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6. 森の広場


 森の中に忽然と小さな広場が現れた。木が無くなって日の光が差し込んでいる。靴の下の感触もなんだか硬い。地面を掘ってみると下は石だった。石畳が敷かれた上に落ち葉が降り積もり、腐葉土となって草が生えている。元は建物でもあったのだろうか。

 そして広場の真ん中に細い道が出来ていた。獣でも通るのか草が踏み固められている。


「ほら、向こうに道があるだろう。石畳の。」


レイルが指さした広場の向こう側には確かに道があった。石畳の道だ。広場を突っ切る獣道が木立の間の細い道へと続いている。道の周りの枝葉は取り払われて、広場のように腐葉土に覆われているわけでもない。石畳の割れ目からは草が伸び、木の根が這い出しているけれど、欠けた所には色の違う石が嵌め込んである。

明らかに人の手の入った道だった。


「この道って誰が使ってんだろ?」

「地図だと、この道は東の山に続いてる。東の山の中にはカイトさんの家があるよ。」

「カイトさんって?」

「ほら、狩人の。月に何度かウチに来て、獣の肉や毛皮を売りに来るの。」

「へぇー。でも山まで随分あるだろ。」

「うん…。近づいては来てるよ。」


それより、とリリーが声を上げた。


「宝物まであとどのくらい?」

「まって。」


ルアは広場の明るい地面に地図を広げた。みんなが周りから覗き込む。たぶん今この辺で、朝から歩いて来た道がこう。

指をさして説明すると、げんなりした様だった。


「まだこの辺なんだ。」

「遠いなぁー。」

「今日中に着けるかな?」

「此処まできたらそう遠く無いはずだし。」


そういうルア自身も疲れていたので、ここでお昼休憩を取ることにした。


広場の真ん中の、よく日のあたる場所で車座になった。

それぞれ、膝にお弁当を広げる。

ルアは挟みパンがお弁当だった。丸パンの真ん中に切れ目を入れて、具を挟んだ料理だ。具はレタスと潰した卵のやつで、卵には酢漬け玉ねぎを刻んだものが混ぜてある。ルアは生の玉ねぎは辛いから嫌いなのだけど、酢漬けにすると辛くないから食べられるのだった。

レイルのも同じく挟みパンで、具は緑の丸菜と厚切りのハムと汁気を抜いた赤茄子だった。レイルが鞄を落としたり、振りまわしても大丈夫なように、しっかり油紙に包んで、紐で縛ってある。

リリーのお弁当は具入りのケーキパンだ。干しブドウと干しアンズとクルミが沢山入った、甘くてふわふわのパン。ついでに青い長ケ林檎が一つ。

ランのお弁当は一番量が多くて、丸パン2つにお弁当箱一つに赤の丸林檎一つだった。道理で包みが大きいわけだ。横長のお弁当箱の中には仕切りが入っていて、片側には茹で野菜に赤茄子のソースを絡めたの、もう片側には小さな焼き魚が4尾、互い違いに入っていた。こっちは塩と赤山椒のすり潰しが掛けてある。この大量のお弁当を、ランはぺろりと平らげてしまった。しかも、食べ終わるのが一番早い。

長ケ林檎を食べながらリリーが言った。。


「やっぱり林檎は美味しいな。私、長ケ林檎って好きなんだ。」

「俺は丸林檎かな。柔らかいし、甘いし。」


と、すかさずランが言う。

二人は静かに睨みあい始めた。リリーが今黙っているのは咀嚼中だからだ。

慌ててルアが言う。


「私は林檎より蜜柑の方が良いな。手で向けるし、汁気も多いから。」


レイルも挟みパンの最後の一口を急いで呑みこんだ。


「僕は丸団栗が好きかなぁ。」


「丸団栗?」

「うん。丸団栗だって木に生る食べ物でしょ?」

「そういう分類か。」


ランがうなずいた。


「確かにな。丸団栗の焼き菓子、美味しいよな。」


丸団栗は大きな丸い木の実だ。団栗と付く割に帽子を被っていないし、どちらかと言えば栗に似ている。色は艶やかな黒で、大きさは子供の握りこぶしよりも大きい。頭の上に落ちてくると怪我をするので、秋に丸団栗の木に近づいてはいけない事になっている。でも丸団栗は凄く美味しい。蒸かせばほんのり甘くて、粉にして練って焼いたらサクサク軽い焼き菓子になる。


