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小鳥遊さん

教室に近づくと騒ぎが起きていた。小走りで教室に入るとそこには黒板に大きく赤い文字で「違う」と書き殴られていた。誰が書いたのかなんの意味があって書いたかは分からない。だが、頭に叫び続ける何かがいたことは間違いなかった。痛む頭を抱え、よろめきながら椅子に座った。昨日から一体なんなんだ。俺が何をしたっていうんだ。心配そうな顔をした小鳥遊が近づいてくる。

「大丈夫?保健室行く?」

薄気味悪い半笑いを浮かべ、「だ、大丈夫。」と軽く返事をした。落ち着けばなんとかなると自分に言い聞かせた。吸って吐いて吸って吐いてを繰り返し、頭痛が引くのを待った。ようやく治ったころ、小鳥遊が黒板に指をさして尋ねてきた。

「あれってどういう意味かな。私は書いた本人は苦しんでるんだと思う。」

指された方向を見るとそこには赤い文字で「違う」と書き殴られた黒板があった。すると頭に痛みが走った。頭をぎゅっと抱え痛みが引くのをひたすら待つ。心配そうな顔をした小鳥遊が目の前にいた。吸って吐いて吸って吐いてを繰り返し、落ち着くのを待つ。ようやく痛みが消えた。ほっと胸をなでおろした。

「それで小鳥遊、なんて言ったの?」

「だから、あの黒板見て。」

言われた通り黒板を見つめた。頭を締め付けるような痛みが襲った。視界がぼやけるのが分かった。それが涙で目が覆われていることに気づいたの随分経った時のことだった。だがこの一連の流れでようやく理解した。この頭痛はあの黒板の文字がトリガーとなっている。あれさえ見なければなんともない。

「ほら、あの文字の雑さを見て。正常な人ならあんな書き方をしないって。」

「そうかな。わざとそう書いたのかもしれないじゃないか。」

「それは違うと思うな。分からない?もう一回ちゃんと見てよ。」

そういうと小鳥遊は俺の頭を掴み、黒板へ目を向けようとする。俺は必死の抵抗を見せた。しかし、俺は敗れてしまった。瞬間的に見えた彼女の顔は笑みを浮かべていた。そして頭に電撃が走り、意識は吹き飛んでいた。

気づくと教室の机で1人座っていた。これは夢なのか。数秒で現実だと確信した。ぞろぞろと教室に入ってくる生徒たちを眺めていた。隣に平然と座る小鳥遊が笑いながら話かけてきた。

「よく寝た?全校集会があったんだよ。黒板の件でね。」

目の前に腹を抱えて笑う犯人がいた。

結局、黒板の文字は残されたまま空いた教室を使うことにした。かび臭い場所だったがあの頭痛がするよりかはましだ。

 頬杖をついて授業を受ける小鳥遊を目の端で見た。先ほどまで悪魔がどこに行ってしまったのか不思議なくらい平然とした顔で授業を受けていた。きっとあれは自分の見間違いなだけだったのだと無理矢理決めつけようとしていた。それもそうだ。昨日話かけてくれた天使のような彼女が人を痛めつけることに快感を覚える悪魔みたいなわけがない。そう信じたかった。いや、そう信じさせてくれ。小鳥遊をじっと見つめているとこちらの様子に気づいたのか顔をむけてきた。そして俺の顔にフォーカスを合わせるとニッと白い歯を出して笑った。彼女は天使だ。そうだよ。て、天使だよ。いい子だよ。あんなに不気味でおぞましい、深淵から覗いている怪物なんかじゃないんだ。そうなんだろ、なあ?

最後の授業が終わると小鳥遊は俺の机の前に立ち、見下ろすような視線を送った。

「さっき、見てたよね。」

こんな喋り方だったっけ?まあ、気にすることではない。

「は、はい。その…すみません。」

「なんで謝ってんの?」

「いや、目がそう言ってるんで。」

小鳥遊はニヤリと満足そうに笑うと

「ふーん。分かるんだ。」

何が言いたいんだこの子は。ただならぬ空気を作り出している小鳥遊はどうみても深淵に潜む化け物だった。どうやってこの場から逃げ出そうと必死に頭を回したが、その意味はないとすぐに理解した。体に動けと命令したがびくともしなかった。こんな時に反抗期かよ。くそが。

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