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お花畑

花に群がる蝶をただじっと見つめている。まだそんな季節か。空に浮かぶ薄黒い雲からしんしんと白い雪が降っているのが見えた。雪は土に触れたかと思うとたちまち塵のように消えていった。周りには何もない。ここで体育座りをして、ただぼーっとして。何をしてたんだっけ。考えても無駄だ。一つも思い出すことはない。時間が過ぎていくたけだ。まあ、これも悪くない。知らないうちに時間が経って知らないうちに死んでゆく。理想の人生だ。誰にも気付かれずにひっそりと息をひきとる。確かに孫とか息子とかに囲まれて死ぬのも悪くないと思う。それもかつての候補だ。もう、忘れた夢の一つだな。一度笑いが溢れた。涙も流れた。ここにいてもいいのか。背後から聞き覚えのある声が聞こえてくる。問題ないよ。と返す。残された人は?とまた声が聞こえてきた。何を言っているのか理解ができなかった。残された人?そんなのがいたっけな。面白いことを言う奴だな。あー確かこういうのって後ろ振り返って見たら自分が立ってたりするんだよな。よくある話だ。きっと潜在意識とかいう心の奥底の自分と会話をしているんだろう。自問自答。くだらないそれこそ無駄の境地だ。人と話すことの方がよっぽど価値がある。三度声が聞こえてくる。お前はどうするんだ。何もしない、このままでいいよ。放っておいてくれないかな。何も考えないリラックスした空間を奪わないでくれないか。ちゃんとこっちを見ろ。うるさい、黙れ。振り向いた先には得体のしれない何かが立っていた。まるでフルフェイスのヘルメットを被った人型の何かだった。鉄格子の外からそいつはじっと見つめていた。何者か尋ねようと声を出そうとした。しかし、以前のように話すことはできなかった。声が頭に流れ込んでくる。どうする?お前は?知った感覚だ。しかし、自分の意思を伝える手段がない。ここはどこなんだ。必死になって考える。焦ったが冷や汗が背筋を伝うことはなかった。困り果て、頭を両手で抱えようとしたが両手はなかった。慌てて周りを見るが体がなかった。前に立っているそいつは笑うように肩を揺らした。焦ってるようだな。まるで自分の考えることのようだ。何がどうなっている?そう、頭の中で念じた。すると、自分のではない何かが語りかけてきた。分からないのかい?嘘だろ?本当は分かってるくせに。そういうとその人型は目の前から去っていった。自分がどうなっているかの確認をしようとした。体がない。それは分かった。しかし、どうして物が見えているのか?第3の目というやつか。それとも頭だけ残っているのだろうか?考えてもしかたがないそれは諦めるとするか。後ろを振り返れば夢の世界が広がっている。そこを見ながらのんびり考えるとするか。それにしてもさっきの人型のあいつ。謎の板を持っていたけど、まるでカルテみたいだったな。あいつ、医者なのかな?まあ、どうでもいいか?

夢の世界に浸ってると考えようとしたことは気づかないうちに忘れていった。先ほどまで不安に思っていたこと今は嘘のように消えてなくなっていた。何か大事なことを忘れているような気がする。だが、簡単に忘れてしまうようなことだ。大したことではないのだろう。

「調子はどうだ?」

背後から声が聞こえた。聞き覚えのある声だった。

「どうもこうも一つも悪いところなんてない。こんなに清々しい気持ちは初めてってくらいかな。それより、ここはどこなんだ。友達に教えてやりたいくらいだよ。」

「そうか。それは良かったな。だが、あんたは当分の間その友達に会うことは出来ないかもな。」

「それはどういうことだ?」

人型のそいつは溜息をつくように言った。

「あんたは捕まっているんだよ。いわゆる捕虜ってやつさ。知ってたと思ったよ。」

身が震えるのが分かった。震える手足などないが、にわかに感じるこの感覚は恐怖というやつだった。

「それじゃ、俺は殺されるのか?」

すると人型は肩を揺らして笑った。

「あんた一人殺したところでなんの意味もない。人質を殺してどうするんだよ。少しは頭を使えよ。自分が捕虜であることに気づけないようだから無理もないけどな。」

悔しくなった。歯ぎしりをしようとも動く歯がなかった。

「俺の体はどこにあるんだ。」

「安心しろ。あんたの体は安全に保管してある。全てが終わったらちゃんと返してやるから大丈夫だよ。大人しくしてろ。」

「そうか。大丈夫なのか。」

「大丈夫だよ。それで、どこか悪いところはないのか?」

「な、何もない。」

「そうか、ならよかった。また、来るからな。」

人型のそいつは立ち去った。不安は残るばかりだった。人型のこいつはなんなのだろうか。捕虜とか言っていたな。だとしたら、そういうことなんだろう。俺は捕まった。誰にだ?人型のこいつらだ。考えたとすればあいつは敵ということになる。敵?敵とはなんだ?俺は気づかないうちにファンタジーの世界に紛れ込んでしまったのか。頭が混乱してきた。理解する必要のないことだってあるはずだ。そうだ。後ろを見て全てを忘れよう。あの景色ならなんでも怖くなくなる。そういうものだろう。振りかえって見た先の景色は暗く晴れない霧が遠く遠く続く空間が広がっているだけだった。妙な気分だった。普段なら吐き気を催すはずだった。しかし、今はそれがない。ただただ押し寄せる不安だけがここにあった。

 


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