かえって来たもの
可愛い=正義です。短いかな?
次の日の早朝。悪魔の様な姿をした人間の事について、仙人なら何か知っているかもしれないと思い、話をしてみようと仙双岳へ向かったのだが、結局仙人は不在だった。
基本的にこの山には人はいない。いるとすれば仙人を訪ねに来ている人ぐらいである。なら木の幹に身体を預ける様にして寝ているこの色黒の男も、仙人に何かしら用があってここにいるのだろうか?
もしかしたら仙人の行き先を知っているかもしれないので、試しに起こして話を聞く事にした。現れた時期的に、昨日のことと関係あるかもしれないし。
「おい、起きろ」
「んぁ?オーゥ、アラブデース」
何だろう。直感的にだが、かなり面倒くさい奴な気がする。自分から話しかけたにも拘らず、彼との会話をさっさと終わらせてしまいたく思い、早速本題に入る。
「仙人の行き先を知らないか?」
「知りまセーン。ジイサンに何か用ですか?」
「少しな」
「もしかして、昨日のことですか?」
仙人の行き先を知らないと言った時はさっさと帰ろうと思ったが、何か知ってるらしい。可能性の薄かった予想は当たったわけだ。俺はもう少し話を聞く事にした。
「昨日の事で何か知っている事はあるか?」
「彼らは魔法抵抗軍団の一員である可能性が高いデス」
聞いた事は無いが怪しさ満載だった。特に意味分からねぇ事を言っているこいつの胡散臭さが。
「魔法抵抗軍?反魔法組織って言いたいのか?」
「まァソンな感じぃ?」
何故だろう。こいつの言葉の節々に苛々してくる。多分仙人も同じ事を思うだろう。
「そいつらはどんな奴らなんだ?」
「魔法を使用することに関して非常に嫌悪感を抱いている連中デス。魔法を使用する全ての人々を標的としていることが調査で判明していマス」
急に真面目腐った顔で話し始める如何わしい色黒男。そもそも矛盾している点が一つある。
「奴らも魔法を使ってたじゃねえか」
「昨日の奴らは、魔法を使う人たちを殺すために、魔法を使う連中の一派デス。」
訳分からねぇ事だらけだが用心にこした事は無いだろう。それに
「魔法が使える人全員が標的か…」
色黒男が頷く。
「いくらあれだけの魔法が使えると言っても舞姫は女の子だからな。一応、用心する様に言っておくか」
「昨日の女の子ですネ。彼女はステータスがチートっぽいのでなので心配無いと思いますケド」
俺が今一番気にしてる事だぞ!昨日の事思い出すだけでプライドがズタズタなのに、何で今日会ったばかりのコイツが俺の心の傷を抉ってくるんだ。
「あなたの方が気をつけた方が良いと思いマス。なんなら私が修行に付き合いマスよ。昨日の奴らにさえあの様ですからネ」
喧嘩売ってんのかコイツ。
「分かった。とりあえず正拳突きの練習がしたいから、木の板役をやってくれると助かる」
言うや否や逃げ出した色黒男を一発殴るため、イダテンを使って全速力で追いかけた。
結局逃げられてしまった。まぁ、朝食も取らずにここに来たから仕方無いな。そろそろ家に帰って朝食を取って、学校に行く準備をしないと遅刻してしまうかもしれない。ということでさっさと帰ろうとすると、何処からか舞姫の声が聞こえてきた。
「お兄ちゃーん、お兄ちゃーん」
俺を探しているらしく、段々と声が近くなってくる。
「あっ、いた!こんな所で何やってるの?」
「まぁ、ちょっと用があってな」
何でここにいる事が分かったんだよ。ここはあまり人が立ち寄らない所だぞ。
「こんな朝早くから?まぁ、いいや。お兄ちゃんの家で朝食作ったから一緒に食べよ」
何で俺の家の中に入れてるの?あれ?家の鍵閉め忘れたっけ?
