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川島姉妹の次女、川島蛍は夢をみていた。
綺麗な小川で遊ぶ小さな子供たち。皆、キラキラとした笑顔で駆け回る。そのうち辺りは暗くなり、小さな光がふわふわと漂ってくる。
あぁ…。これは幼い頃の私たち。
蛍たちの祖父の家は、大層田舎にあった。
田舎で米農家を営んでいたのだ。自然に囲まれ涼しい祖父の家に行くのは、川島三姉妹の夏の一大行事でもあった。
そんな中でも、ひときわ心に残っている光景がこれだった。夕方、澄んだ小川のほとりで待っているとたくさんのホタルが飛んでくるのだ。自分と同じ名の美しい虫を眺めていたあの頃。自分もまた、澄んだ心をしていた。
なんで今、こんな昔の夢を見るのだろう…。
変わってしまった自分自身への戒めか。それとも、あの頃のように戻りたいという欲求の現れか。
あれこれ考えているうちに、場面が移り変わる。この姿は、小学校3年生あたりか。幼い自分の目の前には、同じ歳ごろの男の子が立っていた。
顔は思い出せないが、この男の子を蛍は嫌という程覚えていた。今の蛍を創り出した元凶であり、トラウマだった。
男の子の口元が歪み、笑みを形作る。それは幼い少年にしては不自然なほど、冷めた薄ら笑いだった。
口が動く。夢だからなのか、声は聞こえない。だが、蛍はこの時自分が言われた言葉を覚えている。
この日この時、心に刺さった言葉は今でもじわじわと血を流し続けている。
こんな夢、見たくなかった。先程までなら懐かしい思い出と笑えるが、男の子が出てきた時点で蛍にとって悪夢となった。
夢よ早く覚めろ。そして、起きた時には夢を見たことすら忘れていることを切に願った。