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赤マントさん ⅩⅣ

隣街から人がきた。いつぶりのことだろうか。最後に来たのが私が中二の時。あれ以来向こうから連絡は一切ないままだった。早く月花へ報告へ行かないと。下校のチャイムが鳴ったら走り出す。その前に赤月とかいう彼を引き留めておかないといけない。どんな作戦を使おうか。窓に反射する阪峰が見えた。

「小鳥遊。」

顔をあげて阪峰の顔を見る。

「どうしたの?」

彼女の顔は何か思い詰めていたようだった。

「さっき、赤月と何話してたの?」

赤月?やけに馴れ馴れしい呼び方だな。2人は知り合いなのか。確かに隣街から来たということはその可能性はありか。

「私のことで何か言ってた?悪口だとか。」

ということは2人は同じ中学ということか。

「全然なかったよ。たわいもない会話だって。そういえばこれから赤月と待ち合わせしているんだけど一緒にどう?」

「一緒にって…」

「いや、嫌ならいいんだよ。そんな無理に誘ってるわけじゃないんだし。その、あれだよ。隣街同士積もる話でもあればって感じで…。」

彼女の目は空を見つめていた。何かを悩んでいるようだった。

「どう、したの?」

一言、そう尋ねる。

「赤月は今どこにいるの?」

彼女の整った顔が迫る。少し胸が高鳴った。

「きょ、教室にいるはずだよ。」

「ありがとう。私、決めたから。」

そう言って廊下をかけていった。一体何を決めたのだろうか。それは私が詮索するようなことではないことはわかりきっていた。窓の外に夕焼けが見えた。これから自分がしなければならない任務を思い出し、廊下を歩く。

何故このような場所に部室を作ったのかは分からないがおそらく趣味というものだろう。今度部長の月花に聞いてみようか。やけに錆びついた扉を開くと木の腐った臭いが鼻につく。私はすっかり慣れてしまったが、新入部員か来ない原因はこれだと思っている。現在は私と月花と阪峰の3人でなんとか持っているが、この中の1人でもかければ廃部になってしまうだろう。天井の隅に張られた蜘蛛の巣に一匹の蝶がかかっていた。こんなところに入るのが悪い。どこもかしこも蜘蛛の巣だらけ奴らの目には見えてないのだろうか。私には虫の視点というのが分からないからなんともいえない。軋む廊下を進み、『オカルト研究会』と書かれた斜めに飾ってある看板のドアを横に開く。相変わらず重たいドアだ今度油をさしておいたほうがいいんじゃないか。窓の開いた部屋で一人文庫本を片手に肘をついて座っている女子高生がいた。ゆっくりと姿勢を直すと囁くような小さな声を発した。

「どうしたのですか。」

「ちょっと用事があってね。」

「用事?とはいったいなんでしょうか。」

「隣街から人がきた。」

彼女の肩がピクリと動いた。文庫本を閉じると目の前の机の上に放り投げた。

「詳しい話を聞こうか。」

いつもの彼女に戻った。あの様子は何だったのだろうか。気にするほどでもないか。

「転校生だって。」

「珍しいな。それで、どんな奴だ?」

「普通のやつかな。一応、今待ってもらってる。」

「どこで?」

「教室で。なんか阪峰がようがあるって言ってた。」

「確か、阪峰も隣街の人間だよな。」

「そうだよ。知り合いなんでしょ。」

「そうかもな。」

溜息を一つついて、彼女は窓の外を見る。木々が風に吹かれて揺れていた。今日は久しぶりにいい天気だ。ここのところ雨ばかり降っていて憂鬱な気分だった。

「そいつの名前のなんていうんだ?」

「赤月だったかな。」

難しそうな顔をして、彼女は何かを思い出そうとしていた。

「なにかわかる?」

「いや、なにも。」

「出かかってるとかそういうのもなくて?」

彼女は頷いた。そして、顔を覆って震え始めた。

「どうしたの?」

彼女の背中をさすって落ち着かせる。

「大丈夫?月花さん?」

それでも彼女は震えていた。しばらくして挙げた顔には涙が浮かんでいた。

「思い出せない。」

「え?」

彼女の声は震えていた。いつもの妄言ではないことは彼女からあふれ出る何かから伝わってきた。ただならない何かが起きたのだ。私たちの知らない場所で。

「私は何をしたんだ。私は一体。」

目の前で起きている状況についていけなかった。彼女が何をしたのか、彼女が何を失ったのか。それすらも理解できないまま彼女の怯える姿を見ていた。

 月花は深呼吸を一つして、小鳥遊の目を見つめていった。

「すまないな。取り乱してしまって。そろそろ転校生を呼びに戻ったほうがいいのではないか。」

「そうだった。ちょっと呼んでくる。」

少し重たいドアを開けて外にでる。生暖かい風が顔をなでた。軋む地面を歩きながらさっきの月花の様子を思い出していた。何も思い出せないとはいったいどういうことなのだろうか。今はそのことよりも赤月を呼んでくることのほうが重大だ。

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