「家の鍵って閉まってなかったか?」
「えっ!?ちゃんと閉まってたよ?」
よかった〜鍵閉め忘れたかと思って焦った〜。でも人の家に勝手に入るのは、良く無いな。人の家に勝手に入る悪い義妹を睨みつける。
「そんなに怒んないでよ。昨日みたいな奴らにお兄ちゃんが誘拐されちゃったのかと思って心配したんだからね」
心配してくれたのか。気持ちは嬉しいけど、実際に守られたんだよなぁ〜と思ったら情けなくなった。
「帰るよお兄ちゃん」
舞姫が俺の手を握る。
「帰るって俺の家はお前の家じゃないだろ」
「細かい事はどうでもいいの」
人の家に勝手に入るのも舞姫的には細かい事でどうでもいいことなのか。全然よくないんだけど。
「それより手を離してくれないでしょうか?歩きにくいんですが」
「お兄ちゃんが悪い奴らに殺られないようにしっかりと守ってあげるのです」
そんなに弱くないし(多分)、情けなくなるからやめて欲しいんだけど。と思ったが、舞姫がさらに強く手を握ってきたので言うのはやめておいた。
二人でイダテンを使い家に戻った。舞姫の方が少しだけ移動するのが速く、ずっと引っ張られて帰る形になってしまった。
「美味しかった?お兄ちゃん」
「あぁ、美味しかったよ」
お世辞でもなんでもなく、舞姫の料理は文句の付けようが無いほど美味しかった。
「そっか、よかった」
そういってニッコリと笑う舞姫の顔は見た目同様の幼さを感じて可愛らしかったのだが
「ここ校門前なんだけど、いつまで手を握ってるつもりなの?」
学校へ行くために家を出たときから繋がれている舞姫の右手と俺の左手は校門前までには離すという約束でOKしたのだが、一向に離す気配が無くしっかりと握られている。
「お兄ちゃんが悪い奴らに殺られないようにしっかりと守ってあげるのです」
故意でやってるの?その言葉にコッチは結構傷ついてるんだけど。
「あ!命君!」
純粋な心で人を傷つける義妹に何か文句をいってやろうと思ったが、後ろから名前を呼ばれたのでタイミングを逃してしまった。
「ちょうどよかった。はい、借りてた魔方陣に関する参考書。すごく助かったよ、前々から返そうとは思ってたんだけどクラスが違うから面倒臭くって、借りっ放しでごめんね」
そう言って彼女が鞄の中から取り出してきたのは、三ヶ月ぐらい前に貸したっきり返ってこなかった参考書だった。もう返ってこないかなと思っていたが、別にもう使うことは無いだろうから返されなくてもよかったと言えばよかったんだが。
「誰ですか?この人」
舞姫が俺にだけ聞こえるような小さい声で話しかけてきた。
「中学の時からの友達の雫さんだよ」
「ふ〜ん」
説明を聞いてもこちらには一瞥もくれずにまるで不審人物を見るような目で、雫さんを見る舞姫。
「命君の隣にいるのはもしかして彼女さんだったりするのかな?」
一変して和やかな顔で雫さんを見る舞姫だったが
「ただの妹だよ」
すぐに、ガッカリした様な顔になってしまった。
「そっか、甘えん坊さんなんだね」
「あぁ、いろいろ困ってるよ」
未だに繋がれている自分の右手を見て、返事を返す。先ほどよりも力が籠っている様に感じるのは気の性だろうか。
「そうだ、参考書貸してくれたお礼に何か奢らせてよ」
「別に参考書貸したぐらいでいいよ」
「三ヶ月も借りっ放しにしてたんだからこれくらいはさせてよ。あそこの店でいい?」
雫さんがここからすぐ近くのケーキ屋を指差す。
「分かったよ」
「じゃあ放課後また」
それだけ言うと、雫さんは校門を入って校舎の方へ消えていった。
「痛いんだが…」
「…」
話の途中から舞姫の手が強く握られ始め、今では指先に血が通わない程になっている。握力もそれなりに強いことが判明した。
「デートですか?」
「雫さんが食べたいだけだろ」
実際あの店は学校から近いこともあり、二人以上で入店すると人数に応じて、段々と安くなるシステムになっている。奢るなどと言っておきながら二人分のケーキを安い値段で食べる気だろう。
「そうですか…」
さっきからずっと繋がれっぱなしだった手を、躊躇することなくパッと離し舞姫も校舎の方へ向かって行った。
「どうしたんだ?アイツ」
舞姫の態度は気になったが時間に余裕も無いので、自分の教室の方へと向かった。握られていた左手は血が止められていた性か痺れていた。
「勝手に人の家に入ってくるのを止めさせたい?」
放課後、約束通りケーキを食べる俺と雫さん。俺に奢ってくれたはずのケーキは彼女の胃袋の中に入ってしまったので、代わりに相談に乗ってもらう事にした。
「言っても聞かなくてな」
「でもすごいね、壊さずに侵入するなんて」
「何でも出来るからな」
逆に何でも出来すぎてコッチが困るくらいだからなアイツは…
「そんなに気にする事でもないんじゃないかな。普通の家族なら一緒に住んでることなんて、珍しいことでも無いんだし」
「普通の兄妹じゃなくて義兄妹だけどな」
「だから似てないのか。パッと見、別人だったもん恋人かと思ったよ」
「まぁ、別人だからな」
「細かい事はどうでもいいの」
舞姫にも言われたなソレ。俺ってそんなに細かい事気にしてんのか?
「そんなに気にする事じゃないって、なんなら合鍵あげたら?家族なんだし」
「…それもそうだな」
冷静に考えたらそんなに気にすることでもないな。やっぱり細かい事を気にしすぎているようだ。
「悪いな相談聞いてもらって」
「別にこれくらいたいしたことじゃないよ。奢るって言ったのに全部食べちゃったし」
最初からそれ目的だっただろと言いそうになったが、かろうじて言葉を飲み込む。
「あ、そうだ。次は防御系魔法の参考書あったら貸してほしいんだけど」
「分かった。明日持ってくる」
「ありがと。私はもう少し食べるから、じゃあね」
「じゃあな」
相談事を終えて、家へ帰ろうと店のドアを開けた時に、妹さんによろしく伝えておいてと聞こえたので振り返えって見ると、雫さんが手を振っていたので手を振り返して店を出た。
ふと、反魔法組織の事について、舞姫に言っておくのを忘れていた事に気がついた。
「そういえばアイツ何ものだ?」
反魔法組織の事を思い出したら、あの色黒男のこともついでに思い出してしまった。
「名前も聞いてなかったな」
それに何より、あの胡散臭い色黒男の言う事を信頼している自分に驚いた。あの男と直接話しても胡散臭さが増すだけなのだが、他に情報を仕入れる方法も思いつかないので、もう一度話を聞いてみようと思い、家に帰る前に仙双岳へ向って、今朝色黒男と会った場所へ行ってみたが、もうそこにはあの色黒男の姿は無く、仙人もまだ帰って来ていない様なので、気にしすぎる事も無いだろうと思い、家へ帰った。
次は朝霧さんです。




