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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ディユリオンとシュトランゼ

作者: すー

この作品は著作権フリーです。ご自由にお使いください。

但し、アバター名は架空のものです。誤って現実世界でなりすましをしたりしませんように。

「ディユリオンとシュトランゼ」


   一話「仙台へ電車じゃなくて船でGO~」



 現代のお話。アバター名はディユリオン。お互い18才。

 名古屋港から発する仙台港経由苫小牧行きの船に乗船し、岩手の山や川、田畑と家とを見たくてひとまず仙台港行きの切符を買った二人。

 切符の販売員からジョークを飛ばされた。「心中旅行ですか?」

「とんでもない」とディユリオンは内心憤慨しつつあいそ笑いを返し(…気の合う二人のただの旅行だ)と冷静になる。

 そしてどーでもいいことに八つ当たり。船中でシュトランゼがあきれて聞いていたのはこんな言葉。

「金ピカの黄金に目がくらんだ○島○○夫は無視しよう」

 シュトランゼはささやかに笑って答える。

「ええ? そうかな? 金閣寺もいいと思うよ。世界遺産になった平泉も見に行きたいし」

「いや…だけどさぁ、ネットで見聞きする話だと経済産業省の前と同じくらいのベクレルがあるらしいよ」

「まあ…その時代の計算行商省、違った、経済産業省が自分で運び込んじゃったんだよね。今東京で頑張ってる政治家さんとかアイドルさんとか、町に残ってるひとたちを思うとちょっとこの旅行は申し訳ないかなって思ったりもする」

「気にしない。人生50年。しのび草には何をしょぞ」

「何?」

「いや、昔の歌だよ。小敦盛って言う」

「またディユリオン君はむつかしいことを言う。人生?年でも楽しまなくちゃソンだよ」

「岩手の人にパチンコ1パチDAYかクラブナゴヤの話でも伝えたいなぁ」

「ディユリオン君はさ、岩手のどこに行きたいの?」

「僕が見てみたいのはやっぱり『雨ニモ負ケズ 風ニモ負ケズ』の花巻なんだ。空港もあるようなことをどっかの小説で読んだけど、雪の季節は東北だと空港閉鎖もあるんじゃないかって思うんだ。記念館も埋もれてないかなぁ」

「うーん…。友だちが前沢ってところに住んでるんだけど、どうかなぁ? しんしんと降るからたぶん大丈夫って言ってた気がする。メールしようか」


シュトランゼのメール: 久しぶり。相変わらずわたしはぶりっ子してるよ(笑)今日はアバター名ディユリオンちゃんと旅行なんだ。もちろん同性旅行だよ。


 メールをそこまで打ち、シュトランゼは振り向いた。

 ディユリオンが聞く。

「シュトランゼのメールってDo○moじゃなかった? まだメール半額請負やってるの?」

「ふふ。秘密だよ。もう他社に変えたから忘れちゃった」

「東電にしても東大説法にしても、ほんとロクでもない」

「ああ、ダメダメ。ちゃんとした人はきっとどこにでもいると思うよ。東大生の知り合いいるけど、会ってみる?」

「いや…いいよ。こっちはツポレフだからさ」

「何?」

「いや。ポチ殿のところには会いたくも行きたくもないだけ」

「ふふ・・・気持ちは同じ。あまりポチさんを気持ち悪いって言っちゃダメだよ」

「それより地域の前沢…だっけ? シュトランゼの友だちに雪の様子を聞いてほしいな」

「まったく、どこもかしこもメール半額請負は冗談じゃないなぁ…。あ、間違えた。間違いはエタヒニン(←禁止用語??)とかとんでもないよねぇ。」


シュトランゼのメール:雪の様子はどうしたらば?