「あ、あれって丸団栗じゃない?」


リリーが指さした先は、広場の向こう側、街道の入り口のすぐ横の木の上だった。確かに緑の葉の間に薄茶色の木の実が揺れている。色は違うが形と大きさは間違いなく丸団栗だ。

みな木の傍によって、しげしげと上を見上げた。


「ほんとだ。丸団栗だ。」

「茶色いねー。まだ暑くなったばかりなのに、もうこんなに大きいんだ。」

「あれっ、ランったら、なにしてるの?」


急に、ランが丸団栗の木に登りだした。


「丸団栗を取るんだよ。」


そう言うと、するすると上まで登ってしまった。実は、ハジマリ村の子供の中で一番木のぼり上手なのがランなのだ。


「そんな茶色いの取ってどうするのよー!」


リリーが下からから叫ぶと、ランも上から叫び返した。


「知らないのかよー!丸団栗はなー、茶色くてもその辺に転がしとけばー、真っ黒になるんだぜー!」


「へぇー。」

「そうなんだ。」


感心するレイルとルアを脇に置き、リリーも負けじと叫び返す。


「何よー!なんでそんなこと知ってるのー!」

「爺ちゃんから聞いたんだよー!ほら!落とすぞー!」


ランはもぎ取った実を下へ落とし始めた。

どちらにしても、秋の貴重な楽しみである丸団栗が手に入るのだ。3人はうまく受け止めたり、受けそびれたのを拾ったりして丸団栗集めを楽しんだ。手の届く範囲の丸団栗をあらかたもいでから、ランは木から下り始めた。

その時。


ギャガギャガギャッ!!


耳障りな鳴き声と共に、茂みから何かが飛び出してきた。

レイルが叫ぶ。


「ヘビグイだっ!7匹いる!」

「ルア!後ろだ!」

後ずさったルアが何かを踏んだのと、ランが叫んだのは同時だった。


「えっ!?ドロミズススリに、ハリトバシ!?」


振り返ったリリーの驚いた声と、足の感触にルアは焦った。

ルアが踏んだのはドロミズススリの粘液で、獲物の動きを鈍らせる。現に、ルアの片足はぬかるみに取られたかのように動かない。

咄嗟に靴を脱ぎ、身体を反転させた。

三匹のドロミズススリが、地面を滑るように近づいてくる。その後ろから、ハリトバシがお尻の毒針をこちらに向けるのが見えた。


「ドロミズ4匹、トバシ1匹!」

「3匹よ!レイルはヘビグイ抑えて!」


ルアを捕えたドロミズススリは、リリーのフレイルで潰されていた。

後ろからは、鋭い鞭の音が連続的に聞える。レイルだろう。

とにかく急いでハリトバシを仕留めなくてはならない。


「…っ。」

「ルアっ。」


その時、ルアの腕に何かが刺さった。

見なくても判る。ハリトバシの毒針だ。いつもの癖で、普段木盾を持つ方の腕で受けてしまった。

動くほうの手で、ポケットから丸薬を取り出し奥歯で噛んで飲み下した。

毒消しを飲んだから、直に動くようになるだろうし、これ以上痺れる事は無い。既に左腕は動かないので、右腕だけで銛を投げた。

狙いはハリトバシだったが、やはり逸れて地面に落ちた。

リリーのフレイルはドロミズススリを薙ぎ払ったが、ハリトバシには届かない。


間に合わないっ!


ハリトバシは毒針を飛ばした後、必ず『警告音』を出す。この警告音は、人の耳には低いうなり声にしか聞えないが、ハリトバシの耳には良く響く音らしい。ハリトバシは毒針を1本しか持ってないから、1匹につき1度しか毒針を使わない。毒針を放った後はひたすら警告音を出し続け、仲間を集め続けるのだ。


ハリトバシが『警告音』の予備動作をした、その時。

何処からか飛んできた矢が、ハリトバシを地面に縫いとめた。



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