始まり3
お待たせいたしました・・・
帰る途中、入学式・始業式のことを思い出していた。
☆
「以上で、私の話を終わります」
校長先生の長い話がやっと終わった。
今は帝国第一高等魔法学校入学式・始業式の最中だ。
一般の生徒達は広いフロアに並んで座っている。
今回は入学式をかねているので一年生が一番前、次いで三年、二年の順に座っている。
俺は三年だから本来ならその二つ目の列にいるはずだ。
──この言い方をしているからわかるとは思うが、俺は今舞台袖に居る。
サボっているわけではない、仕事があるのだ。
その仕事は新入生に対する挨拶だ。
新入生代表が宣誓をして、その返しをするのだ。
「──では、新入生代表宣誓。代表者は前へ」
「はい」
代表者が一年の列の中から出てきた。今回は女の子らしい。
ちなみにこの一年の代表は入学試験でトップをとった人が任せられる。俺も一年の時に経験したが、舞台上に上がったときの羨望に近い眼差しが心地よかったのを覚えている。
代表者が舞台に上り始めたころ、俺は舞台中央へと向かう。
そしてちょうどいい感じに舞台中央に据えてあるマイクの元で向き合う。
普通ならこのまま新入生代表が宣誓文が書かれた紙を広げ話し始める──のだが、この代表者は違った。
「宣誓!──は、しませんッ!」
『は?』
いきなり宣誓を破棄した代表者。会場の先生たちだけでなく生徒も呆気に取られている。
「なぜかといいますと、そんなことする前に私達新入生一同はすでに志高く持ってここに入学してきております。だったら繰り返す必要などないと思います。よって私は宣誓しません」
わざわざ言うまでも無いということらしい。
「さて、これをもって私からの言葉とさせて頂きます。新入生代表──天笠舞姫」
──今年の新入生代表は天笠舞姫、俺の義妹なのだ。
代表の名前を聞いた瞬間会場がざわめいた。
『天笠って…あのトップの…?』
『妹が居たってことだよね…?』
会場も苗字を聞いて察したらしい。主に二・三年のあたりにざわめきが広がっていく。
『か、可愛い…』
そうだな。自慢の義妹だよ。平均より身長とかいろいろが少々小さいのがまた可愛い。
『天才の家系なのか…』
いや、舞姫は俺とは別次元の天才だからな…
「し、静かにしなさい!生徒代表答辞!」
先生があわてて進行させていく。
「はい。このたびは皆様、入学おめでとうございます。初めての環境で緊張しているかもしれませんが、皆様も栄えある帝国第一高等魔法学校の一員です。これから皆さんは憧れの視線を浴びることになるでしょう。ですので憧れの学校の生徒として節度をもって過ごしてください。少々破天荒な宣誓でしたが、彼女が言ったことはおそらく真実だと思いますので、ともに高みを目指してがんばりましょう。生徒代表──天笠命」
月並みな言葉を並べ、答辞を終えた。
舞姫の言葉に比べて地味な感じになったけどまぁ、よしとしよう。
一年も俺の名前を聞いた時、後ろでざわめいた理由を察し、ある者は納得の顔、ある者は驚愕の顔をした。
俺たちはそのまま舞台袖に移動していき、式はそのまま進行していった。
「お兄ちゃん。お疲れ様」
舞台袖で舞姫がねぎらいの言葉をかけてきた。
「舞姫のほうこそお疲れ様。…これって俺が先に言うべきだったよな?」
「ありがとう。まぁ、私はふざけただけだからねぎらう必要もないと思うけれどね」
「あの宣誓には驚いたよ」
「校長の話がつまらなかったからね。退屈しながら聞いたところで意味がないと思ったから宣誓破棄することにしたんだ。お兄ちゃんの大切な話を聞かせるためにね」
どうやら結果的に俺のためだったらしい。舞姫はいつも最終的には俺のためになることをしてくれている。兄としては嬉しい気持ちもあるが兄として不甲斐なさを感じたりと複雑な気分にさせられる。
「後で怒られないのか?」
「大丈夫だよ。だって私の自由にさせてくれるっていったもの。だいたい必ず入試で一位の人に挨拶させる意味が解らないよ。別に他の人──たとえば二位の人がやってもいいって言ったのに」
どうやら色々とあったらしい。ぶつぶつと文句が聞こえてくる。
「えっと、とりあえず大丈夫なんだよな…?」
「うん。それは大丈夫。私が捻じ伏せるから」
なんか不穏な単語が聞こえたが聞かなかったことにしよう。
「お兄ちゃんは気にしなくても大丈夫だよ。私のことについても何も言わせないから」
いつの間にか舞姫は教師陣を抑えてしまったようだ。一体どうしたらそんなことが出来るのだろうか…
「そんなことより、お兄ちゃんは無理してないよね?」
「ん?無理はしてないと思うけど」
「お兄ちゃんって目を離すと無茶なことするから心配だよ」
確かに俺はよく後々考えていると無茶なことをしているなと思うことが多々ある。
「いや、たぶん大丈夫なはず。そんなに無茶はしてないよ」
「そう?ならいいんだけど…おにいちゃんが倒れたらって思うと怖いからね」
「俺は舞姫が倒れたらと思うとそうなるかな。俺よりもしっかりしているからそういったことは起きないだろうけど」
「私は大丈夫だよ。お兄ちゃんが家を離れてからも変わらない生活を続けていたからね」
「そうか、なら安心だ」
お互いの安否確認も済んだ。元気そうで何よりだ。
「あ、そうだお兄ちゃん──」
そのまま俺達は他愛のない話を続けた。
『これで入学式ならびに始業式を閉じます』
それから舞台袖で雑談している間に始業式が終わった。
「さて、教室にいかなくちゃだね」
この後は教室で新年度の担任挨拶やクラスの人の自己紹介などがある。
「じゃあ教師まで一緒にいこうか、舞姫」
「うんっ、お兄ちゃん」
満面の笑みで返事をする舞姫。
俺達は舞台袖にある出入り口から出て、教室のある校舎へと向かったのだった。
☆
「相変わらずだったな…」
相手を困らせることが好きなところとかもぜんぜん変わってない。
そして計り知れないほどの力を感じた。
昔から負けているけれどこれほど力の差があるとは思わなかった。
「強くなればなるほど差がはっきりわかるなぁ…」
今まで解からなかった強さが感じられて、敗北感に打ちひしがれる。
正直、このまま強くなったとしても舞姫はもっともっと先を行っているように感じるんだろうな…
「でも、強くならないとな…」
たとえ追いつかないとしたとしても、俺に出来ることは修行をすることだけだ。
俺は家に帰る途中、そう決意したのだった。
えぇっと、最近忙しくて書ける時間がなくて期間が恐ろしく伸びてしまいました。
ですので大幅カットしたものをとりあえず載せてほかの人にバトンタッチとします。はい。
次は担当編集者さんの話だったかと思うのでそちらのほうをお楽しみくださいw byゆーとも