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その男は、まるでカラスのようだった。
全身黒ずくめの服。耳にたくさんあいたピアス。長めの黒髪。浅黒い肌。前髪の間から覗く鋭い眼光。底冷えするような威圧感のある雰囲気。そして、背がとても高かった。日本人離れした長身で、190センチほどはあると思われた。
そんな男が、無表情で蛍のデッサンを片手に携えて見下ろしてきていた。
普通の状態であったなら怖気付いて声も出せない状況に陥るところだろうが、今の蛍の頭はデッサンを見られたということで一杯だった。
「す、すみません! 私のです。拾ってくださってありがとうございます!!」
恥ずかしさから早口で言いながら手を伸ばすと、男は持っていた紙をひっこめた。
気の所為だと思い、もう一度手を伸ばす。また引っ込める。何回かそのやり取りがあった後、男が口を開く。
「これ、もしかして自分で作るの?」
「そうです。返してください!」
その返してくれなさそうな雰囲気に、最早なり振りかまっていられないと、紙に飛び付く。
すると男はヒラリとかわし、手を伸ばし紙を頭上に持っていったのだ。2メートルはあるだろう場所にある紙は絶対に蛍には届かない。
「なんなんですかあなた! 返してって、何度も言ってるじゃないですか!!」
なす術も無くなった蛍は、恥ずかしさのため苛立ちを隠すこともせず声を荒げた。
男はというと、口を開いては閉じ開いては閉じの繰り返しであったが、蛍の言葉でやっと言いにくそうにだが、声を発した。
「あの…これと同じ様な花で、俺にも髪飾りを作ってくれないか?」
おおよそ、この男が言ったとは思えないその言葉に、蛍は目を見開いた。