赤マントさんⅦ
ロケットっていいよね
あの日に一体なにがあったのかは知らないが、気づけば自分の家にいた。森の中での出来事がまるで夢みたいだった。慌てて小鳥遊と月花に電話を掛けた。二人ともあの時の記憶がないらしい。ということは森の中の出来事は夢で現実ではないということか。急に咳がでた。口に違和感を感じてそれを吐き出す。それはドングリだった。待てよ。これはもしかして俺達が森に行ったという証拠ではないか?いや、こうも考えられないか。俺が眠っている間に窓から森の妖精がやってきて俺の口の中にドングリを放り込んで逃げて行ったのかもしれない。でもなんのために?暗殺だろう。おそらく俺は狙われている。この世界の何かに狙われている。携帯を再び握りしめてコールボタンを押す。
「おい、小鳥遊。どうやら俺は森の守り神に命を狙われているらしい。どうすればいい?お前は大丈夫か。奴の使ってくる武器はドングリだ。」
『死ね。』
電話が切れる音がした。画面に4時20分と表示される。なるほど。俺が悪いのか。しかしどうしたものか。今寝ると間違いなく殺される。自販機で何か買ってこよう。
ドアを開けると目があった。おそらく奴だ。あいつが俺を殺そうとしてるんだ。刺激しないようゆっくりとドアを閉める。膝が震えてまっすぐ立っていられなかった。階段を駆け上がり布団を頭からかぶる。股間がぬれていた。電話を握りしめて小鳥遊を呼び出す。
「だずげでぐだざい。ヤバイでず。」
鼻を垂らしながら話していた。頬と股間はびしょぬれだ。止まらない。
『殺すぞ。』
再び電話が切れる。その時カラスの鳴く公園で一人、ブランコをこいでいた。そんな懐かしいあの日の記憶を呼びおこすには容易いことだった。違う涙が頬を伝う。股間の方はもう出なくなっていた。
小鳥の声で朝を知る。布団の隙間から朝日が差し込む。窓をおそるおそる覗き込むと電柱の陰に何かを確認した。慌てて隠れる。もう一度覗く。そこには何もいなかった。胸の中の空気が安心として口から漏れ出す。その時、玄関のベルが鳴った。全身に寒さが走る。今、家に誰がいる?ベルはなり続ける。どうする、でるか。それとも居留守を使うか。ドアの鍵が開く音がする。階段を上がる音がする。来たか。もう終わりだ。口の中いっぱいにドングリを詰め込まれる。俺の人生これっきりか。彼女とか欲しかったな。ベッドでプロレスとかしたかったな。数々のトラウマが走馬灯となって駆け巡る。目の前の扉が開かれる。
「臭っ。何してんの。」
鼻をつまむ小鳥遊が目の前に現れた。良かった。森の使いじゃなかった。安心して体の力が抜ける。そのまま意識は遠のいていった。
苦しい。息ができない。俺は確か自分の部屋でいろんなところをびしょ濡れにしながら座っていたはず。そうか。ここまで出したというのか。ということは俺は今、汚物の中に浸かっているということか。汚物で溺死。…流石にそれは困る。死因が排泄物で溺死とか。嫌だよ。両親になんて言えばいいの?俺はここから出るよ。水面まで以外と近いじゃないか。手で水をかき、顔を出す。いつもの風呂場の風景だ。誰が入れたのだろうか。服は着たままだし。混乱した頭のままただ時間だけが過ぎていく。こうしていても仕方がない。立ち上がり、濡れた服のままリビングに行く。そこにはコーヒーを飲みながらテレビを見ている小鳥遊がいた。
「目、覚めた。」
「一応。」
「何してたの?酷いアンモニアの臭いがしたけど。失禁?また?」
「そんなところかな。そんなことよりさ。狙われてるんだよ。家の前に誰かいなかった?」
「いなかったよ。」
「本当に?」
「いなかったって。いいからシャワー浴びてさっさと支度しなよ。」
「分かった。でも、ベルが鳴っても出たらダメだよ。」
「大丈夫だって。安心して。」
シャワーを浴びながら考える。あれは夢なのか、それとも現実か。自分の部屋に戻り鞄を肩にかける。カーテンの向こう側にはこちらを覗く何かと目があった。
しろくまー




