幽霊部員Ⅱ
ここのところあったかくなってきましたね。
呆れた顔で小鳥遊は赤月をみた。
「何してんの?」
笑みの混じった歪んだ顔で赤月は答えた。
「いろいろありましてね。」
「この男が餌になるんだよ。湖あったでしょこの町。あそこの桜の木にくくりつけて一晩待てば、獲物はかかるというわけ。分かるよね。」
平然とした表情をしながら月花が答えた。赤月は、助けを求める視線を小鳥遊に送った。深い溜息をつき一歩ずつ赤月に近づいていく。
「赤月、こっち。」
縄を月花から奪い取り、全身に絡みつけられた縄をほどき、首にきつく結びつけた。「何してるんすか小鳥遊さん。」と、赤月が呟いたが腹にパンチをかましついでにビンタを両頬にかました。赤月の小さな悲鳴に多少の快感を覚えていた。
「何してるの?」
どこかで聞いたようなセリフを阪峰が言った。首に縄を巻きつけられた赤月を哀れな目で見ながら小鳥遊に歩み寄る。巻きつけられた赤月を無理矢理ひったくると再び腹にパンチをかました。「何で殴ったんすか。」赤月の小さな悲鳴を耳にする。ニヤリと笑みを浮かべて小鳥遊に渡す。その様子を遠くから月花が眺めていた。
「野蛮だな。」
腕を組んだ月花が言う。赤月の胸ぐらを掴み、廊下へ投げ飛ばす。
「さて、餌の準備はできた。今夜木に吊るしに行くぞ。」
満面の笑みで仁王立ちをする人々に鷹崎は震えていた。なんて奴らだ。こいつらは本当に人間なのか?人間の皮をかぶった悪魔かなにかじゃないのか。いくらなんでもは赤月が可哀相だ。赤月に近づき縄をほどく。小さな声で礼を言われる。なぜか腹が立った。
「入部おめでとう。」
月花が言った。鷹崎は驚きのあまり、声を失った。月花の目を見る。彼女の目は真剣だった。ここにくることが必然でまるで決まっていたかのように。歯車が回り始めた。
「お前も入りたいのか?」
小鳥遊にそう問いかける。戸惑いで目を泳がせながら。彼女は首を動かした。
「すると、後ろのお前もだな。」
月花は黄色い小箱から紙を三枚取り出し、一時停止をした。そして、一枚だけ小箱に戻すと紙を配った。
「ここに名前を書いてくれ。」
言われた通りに名前を書いた。それを確認すると、月花は二人の手から紙を奪った。
「手続きは無事完了ってところかな。今日は解散しよう。小鳥遊は残ってて。」
不思議そうな顔のまま立ち尽くす小鳥遊の横を通りすぎる。シャンプーのいい匂いがした。軋むドアを開いて外にでる。埃のたまった窓から夕陽が差し込む。カラスの合唱に合わせて運動部員の掛け声が混ざり合って、心地の良いハーモニーが胸の中で鳴り響いた。阪峰と赤月がドアの前に貼りついて聞き耳を立てていた。ひそひそ声で会話をしている。小鳥遊の後ろに何かいるだとかいないだとか。自分の目には映らないことで話している。あんなに彼女のことを見ていた俺だが、そんなものは一度も見なかった。二人の後ろに続いて盗み聞きをする。情報を集めなくては。俺の知らない彼女がいてはいけない。そんなことでは不安で夜も眠れなくなってしまう。家族構成、生年月日、生まれた時の体重、風呂でどこから洗うのか、何時に帰宅し、何時に眠るのか、好きな相手などなど、彼女の全ては俺の中にある。それなのに後ろになにかいるなど身近なものに気づけないなんてだらしない。ちょっと待てよ。俺のことか。いつも彼女の後ろにいる。そうか俺のことか。やっと気づいてもらえたんだな。そうだよ。俺はずっとそばにいる。後ろからそっと見守るだけでいいんだ。ただ、もうちょっと早く気づいて欲しかったけど。気にしないでおこう。足音が近づいてくる。俺は音を消してその場から立ち去った。毎日の鍛錬がここで活きてくるとは。継続とは力なりとはこのことか。玄関の前に無音で舞い降りる。砂利の音すら鳴らさない。ここで待っていればみんな出てくるだろう。そこで、「先に帰るのもあれだから。」といつも女子どもを相手にしているハイパーイケメンスマイルを披露すれば誰も怪しまないだろう。
一時間くらい時間がたった。陽はもう落ちて虫が鳴き始めた。鳥など一切いない。
「待っていたのか。てっきりもう帰ったと思った。」
月花が申し訳なさそうな顔で手をふっていた。
「いや、そんなことはないよ。」
嘘だ。寂しかった。誰もでてこないなんて聞いたこともないよ。あれから何時間待ったと思ってるんだ。赤月と小鳥遊は仲よさそうにしてるし。なんでだ。俺じゃなくてあいつなんだ。畜生。悔しさだけが心に残った。
感想があればお願いします。
アドバイスとかあれば嬉しいです。




