2(以降は5題ずつになります)
不在証明様の御題を拝借しています。
○不在証明/一糸様
http://fluid.hiho.jp/ap/
水の中にいます
腐敗した暗い水の底にいます
あれから随分多くの季節が過ぎたことでしょう
けれどここは、なにひとつ変化がありません
私は相変わらず水草に絡め取られたまま
浮かび上がることすら出来ません
早く、誰か気付いてください
これ以上、あなた方が私を喰らう前に。
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魚が食べた笑顔
解説
「私」を喰べた「魚」を「あなた方」が喰らう。
血を見るのが好きでした。
だから切り裂き続けました。
友人も 知り合いも
妻も 子も 親も
切り裂き続けました。
けれど好い加減、切るものもなくなってきたのです。
だから私は切り裂いたのです。
私自身を。
それだけの話です。
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その言葉で死んだわけじゃない
なんと立派な。
人間の目を楽しませるためだけに。
神秘的な檻の中に悪質な意志を注ぎ込んで。
云われもない咎に落とされた冤罪に似た傲慢さで、
悪意の罠で捉えた無邪気な彼らを掴まえて。
ああ、なんと立派な心掛け!
人間の目を楽しませるためだけに、他の生物を抑圧するなど。
人間以外には出来ない残酷な仕打ち。
だから、これ以上の賛辞の言葉は私には無い。
人間よ、詛われろ!
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水族館へのオマージュ
解説
囚われた魚からの賛辞。
その夜、僕は奇妙な夢を見た。
汚染された海が次第に清らかさを増し、やがてガラスのように遠くまでもが透けていく。
原初に遡るかのように、穢れた虫が巣くっていたはずの場所には鮮やかな色の魚が泳ぎ、
群を為して僕の周りを回るのだ。
そして魚たちは僕を食べ始めた。
腕を、足を、喉を、腹を。
僕は恐怖から手足をばたつかせるが、魚たちは一度散り散りになっても再び、集まってきて僕を啄む。
彼らは云う。
死ぬのなら、海におしよ。
残さず食べてあげるから。
僕が嫌だというと、彼らは僕の顔を啄み始めた。
なぜだい?
一匹の魚が僕に問うた。
君がいつも、やっていることだろう?
その瞬間僕は目覚め、ソファに横たわっていた。
僕は震える手で、握り締めていた小さな青素入りの瓶を屑籠に投げた。
あれが死ぬと言う事ならば、僕にはまだ早過ぎるに違いないと思ったのだ。
耳元で、低い声が囁いた。
いつでも待っているよ。
僕に問いかけてきた魚の声だった。
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溶けるシアン、透ける青、笑う魚
僕の願いを、彼は聞いてくれた。
息の出来ない苦しさに喘ぎながら、僕は、水面越しに彼を見上げる。
揺らめきながら彼の顔は、歓びとも哀しみともつかない表情に見えた。
首に絡む手の、力の強さに目の前が暗くなる。
それを感じながら僕の心は、何とも言い様のない安堵に落ち着いていた。
水が口に入って、彼に感謝の言葉を言えないことだけが心残りだが、彼はきっと許してくれるだろう。
その瞬間、僕は僕に、僕と彼に、言葉のない別れを告げた。
ようやく訪れるだろう安寧に、胸を震わせて。
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毎夜、海に溺れる夢を終わらせて
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