く周はそこに寝転がっていましたが、視界に黒いものが見え驚いたように跳ね起きました。


「ねぇ、きみ」


 周が声を掛けると、その黒いものはさっと身を翻しました。


「あ、ちょっと待ってよ!」

「……」


 周の言葉に、その生物は立ち止まりました。

 しかし姿を見せる気は無いのか木の後ろに隠れたままです。


「なんだ、おまえ子供か?」


 恐る恐る、といった様子で尋ねてきた声に周は小さく頷きました。


「そこから出てきてお話しようよ」

「……いやだね、おれは人間ってやつが大嫌いなんだ。それにおれの姿は醜いからな」

「そうかな、ふわふわで可愛いと思うけど……」

「……見たことがないからそんなことが言えるんだよ。で、おまえ、こんなところでどうしたんだ?」


 その生物は吐き捨てるように言いました。

 彼と仲良くなりたいと思った周は、今まであったことを全部話しました。話を聞き終えると、彼は言いました。――それなら、おれが助けてやろうか? と。


 周はびっくりして言いました。


「人間が嫌いなんじゃなかったの?」

「……ふん、ただのきまぐれさ」



 その黒い生物は、周に目を瞑っているように言いました。

 大人しく目を閉じていると、手を引かれる感覚がありました。風の音が耳元を通り過ぎていきます。



「もう、目を開いても良いぜ」


 彼の言葉に周が目を開くと、そこには。


「おかあさん!」


 寒そうに手を擦っている母と、患者の姿がありました。周にはすぐに分かりました。母も氷結病にかかってしまったのだと。

 いくら呼びかけても、声は空気を揺らしませんし、折角の薬草も渡すことが出来ません。


「どうすればいいの」


 ぽつりと言葉がこぼれました。周には、どうしてあの生物が此処に連れてきてくれたのかもさっぱり分かりませんでした。

 そのとき、優しい声がしました。


「おまえならできる」


 そうして、頭の上には優しい温度が。

 この言葉には聞き覚えがありました。幼い頃に亡くした、父親の口癖でした。


 周は思わず振り向きましたが、そこには黒い姿が一瞬見えただけでした。


 ――大きくなったな。


 気のせいかもしれませんが、周にはそう聴こえました。


「……あれ?」


 周は、自分の頬が湿っていることに気が付いて声を上げました。確かにさっきは泣けなかった筈なのに、と。


「周!」


 母の声が響きました。


「あれ、ぼく、どうして……?」

「周、お帰り周」

「ただいま!」


 周は反射的にそう答えました。

 それから思いました。さっきまでのことは何だったのだろう?

 だけど、手にはしっかりと薬草が握られていました。



 その年、周の集落では一人も欠けることなく冬を越しました。


 春になり、ひとりで山に遊びに行った周はあの場所を探して見ましたが、ついに見つけることはできませんでした。



 ――おとうさんの手は、誰でも治しちゃうからかみさまみたいだね!


「きみは、やっぱりぼくのかみさま」


 周は小さく呟きました。

 それに答えるものは無く、風がただ吹き抜けていくばかりでした。

 設定いかしきれていない感がすごいです。時間が無かったので、恐らく誤字まみれです。近いうちに直します。


 最近「魔術師の~」をさぼりがちなので、こちらも近いうちにあげたいと思います。これが、今年の初投稿ってさぼりすぎですね……。

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