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明日のこと

翌日の学校は何一つ変わったところはなかった。教師も生徒もいつもどおりに賑やかだった。ただ知らなくてもいい事実を知ってしまった俺は、その光景を異常に見えてしまった。彼らは何一つ悪くはない。誰一人として悪い人間はこの教室にはいないはずだ。だが、知ってしまっただけでここまで世界が狂気に満ちているように見えてしまうのか。いっそのことこの目ごと抜き取ってしまいたいものだ。机に突っ伏して耳を塞ぐ。仲間が殺されたというのにのこのこ学校へやってくる自分の方がおかしいのではないかと疑い始めた。気分が悪くなり、立ち上がる。行くあてもないが、とにかくここにはいたくなかった。隣の小鳥遊の席は空席だった。当然だ。片恋相手が殺されたのだ。こんなところに来れるはずがないだろう。

 言葉足らずの感情が渦を巻いて静かに廊下の大理石に散らばった。思考を張り巡らせることはもうこれ以上できないみたいだ。諦めるとはこういうことか。これからどこへ行こうか。埃の溜まった踊り場に鷹ノ崎がいた。ともに目があい、立ち止まった。そこに生まれる言葉はなかった。言いたいことは山ほどあったが何を言えばいいのだろうか。結局、目の前の鷹ノ崎は無言のまま立ち去って行った。

 腐った木の臭いがする校舎で月花を待っていた。静かな空間に木々を揺らし、葉っぱが擦れる音を生み出した風が颯爽と通り抜けていく。かすかに花を通る粉っぽい木くずが鼻の中に流れ込む。くしゃみを一つすると本棚に積もった埃が舞う。落ちた埃が床板の木々の間に入り隙間を埋める。窓の外で鳩が飛ぶ。何気ない時間が過ぎていく。相変わらず絶え間なく葉のかすれる音が向こう側から聞こえる。息を吸う音と吐く音が繰り返し刻まれていく。この空間に自分しかいない空気を味わっていた。目を閉じて肩の力を抜く。少し眠ろう。鷹ノ崎が殺されたという事実はなくならない。死んだ魂はどこに行くのだろうか。くだらないがそんなことを意識せざるを得なかった。人は突然死ぬというがこんなに呆気ないものなのか。見下ろした床に積もっていた埃は風で吹き飛ばされたようだった。もう一度目を閉じる。こんどこそしっかりと眠ろう。

 騒がしい音で目が覚めた。人が一人倒れる重い音だ。瞼を開くと見覚えのある背中があった。小鳥遊の手にはナイフが握られていた。銀色にきらめく刃には水のように透明で粘り気のある液体がだらりとぶら下がっていた。それが血であることに気が付くのに時間はかからなかった。

「小鳥遊?学校来てたんだ。」

後ろを睨むような目に震えあがる。床には鷹ノ崎の体があった。

「何してんだ?」

小鳥遊は口を強く結んだまま流した涙を拭っていた。

「復讐。」

そう呟いた声は震えていた。俺は言葉を失っていた。何を言っていいのか分からない。ただ黙っているしかできなかった。床に転がった鷹ノ崎の死体から透明な液体が流れだした。それは次第に大きくなり、鷹ノ崎の体を包みこんだと思うと、鷹ノ崎の体に吸い込まれるように消えてなくなっていた。鷹ノ崎の指が動く。目を開き息を吹いた。それと同時に床に散らばった埃が宙を舞った。腕をゆっくりと動かし立ち上がる。その間、小鳥遊の目をじっと見つめていた。

「なに、これ?」

戸惑う小鳥遊は再び鷹ノ崎にナイフを向けた。鷹ノ崎の姿をしたそいつは腕を両手にあげたかと思えば小鳥遊の肩に手を置いた。

「やめてくれ。」

そいつは手を下ろすと出口に向かった。小鳥遊は膝から崩れおち、その場に倒れこんだ。そして静かに泣き出した。すすり泣くその声に胸打つものがあったが何も言えなかった。何を言ったところで小鳥遊の心を癒すことはできない。俺には何もできないとふと悟った。廊下の遠くで爆音が響く。頭をあげてみる。靴音が徐々に近づいてくる。その姿は月花だった。

「何してる二人とも。」

いつにも増して強気な彼女は左手にぶら下げた鷹ノ崎を雑に放り投げた。彼の体は小鳥遊の前へ差し出された。

「小鳥遊、好きにしていいぞ。」

月花の得意げな顔があった。

月花に事情を話す。月花は「すまないことをした。」と小鳥遊に頭を下げた。棚に置かれていたビニールロープで鷹ノ崎を縛る。

なんか今気づいたけど鷹ノ崎じゃなくて鷹崎なんだよね。暇だったら直すか。

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