前沢の友人から律儀に返信:「したらばの用法間違ってるよ(笑) 友だちが繰る…違った、来るなら一緒に案内しようか。雪…このあたりはいつも通り」


 仙台港の船から降りて雪景色に染まる(日によってはホワイトアウト爆撃? 雪つぶて?)夢を見つつ就寝。


 続きはまた後日。


おまけ シュトランゼ:たぶん、ディユリオンちゃんの携帯は電池切れで繋がらない。おやすみー。

    ディユリオン:…。(←もう寝てる)


   二話「ボトルシップをながめつつ」


   ディユリオンのひとりばなし


 仙台港行きの船に乗り、エンジン音を聞きながらケイタイのワンセグテレビを見ていた。

 悲しいことにまた銃の乱射事件が起きた。

 武器はいらない。つたない歌でもリングノートに書いておこう。デスノートなんんぞどーでもいい。


 小1のクラスの子 26人が亡くなっても

 あのとき 中学生の ハットリ君が亡くなっても

 いつなくなるの 銃社会

 誰が 殺した ピジョン・ブラッド


 右のほおを打たれたら左のほおをさしだす。

 悪人正起。瘴気。将棋。正気? きっと銃に扱いなれているシカゴ(イメージ)の悪人は正気。

 アメリカのあゆはこの事件をどう歌うのだろう。

 もし、ビバリーヒルズで「よくあること」とおすましするならガッカリだ。

 っと・…しまった。毒舌はこのくらいにしとこう。

 

 シュトランゼちゃんが遠くからぼくを呼ぶ。

「ディユリオンちゃん。またむつかしいこと考えてたでしょ。映画の「あなたへ」でも見てればいいんだよ。友だちが知らせてくれたけど、東北の○○××というカーキ色のサーカス小屋のようなテントではまだやってるかもしれないって」

「あんさ…。それって自衛隊?」

「どうだろ。ふふ」



おまけ:ディユリオンのモノローグ


 もしそうなら東北も占領大歓迎に違いない。

「自衛隊」から「国防軍」という異音同意語にちんたらかまけてマメに働く官僚の手間をわずらわせるくらいなら&事務手続きの煩雑さの金失い、及び呼称変更で隊員達の志気低下を招くくらいなら、「自衛隊」の名前で内実をなんとかしろ。

