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 電車に乗っていると、家々の建ち並ぶ風景が目に入る。それは、どこの電車からでも見えるような月並みな風景で、それをぼんやりと眺めながら、世界の果てへ向かう。電車は各駅停車しながら、少しづつ世界の果てに近づいていく。

 電車には、ぼくは精神的に圧迫感を覚える。強すぎる。電車に乗っている人たちは、活気に満ち、人生の春を謳歌しているような人ばかりで、ぼくには強すぎる。その強さに気圧されてしまい、ぼくは電車で人のいない席を見つけて、人から遠ざかって座っている。

 電車の中には、数人の乗客しかいない。みんな、大人しくしている。喧騒な乗客はいない。おそらく、誰一人として、世界の果てでは電車を降りないだろう。そんな予感がぼくにはあった。この乗客たちは、他人と同じ車両に乗り合わせたのに、平常心を保つことのできる強い人たちであり、ぼくはそれより弱い。ぼくの心臓は重圧でばくばくいっている。他人と同じ車両に乗り合わせていることが、申し訳なく、ぼくなんかが居ては他の乗客に迷惑をかけてしまう。ぼくなんかが居たら、ぼくが視界に入った時、その醜さに閉口し、きっと不愉快になるにちがいない。だから、ぼくは電車に乗るべきではなかった。

 ぼくがどうしても他人を不愉快にさせても、電車に乗らざるを得なかったのは、世界の果てへ行くためで、世界の果ての駅で電車を降りたら、もう、赤の他人に迷惑をかけることもないだろう。いわば、ぼくが電車に乗るのは必要悪なのだ。

 世界の果てへの旅は続いた。特に何の刺激があるわけでもない凡庸な旅。特に書き記しておくことがあるわけではない。何もなかった。ぼくはただ、電車に乗っていた。

 そして、電車は「世界の果て」に着く。思い焦がれ、待ち焦がれ、憧れと待望の同居した救いの土地に至る場所に、とうとう電車は着いたのだった。

 ぼくは「世界の果て」の駅で電車を降りる。この駅で降りるのはぼくひとりだ。他の乗客はみんなこの駅に無関心で、ただの移動中の通過点にしか思ってない。

 ぼくにとっては一大事だ。

 旅の目的である「世界の果て」に着いたのだ。

 そこで、ぼくは弱さを手に入れるだろう。

 自分より弱いものを。

 決してぼくを傷つけることなく、平穏無事に怯えて逃げ去る臆病な動物だけがいる世界の果てにぼくはやってきたのだ。

 ぼくは、「世界の果て」の駅を降りて、世界の果てへと歩いて行った。そこがどんな弱弱しい土地かを想像し、その快楽に身をよじるように、嬉しさで体温が上がり、汗が流れてきて、激しく動揺し、それでいてもなお、消え去ることなく存在しつづける世界の果てにぼくはやってきた。


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