プロローグ
どうも担当編集です。
黒い水の中を、何も出来ずたゆたっている。
息をしているのに気泡が出ない。身体は魂を抜かれたように動かない。動かす気も起きない。
見えない水流になされるがまま、何処へか運ばれていく。
どれだけ経ったのか―――そもそもこの空間に時間という概念が存在するのかもわからないが―――やがて身体は水中で動きを止め、直立するような姿勢をとった。
その瞬間現れた気配に、耳を澄ます。
―――目の前に、何かがいる。
金属が擦れるような音が伝わってきた。
開ききっていない瞳が何かの影を捉えた。
視認しようとすればするほど、映像はより鮮明になっていく。
―――黒い巨大な何かに、幾条もの鎖が巻きついている。
動きを封じるために、閉じ込めるように、その巨大な何かを縛りつけている。
(あぁ…………)
どこか懐かしいその姿に手を伸ばそうと力を込めたところで―――その夢は終わった。
チュンチュンと、朝を彩る鳥のさえずりが聞こえる。
薄目を開けると、陽光が膜のように視界を染めた。
「うっ……」
眩しさに思わず唸って、いつの間にか掲げていた手を逸らして、半開きの瞼に影を落とす。
―――最近、目覚めたら片手を掲げていることが多いのだ。寝ている間に無意識のうちに手を伸ばしているのだろうが、当然ながらその間の記憶は残っていないので、何とも言えない。
指の隙間から見えた天井を見つめて、あぁ、今日からか……。と感慨に浸ったところで、
「―――ふっ」
眠気を振り落とすように勢いよく上体を起こした。そのまま立ち上がり、未だ力の入らない足で床を強引に踏みしめた。
ドンッ!という音と振動で、全身の筋肉を揺り起こす。
寝汗で湿った顔を洗うべく水道へ向かった。
十分程で朝仕度を整えると、朝食のパンを食べながら、昨夜届いて机に置いてあった手紙を開く。
『ミコトへ 元気にやってますか、風邪などはひいてませんか。
(妹の名前)の頑張りが実ってあなたと同じ魔法学校に行くことになりました。
あの子はお兄ちゃんと同じ学校に通えると大喜びしてましたが少し心配です、
学校では舞姫のことを目にかけてあげて。
P.S 困ったことがあったら手紙を送りなさい、いつだってお母さんはミコトの味方よ。』
内容を再び確認して同じところに閉じて戻す、立てかけられた大鏡で着衣を見直してから、荷物を手に家を出た。
―――今日からまた、新しい一年が始まる。
さてここで。
外出時に必ずしなければいけないこととは何か。
それは施錠である。
特に家に自分以外に誰もいないときの外出は、ちょっと近所に寄るだけだとしても忘れてはいけない。
鍵っ子達ならみんな、お母さんに「気をつけなさいよ」ときつく言いつけられたことがあるはずだ。
次はマニムツさんです。