くそったれ若造(あ、ぼくもそうだった。18才)のア○マリヤ新総裁。


   三話「ボトルシップは気にせずに洋上の雪を」


   シュトランゼのおはなし


 仙台港行きの船に乗った。久しぶりに気の会う友だちとの旅行だから落ち着ける。

 わたしがしている仕事をディユリオンちゃんに伝えることはできないけど・・・。彼女の様子がちょっと病気ぎみなので心配。

「親に言われたんだ。『ディユリオンも頑張ってるかもしれないけど、ほかのひとはもっと頑張ってるんだよ』 分かってるんだけど、言われるとちょっと辛い」

 わたしは病気はしていないけど、辛いときに『頑張って』と言われたら最悪の場合船から海に飛び込みたくなるくらいの気持ちはちょっと分かる。

「それなら道頓堀でいいじゃない。あの敵陣地で、あえて叫んでみたら? 中日ドラゴンズバンザイ!」

 そう言ったら相変わらずの真面目な顔がちょっとくしゃっと笑った。

「あの川は水が少ないし汚そうだからちょっと嫌だな。骨折で終わりそうだ」と本気の人のちょっと怖い感じ。

 お願いだから生きてとか、陳腐な言葉しか出ない自分がとても悔しい。だからほっぺを親指と人差し指でつまむんだ。


   ディユリオンちゃんへのおまじない。


 生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ生きろ


 Endress Painy Rain


 あはは、歌詞にもなってないや。これを後でディユリオンちゃんの携帯に贈っとこう。

 友だち同士なら許されるよね。


おまけ 6時間後のディユリオンの返信: これ・・・「もののけ姫」のポスター入ってるよね(笑)ちょっと元気になった。ありがとう。


   4話 「船室での朝食」


 ディユリオンとシュトランゼが朝食を取っている。簡易ブレックファースト。あんパンとカレーパン。いつか食べたいバイキングモーニング。

 ちぇっ、とシュトランゼが軽く舌を打った。

「あのお値段ならお得だと思うけどなぁ」

「高い高い。ぼくらの旅はとりあえず仙台港が決まっているだけじゃないか。いつでも朝食が取れるのはちゃんと仕事に就いたときだと思う」

「ふふ。働かざる者食うべからず? でもさぁ。潮風だってお金もらって働いてるわけじゃないし。でも、豪華なモーニングはまた来たときの夢にとっておこうね」

「・・・そうだね。じゃあ帰りはモーニングかディナーを食べよう。豪華に」

「そのときは誰かいい男の人が一緒だといいな」

「シュトランゼ。良い出会いを探していると、ロクでもない男に食べられるよ。気をつけないと」

「うん。・・・そうだね。ほんとだ」

 シュトランゼが旅に出たいと言った理由をディユリオンは知らない。聞く必要もないと思っている。但し、女二人でのタイタニックはおかしい。それは思う。

 おかしな二人の旅。筆者はガールズラブと調子に乗って付けているが、ただの友情二人旅だ。

 同じ中学を出た二人の旅。無謀な海外旅行や国内旅行とヒッキーを繰り返すディユリオン。そしてきちんと親を養いつつ仕事をしているシュトランゼ。生涯学習にも目覚めたらしく、ディユリオンにとってシュトランゼはパワフルに生活をしているように見え、眩しい。

(男二人がよくツーリング、バイクや登山をやっているのに女の子がやって何が悪いの? byシュトランゼ)

 ・・・性格の良い男の人二人の旅と偶然出会うことができたらいいな・・・。

 シュトランゼはいつの間にか、アンパンヲ食べながら涙を浮かべていた。

「」

「シュトランゼ。これ」

 ディユリオンが薔薇の刺繍プリントの入った百円均一のフェイスタオルを差し出す。

「・・・今は仕事をしていないんだけどさ」

 ディユリオンは話を変えた。

 赤いスポーツリュックの中からいくつか船室のベッドの上に中の品物を並べる。三重で取れたうるし色のしじみに金粉のごとくラメをこぼしたオブジェが出てきた。

「これを一個10円で売ってみようと思うんだけど・・・どうかなぁ」

「あはは・・・バカだねディユリオンちゃん。採算がぜんぜん取れていないんじゃない?」

「いや。だけど三重のしじみはウチの味噌汁に使った後だからさ。一応丁寧に洗ったけど。で、ラメもそんなに高いものじゃないし。中国やエジプトで露店の人が売ってた鳥やピラミッドのオブジェに負けたくないんだ」

「エジプトや中国ではいくらだったの?」

「10個10ドル。あ・・・いやいや50元? そんなもんだったかなあ。ゴメン。正しい向こうの通貨単位は知らないんだけど、こっちでいう10個で千円くらいだったと思うよ」

「ふぅん・・・なるほど、そうやって自分の技術力を磨いていくんだね。すごいや」

「ほんとだよ。で、ぼくは某チョコやうまい棒のクオリティに負けたくないから1個10円・・・でもね。本当に売るとなるとものすごく勇気がいるんだ。法律も何も知らないし。こんな食べ残しを・・・とも思うし。もしかして、この結果三重のしじみが絶滅しても困るし。だからとりあえずはおみやげとして知人に渡していくことにする」

「ん。したらばの友だちなら笑ってくれるよ、きっと。そうそう、某工業地帯地方の文句言っていい? 某党の人いないよね? あそこの海辺で取れたハマグリが、海水は問題無いと思うんだけど8個食べたうちの2個は何か異物が入ってるかな? という感じがしたんだよね。あ。放射能じゃないよ。なんかの化学物質っぽい。食べ物って工業地帯はやっぱりむつかしいね」

