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ひとつは、大きめの花が一つだけ付いているいたってシンプルなもの。
ふたつめは、蝶のモチーフがシャラシャラと揺れる、飾りが何連かに連なってさがっているもの。
妹の浴衣は、薄い青地に金魚が泳いでいる模様で、あまり派手ではない。
妹の名前にちなんだ牡丹の花でワンポイント派手な部分をつくってもいいだろう。
だが、個人的には飾りがさがっているデザインが好きなので悩む。蝶を金魚に変えてもいい感じになるのではと思う。
いっそのこと混ぜてしまおうか…。
思いついた端から、デッサンをルーズリーフに描き込んでいき、何枚か描いて手が止まる。
どうせなら姉と親友の分も作ろう。日頃のお礼だ。
姉の彼氏は日本大好きなイタリア人なので、日本人らしいかんざしがウケるだろう。
親友は髪が短いので、前髪や横の髪をとめられるピンなんてどうだろうか…。
デッサンを夢中で描いていると、突風が吹いて紙を攫っていった。窓際だったため、数枚が外へと飛んでゆく。
それを呆然と見送り、はっとして窓に駆け寄る。
あの描きなぐった絵を見られるなんて冗談ではない。
完成品と違い、未完成な代物を見られるのはまるで視姦をされているようなものだ。そんなことされたことも無いけれども。あくまでも感覚である。
図書室を飛び出し階段を駆け下りる。
2階からなので、降りるのにそんなに時間はかからない。これなら誰かに拾われる前に集められるはず。
校舎の裏側に散らばった紙を拾い集めると、一枚足りない。一番の自信作、牡丹のかんざし。木々の間を探していると、足元に影が落ちた。顔をあげると目の前に男が立っていた。
「これ、落としたのあんたか?」
その手には、蛍の落としたデッサンがしっかりと握られていた。