赤マントさんⅧ
廃校舎の独特の酸っぱい香りが鼻につく。軋む廊下は雰囲気を作り出すにはもってこいのアイテムだった。立て付けの悪いドアを開くと紅茶を口に含み、向かいあう鷹崎と月花がいた。無言のまま気まずい雰囲気を保っていた。こうなってしまってはもう向こうがどう動くかを待ち続けなければならない。そう、ハンターのように。ただ好機を待つだけだ。静寂を切り裂いたのは窓から投げ込まれた石ころだった。全員の目が石ころに集中する。石ころは恥ずかしそうにそこに居続けた。割れた窓の外には人影が見えた。それが朝の相手だと感じ取った。全身に虫が這いあがる感覚が走る。股間が濡れる。鷹崎と月花は再び向き合い紅茶をすする。腰の抜けたまま地面を這う。木の香りが鼻を通り抜けていく。
「おい、お前。」
震えながら振り向く。返事をしたつもりだったが声は出なかった。
「気づかないふりをしておけ。相手が面白がる。」
軽くうなずく。手汗で滑り後ろへ倒れる。天井を眺めながら風の音を聞いた。
しばらく時間がたった。小鳥遊の声で目覚めた。スカートの中は白だった。
「なに寝てんのさ。早く起きなよ。」
「ごめんごめん。気づいたら寝てた。今、何時?」
「まだ四時。それで、あそこの二人はなんで見つめあってんの?」
「知らない。俺は何も知らない。」
「そうなの。」
小鳥遊は俺の股間に目をやると蔑んだ目で見下ろした。
「またなの。」
「そうみたい。さっき石ころが投げられてきたんだけど、その向こうに…」
石ころが転がっていた場所を指さしたがそこにはなにも転がっていなかった。嘘だろ。なぜだ。このままでは俺が失禁大好き人間みたいになってしまうではないか。
「なにもないけど。ゆるゆるになっちゃったんじゃないの?今日はもう帰ったら?」
小鳥遊の提案を払いのけ、向き合ったままの二人に声をかける。
「おい、二人とも見てなかったのか?石が投げ込まれただろ。」
月花が一度口を開き、また口を閉じた。周囲をちらちらと見ながら小声で話した。
「さて、なんのことだか。くだらないこと言ってるくらいならさっさとその汚いズボンを私に近づけないでくれ。教室の端っこで丸くなってろ。」
なぜだろう。俺はすごく怖かったのに。なんでこんなに責められなきゃならないんだ。でも石ころは本当に投げ込まれたはずだ。でないと俺は失禁してないはずだ。よく分からないが早くこの服を着替えたい。今日は帰るか。皆お先に失礼しますよ。ドアに手をかけた時気づいてしまった。外に赤いマントを羽織った人影が目に入った。嘘だろ。なんでこんなところにいるんだ。
「外に出るなよ。囲まれてる。」
強い口調で月花が言う。その瞳には余裕が覗いていた。
「一日待てばいい。奴らは所詮デコイだ。」
「かっこいい…」
今まで一言も喋っていなかった鷹崎がようやく口を開いた。月花が口元に笑みを浮かべた。
「あれは、何?」
「赤マントさんだよ。」
その場にいた。全員が口を閉じた。