「確かに。知多の浜辺もイソギンチャクと海藻くらいしか見ない気がするしさ」

 ディユリオンは寂しそうに視線を床に彷徨さまよわせた。

「ふふふ。ディユリオンちゃん。わたしが養ってあげてもいいよ?」

 シュトランゼは涙を拭いていた。

「いや・・・何のことかな。よく分からないよ」

「いいのいいの。気にしない」

「100均で買ったハンカチだから持っといて。綿100%だよ」

 ディユリオンはなんとも言えず、自分が泣いたような恥ずかしそうな顔をして船室を出て行った。




おまけ ディユリオンのラメを絵文字で表現してみると。


 (TTT T)

 (***)


↑こんな感じ。ハマグリには見えない。大失敗! むしろ何か名鉄っぽいと筆者は語る。

(・・・アスペルガー、ヒッキー上等。こもこも。いざとなったらおこもさんになろう。差別型日本人にふぁっきゅ。あ、自分も差別しないようにしなければ)


筆者語り:近所の公園に、風景写真をケース入れて飾ってみた。寒いけどいい感じ。今日は外に出られたことに感謝。


5話「海に浮かび 遊べや遊べ 子らとらっこ」


 ディユリオンが船からぼんやりとした不安を抱えつつ海を見ていると潮風が凪いだ。

 不安のせいか、エンジン音はほとんど聞こえないようだ。ただ緩く緩く低ノット数で進む船に、空気がゆらゆらとする。

「んー。いい天気だね、ディユリオンちゃん」

「そうだね。海を見ていると気持ちが落ち着いてくるよ」

「でしょ? だから君を誘いたかったんだぁ」

 シュトランゼは大きく手を上げ、伸びをした。

「あれ・・・・・・なんだろ」

 ディユリオンが手を額にかざした。右舷の遠方に何かが見える。

「はい、ディユリオンくん」

 シュトランゼは可愛らしい水色の縞が入った水兵柄のポーチから、小さなアンティークグリーンカラーのオペラグラスを取り出した。

「ありがとう。ちょっと借りるよ」

 ディユリオンはオペラグラスを両手で構え、覗き込んだ。

 何かが浮かんでいる。

「目でも見えるね・・・サスペンスドラマっぽくさ、死体だったりして」

 シュトランゼはちょっとワクワクした様子で身を乗り出す。

「ぎゃーっ! っていう定番のアレかい? 人殺しドラマで作品の旅情を醸し出すには相当苦労するんだろうなぁ」

「それは・・・あの映画、バタリアンみたいにさ、あり得ない死に方してればフィクションとして成り立つから大丈夫なんだよ。君はネガティブだなぁ」

「ふふ。そうかもしれないね。極力血は見たくない臆病者だからさ」

 ディユリオンはすこし気まずそうに言い、言葉を続けた。

「そういえば・・・愛知県内であり得ない銀行強盗事件があったなぁ。自分で小銭盗んで逮捕の瞬間までサポートした強盗犯。あ、これ本当の話だよ」

「おー。格好いいじゃん、それ」

 二人の気楽旅。オペラグラスは取り出したものの、話半分、浮遊物はそっちのけ。いい加減に浮遊物に注目しろと筆者は言いたいようだ。

「・・・で、何だった?」とシュトランゼ。

「あれ・・・?」

 ディユリオンはオペラグラスの向こうを見据えた。

 子どもたちがいた。シダ系植物の葉っぱで編んだ船に乗り、フキの葉を帆にとんがり帽子をかぶった子たちと、長くいていなさそうな髪を腰まで垂らした子たちだ。

{ワレコロポクル、ワレキジムナー、ザシキワラシ ハナイチワラシ カミナドスカヌトモアソベライ}

 ディユリオンは何かを聞いた。

「あれ・・・?」とシュトランゼが声をあげる。

 もう子どもはいなかった。その代わりにらっこがいた。

「シッ」

 ディユリオンが人差し指を自分の口に当て、自分とシュトランゼの言葉を殺す。

 らっこは愛くるしい姿で背泳ぎをしながら、挨拶をするようにくるりと海に潜っていった。


  第6話「紳士との出会い」


