01
不在証明様の御題を拝借しています。
○不在証明/一糸様
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空々しい
そう言った君に僕は
青い空を箱に詰めます
真白い真綿のような雲を 千切って投げて
白々しい
そう言った君に僕は
白い雲を箱に詰めます
真青な清水のような空を 破って踏んで
嘘吐きと
君が余りに煩いので僕は
口笛を箱に詰めます
耳障りな羽音のような君を 斬り棄てながら。
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嘘は箱に詰めて
しょうじょは つきのひかり のようなながいながいかみをゆらしてわらう
てでぃ・べあはうでをもがれめをひきぬかれ、ないぞうがわりにわたをはきだして
しょうじょはいたいけなしろいちいさなてのひらで、てでぃ・べあのはらをえぐる
ぬいぐるみのむきしつなひとみからつゆをはらんだしずくがおちる
しょうじょはわらう わらう わらう
ももいろのどれすをひろげながらわらっていう
か み さ ま な ん て い な い の よ
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かみさまなんていないのよ
わたしはあなたを見る
ひとつひとつの仕草に惹かれ、
ひとつひとつの言葉に惹かれたのです
穏やかな笑みも軽やかな声も
全てに惹かれ、わたしは焦がれたのです
わたしはあなたを見る
あなただけを見つめる
たとえあなたが、ほかのだれを見つめようとも
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私が愛した人が愛したのは、
泣き崩れる彼女の前で、
コートにステッキ、初老の紳士はハンカチを取り出した。
クラウンの動作で大仰に手を上げ腰を折り、
涙に濡れる乙女へとハンカチを差し出した。
悲しむことはありませんよ、と彼は云う。
長い人生、まだ始まったばかりではありませんか。
紳士はそう云うと、ステッキを鳴らしながら歩き始めた。
乙女の涙は真珠に等しいのですからね、と彼は言い残した。
彼女の頬に伝う涙はいつの間にか渇き始めていた。
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さあさあお嬢さん、お泣きなさい
桶に水を張り、彼は寒がりながら浸かります。
湯を張ろうとは考えたこともございません。
なぜなら湯は沸かすものであって、木桶を火に掛けましたらばあっと云うまに燃えてしまうからだそうでございます。
晴れの日に傘を持ち出して、彼は雨の日に水に濡れます。
訊いたところによりますと、晴れの日は視界が映えて銃の的になりますので、傘で身を隠すのだそうでございます。
雨の日に濡れますのはどんよりとして視界も悪く、また濡れてしまえば弾も不発に終わるでしょうからとのことでございます。
ただし我が国の空を戦闘機が横切ったのは、もう八十年も前が最後でございます。
どんなにか夏の暑い日でも、彼は水を飲もうとはいたしません。
それと云いますのもあんまり暑い日ですと、国中の水が沸いてしまっておりまして、ほんの一口でも飲もうものなら瞬く間に茹だってしまうからだそうでございます。
上等のワインを出しますと、彼は全て部屋の植木にやってしまいます。
なんでもワインを呑ませますと、植木はすぐさま酔っぱらいまして、季節の流れを勘違いして見る間に実を実らせるそうなのでございます。
けれども部屋に置いてあります植木は、どれも実のならないものなのでございます。
召使いが懸命に拭き取りましてございますが、床にはすっかりとワインの色が染み付いてしまいました。
麗しきご令嬢がいらっしゃいますと、彼はご令嬢のドレスの裾をちょいと持ち上げてしまわれます。
ご令嬢はみな裾の膨らんだドレスの下に、暗殺者か愛人を潜ませているのだそうでございます。
当然ながら憤慨されますご令嬢に、わたくしどもは口を揃えて謝罪をしておりますが、今ではもはや、彼の御方の奇人振りを知らぬ方はおられないようでございます。
何をするに致しましても彼は不器用でございますし、何をさせるに致しましても落ち着くことの出来ない方ではございますが、わたくしどもはみな彼をお慕い申し上げております。
ですからどうぞ、なにひとつ御心配召されることなく、彼のことはわたくしどもにお任せくださいまして、ごゆるりと休暇をお過ごしくださいませ。
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ああ、麗しの愚者よ!
彼 は死を知っていた。
自分を撫でてくれる手が、もう訪れないことを。
優しく名を呼ぶ声が、もう聞こえないことを。
彼 は死を知っていた。
老いた指が梳いた毛皮をうち振るわせて、
高く遠く月に遠吠えを響かせながら。
疲れたように艶めいた前足の上に顎を預け、
二度と会うことの適わない足音に目をしょぼつかせて。
彼 は死を知っていた。
床に伏すように藁敷きの床に体を預け、そっと眸を伏せる程度には。
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喪に服す獣
少年は花束を抱えて、細い獣道を走っていた
彼の姉は今日、王都へと向かう
姉の好きな野の花を集めて、彼は走っていた
みこ になるのだと姉は云っていたけれど、少年にはそれがなにかは分からなかった
ただ、もう二度と姉に会えないのだと思うと、とてもとても哀しかった
けれど姉は、ずっと一緒よ、と微笑んだのだ
「わたしがみこになっても、あなたとはずっといっしょにいられるわ」
姉は美しい金の髪をさざめかせて微笑んだ
「だってわたしはみこになって、このくにをとわにまもってゆくのだから」
その意味はやっぱりわからなくて、けれど彼は泣くのを止めた
彼が泣くと、姉がとてもさみしそうな顔をしたから
だから少年は、大丈夫だよと云いたくて、花を集めていたのだ
姉はずっと一緒だと云ったし、いなくなる姉の変わりに自分が家族を守らなければならないのだ
おねえちゃんが みこ になると知らされたとき、お母さんはあんなに泣いていたもの
ぼくとおんなじくらいさみしいんだろうけれど、お母さんはおんなのこで、ぼくはおとこのこだもの
だから、ぼくがまもってあげなくちゃ
煌々と照る朝の太陽に意気揚々と、少年は道を下る
少し後ろで、がさり、と草の根を踏む音が聞こえたけれど、少年は気付かない
ひたひたと、やわらかな草を踏んで微かな足音が少年に忍び寄る
それに、お姉ちゃんがずっとみまもってくれるなら、こわいものなんてないよ
だけど、みまもるってなんだろう
少年は小さく首を傾げた
おねえちゃんにお花をあげたら、
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ついに永遠は生まれなかった
歩く、歩く、歩く。
堅い地面を歩く、そんな覚悟はない癖に。
逃げ道を封じ込める勇気すらない癖に。
だから私は、
歩く、歩く、歩く。
その時が来たら、逃げ出せるように。
本当は、
逃げ出す勇気すらもないのだけれど。
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今日も飛べる道を選んだ
蝉の声がする。
それももうじき終わるだろう。
街路樹の下、
コンクリートにひっくり返った乾いた死体を見付けるまで、後僅か。
君とそれを見ることは、もう二度とないけれど。
菊の花の似合わない机を見ながら、夏の終わりを待ち続けている。
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突っ伏した机は夏の匂い
君 が失われて、幾ばくの時が経ったでしょうか。
もう随分と、経ったような気がします。
もっとも、 君 が失われたことに、
誰一人として気付いてはいないのだけれど。
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今は亡き世界のために祈る
読んで頂き有難うございました!
少しでも気に入って頂ける作品になっておりましたら幸いです。
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