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不在証明様の御題を拝借しています。
○不在証明/一糸様
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清楚なドレスに髪を撫でつけて、布の靴で足を包む。
白いテーブルクロスの中央に、レース編みを敷いてその上に花瓶を。
美しい菊を生けてカーテンを開き、窓を開け放って外へ。
靴を揃えて床に置き、テラスの柵の上に立って。
あとは、遙か下方に広がる絶壁と大海に、躊躇いなく飛び降りるだけ。
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無垢に生きると誓うなら
そうね、キスのひとつでもしてみようかしらと。
彼女は楽しげに笑い、彼は眉を寄せて不快感を露わにする。
だって、どうせ同じ空気を吸うのでしょうと。
触れた唇の感触を、彼は今でも憶えている。
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同じ呼吸で生きるなら
神の御加護をと告げられた彼は、
渡された十字架に困惑の色を隠せずに。
けれども穏やかな容貌の初老のシスターは、他にも多々、道行く人々に十字架を配る。
彼はなんとはなしにそれをポケットへと入れ、再び歩き出す。
彼にとって祈りは祈りではなく、懺悔などと縁遠い話。
それでも彼は、ポケットの中で十字架を握る。
なんの効力もなかったけれど、彼女の穏やかな気質が染み込んでいる、気がした。
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祈りと懺悔のイルミネーション
吸血鬼に十字架は効かないが、
尼僧の願いは届くだろうか。
触れた掌はすぐに離れ、彼女は背を向けた。
じんじんと、震えるような熱を持っていたことは憶えているのに、
彼は何故だか、彼女の温もりを思い出せずにいる。
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温もりもそこそこに
詰め込むもの。
傲慢と高慢と強欲と狡猾。
自尊心と自意識と自慢と自我と他者への嘲り。
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美しさの隙間に
『 あなたへの愛の重みを込めて、
私の腕を同封しました。 』
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情熱的ラブレター