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赤マントさんⅪ

体が暖かい。ここはどこだ?水の中で浮かんでいるのか。水なのかこれは。動こうにも体が言うことを聞かない。このまま身を任せていよう。疲れた。少し寝かせてくれ。俺は目を瞑った。このまま。このままで。休息というのは良いものだ。何か叩く音が聞こえる。起こそうとしているのか。あと五分だけ寝かせてくれ。それでいいから。お願いだ。

「起きろ。」

液体とともに外に放り出される。地面に這いつくばる。ぼやけた視界には赤マントさんの死体が転がっていた。立ち上がろうとしたが、謎の液体で足が滑りうまく立ち上がることができなかった。ガラスの破片が指に刺さった。痺れるような痛みが腕を襲う。口から悲鳴が漏れ出す。声は出なかった。喉にかすれる音が響く。咳を一つして辺りを見回す。

「大丈夫か。」

月花がいた。慌てて俺に駆け寄ると肩を担いだ。痛む喉から振り絞って声を出す。

「なにがあった?どこだここは?」

「いいから黙ってろ。」

月花の態度はいつもと違ってみえた。焦っている。ただそれだけで事の重大さに気づいた。俺は黙ったまましたがった。視界がぼやけていることを感じた。気絶してしまいそうだ。

「あと少しだ。まだ耐えろ。」

赤月を背負っていた月花が転倒した。腹から血が出ていた。

「ダメだ。私が先に持ってかれるな。」

ハハっ。と乾いた笑いを一つする。飛びかけの意識の中で足音が聞こえた。

「奴等だ。隠れろ。」

地面を這って積みあがった荷物の中に潜り込む。体が脳の指令に追いつかない。足音が近づいてくる。体を包む粘液で前に進むことができない。人影から相手は赤マントであることは理解できる。このままではばれてしまう。二人とも殺されてしまうのは間違いないだろう。あと数歩の距離だ。体は動かない。ここまでか。俺の人生。思ったより短かったな。頭を地面につけて祈る。誰に対してでもない。自然と体が動いたのだ。足音の向きが変わった。誰だ。赤マントの悲鳴が聞こえる。月花が目を見開いてこちらを見る。お互い目を合わせる。何かを引きずってこちらに近づいてくる存在がある。なんだ。高鳴る鼓動を息を殺して抑えて、そいつの顔を見ようとした。そいつは鼻歌を歌っていた。偉く上機嫌だな。こんな参事なのに。聞き覚えのある声だった。そいつの姿が見えた時、全身に電撃が走った。右手に大根を持ち、口は上に曲がっていた。隙間から見えるはがさらに恐怖心をあおった。

「見つけた。」

月花が呟いた。俺は月花の顔を睨んだ。何を言っている。こいつは敵だ。俺の全てがそう語っているんだ。正気に戻れよ。待てよ。こいつらは最初からそのつもりだったんだ。俺を殺すために仲間のふりをしていたんだ。そうか。そういうことか。俺に対して残虐な行動を起こすのも納得がいける。初めからこれが目的だったんだ。なぜだろう。今まで信じ切っていたのに突然疑いが芽生え始めている。それを止めようとする自分がいる。やめてくれ。そんな目で俺を見ないでくれ。そんな覚悟を決めたような目で俺を見ないでくれ。大根を持ったお前も俺に近づかないでくれ。お願いだ。頼む。俺を殺さないでくれ。彼女たちの目を再び見つめた。そうか。考えは変わらないか。それならこっちにも考えがある。簡単に殺されてたまるか。急に体に力がみなぎってきた。今ならいける。今なら走り抜けれる。行くぞ。俺は立ち上がって走り出した。大根少女を突き飛ばし、曲がり角を曲がる。窓の外には数多くの赤マントが集まっていた。廊下には血で池が出来ていた。何度もこけた。何度も立ち上がった。逃げろ。俺は生きてやる。滑りこけた先には複数の赤マントが銃を持って俺たちを探していた。赤マントたちは何事かと振り返る。銃を構えて引き金が引かれる。容赦ない銃声が俺の耳元に届く。とうとう死んでしまったと思った。体のありとあらゆる部位が飛び散り血の池の一部となるのだろう。仕方がないがそれが運命だ。あきらめるしかない。しかし、死んでしまうとここまで考えることができるのか。目の前には月花がいた。大根少女は赤マントの死体の上に乗っていた。ゆっくりと月花は近づいてくる。その目に覚悟の色が見えた。俺は間違いなく殺される。お前たちには殺されたくない。震える足で再び走り出した。床が抜けて地面に投げ出される。あばら骨が折れたような感覚がした。震えながら地面を這う。暗闇の森の中をひたすら進む。生きてやる。その意志だけだった。その意志を信じるしかない。落ち葉が傷口に刺さり、激痛が襲う。それでも這い続けた。明かりが見えた。街に近づいたのだろう。ひたすら地面を這う。土の感覚が消え、アスファルトに変わっていた。道路だ。さっき見えたのは街灯か。ガードレールの隙間から街が見えた。懐かしさが鼻を襲った。涙が溢れてきた。もうすぐ帰れる。俺は生きることができる。喜びに包みこまれ、安堵でいっぱいだった。腹に激痛が走る。

「あと少しだったね。」

あの声だ。大根少女だ。

「どう、痛い?痛い?」

そいつは笑っていた。覗き込んできた彼女の目は笑っていなかった。むしろ悲しげだった。俺の意識は薄れていく。視界の端で大根が転がっているのが見えた。

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