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揺れて

 ブランコに座ってゆれていた。鷹ノ崎の死は衝撃的だった。彼の葬式は開かれないだろう。彼自身の体は今も普通の生活を送っている。学校にはきちんと来るし、家にも帰る。ただ、中身が鷹ノ崎ではない別の何かであるだけのことだ。それがわかるのは月花と俺たちくらいだった。どうしようもない現実にやりきれない気持ちでいっぱいだった。溜息を一つつく。こんなことが起こるものだとは思ってもいなかった。平和に暮らして平和に死ぬことはできないのか。俺はどこへ向かっているんだろうな。地面に落ちた小石を拾ってどこかに投げた。小石は空になったゴミ箱に音を立てて入っていった。仕方がないことなのかもしれない。起きてしまったことはどうにもならない。ブランコから立ち上がる。公園の入り口に赤いマントを纏った女が立っていた。とっさに身構える。こいつらか鷹ノ崎を殺したのは。

「なんの用だ?」

赤いマントは体一つ動かすことなくゆっくり話し始めた。

「ここに来たのは争いに来たわけではない。」

「どういうことだ?」

赤いマントはブランコに座っていた。そして、指をクイっとやった。そっちに来いということか。ついさっきまで座っていた赤いブランコに再び腰を下ろした。まだ暖かい。

「君たちの仲間の一人が殺されたと聞いた。それは本当か?」

「あ、ああ。」

戸惑いを混ぜながら答える。

「そうか。素直だな。」

そういうと赤マントは鼻で笑った。むっとした表情で睨んだが、それも余裕の表情で返された。

「こんなところで争う必要はないといっただろ。小僧。のんびりしている暇はない。我々の仲間の一人が殺された。君も私も一人ずつ失っている。これに何か意味があると思っているんだ。」

こいつの言っていることが理解できなかった。そもそも赤マントとなぜ争っているのかすらよく分かっていない。ただ、仲の悪い隣人程度の認識だ。それが殺すだとか殺されないだとかそんな物騒な話が聞こえてくる。この街で何が始まろうとしている。心の中を霧が覆う。

「我々の違いに気づいているのか。そうか。そうか。」

赤マントは笑いだした。驚き、体を動かす。ブランコの鎖が音を立てる。

「すまない。奴等は我々より少し上のようだ。違いが分かる相手だったとはな。これは楽しくなってきた。」

拍手をしながら赤マントは立ち上がった。その背中からは喜びが見て取れた。

「ありがとう。何かが見えた気がしたよ。」

赤マントはそのまま立ち去っていった。去り際に「何かあったらまた現れる。」と言った。

特に用事もなかった。ただブランコに揺られていよう。そう思っただけだ。夜の冷たさが月の光と混ざって頬を撫でた。背筋が震える。対角線にある公園の出口に女が立っていた。その女はこちらをじっと見つめていた。一歩前に足を出した。俺は揺らしていたブランコを止めた。ゆっくりと近づいてくる彼女から目を離さず立ち去ろうとした。熊と遭遇した時の動きを自然ととっていた。どうやら自分は彼女を人間として認識していないのかもしれない。地面まで伸びたボサボサではねた長い髪を引きずってニコニコしながら歩いてきた。彼女が立ち止まった途端、突風が吹いた。だらりと垂れた前髪がカーテンのように開いた。その時、髪の向こう側の彼女と目があった。しばらく、口を開けたまま呆然としていた。彼女が横を通る。たった二度しか会っていないはずなのに、どこかで会ったことがある気がした。ただ気がしただけだ。デジャブと似た感覚だろう。鎖の軋む音がした。彼女はブランコに座っていた。隣に並んで座る。何も声を発することもなく座っていた。夜の街灯にたかる虫たちが照らされる。二人してひたすらブランコを揺らす。時間だけが過ぎていく。そこに優しさを感じていた気がした。

しばらく時間を忘れて二人、ブランコに揺れていた。白い街灯に照らされた公園で軋む鎖の音を鳴らしていた。突然、隣から鎖の音は聞こえなくなった。横を向くと立ち上がった彼女の姿があった。そして、公園の外に向かって足を引きずりながら歩き出した。慌てて彼女の手をつかもうと立ち上がろうとした。しかし、体が全く動かなかった。彼女は振り返って言った。

「まだ、会っちゃダメだから。」

彼女はそう言うと夜の闇に消えた。

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