 もうすぐ仙台港だ。ディユリオンとシュトランゼがラウンジでくつろいでいると、暖かな服装の男性が話し掛けてきた。

 毛織物の帽子をかぶった男性がにこやかに笑う。髪とひげがサンタクロースのように真っ白な人だ。

「お嬢ちゃんたちが使っているアヴァターなあ。それを使えば私の幼馴染も見つかるかもしれないな」

「良かったら探しましょうか。何十年と会えなかった知り合いに会えることもあるようですよ」

 ディユリオンが控えめに申し出る。

「会いたい友人と会いたくない友人はいるからね。難しい問題だ」

 男性は静かに笑った。

「お友だちのお名前は何ですか」

「ネルソン。ネルソン・ラムスコッチと大学のころは名乗っていたなあ」

「名乗る? 昔にもアバターがあったんですか?」とシュトランゼ。

「いや。昔は全共闘のころ…大学紛争という時代があってね。そこで活動する人間は、公安…言って分かるかな。逐一言動を見張る人がいたから、その人たちに見つからないようにいくつかの秘密の名前を持っていたんだ」

「おおー、スパイ映画みたい」

 シュトランゼが瞳を輝かせる。ディユリオンは神妙な面持ちで聞いていた。

「ぼくもいくつかの名前を持っています。ネットで投稿すると、見えてくることがあるんですよ。特殊工作員っぽい、金儲けやいたずら目当てにネットを使っている人が常駐している」

「ええ? 民主主義、情報の自由溢れるこの国で?」

 シュトランゼが驚く。

「いや…ほんとに民主主義が成立しているなら、あの原発のがれき問題や今の原発労働はないと思うよ」

 ディユリオンは苦いものでも飲み込んだように表情が暗くなった。

「核廃棄物のごみ不法捨てが発覚して厳重警戒中。でも、そのゴミを出す電気を使っていたのは日本人であるぼくらなんだよね。だけど望んで原発を選んだワケじゃなくて、気が付いたら原発があった。んで、爆発した」

「それから?」と男性が聞く。

「そういう情報を投稿していると、『赤』と呼ばれたり『エロサイト』の大量貼り付けをしてきたり」

「ディユリオン君は赤だっけ?」

「青とか赤とか、もうそういう時代じゃない」

「赤は我々の時代の名残だな。チャーリー・チャップリンがアメリカにいられなくなった理由を知っているかい」

「…いえ」

「作るモノが危険思想とみなされた時期があったんだ。もし日本でそんなことが起こっているとすれば問題だね」

「いくらでも証拠はありますよ。みなし脅迫と分かれば裁判は成立する。だからシュトランゼ。もし恐いことがあったら相談するんだよ」

 名を呼ばれ、シュトランゼの肩が震えた。

「…ひどいの。スイーツとか。喪とか。ううん。ひどかった、の」

「スイーツ? 喪?」

「ううん。 もういいの」

「信頼できる間柄はさ、ネットで会った瞬間にもなんとなく分かるよ。でも、ネットだとそれまでのカテゴリ内の付き合いもあったりして難しいね」

「ふむ」

「だからね、この旅で会いに行くことにしたんだぁ。岩手の友だちに」

 シュトランゼは携帯のストラップを見せた。手作りの古式ゆかしいミニチュア帽子。シュトランゼに岩手の『したらば』の友だちが贈ってくれたものだ。

「おや、良いものだね」

 男性は表情を崩した。

「あ。えーと…。もし良かったら、どうぞ」

 シュトランゼはストラップを外し男性に手渡した。

「ふむ。良いのかい? ありがとう。わたしからは、これを」

 紳士は名刺を渡した。元警察官と書いてある。

「この肩書きは本物ですか」

 ディユリオンがすこし笑う。

「確かに、警察官は引退しても名乗れないことが多いのだが…いつかの新聞に『交番の見回り巡査さん』として記事が出てしまってね。そのあとはもう名乗ることにしたんだ」

「お名前は」

函館卓はこだてすぐる

「フェイスブックに載っていますか」

「いや。グーグルで調べたら出てくるよ」

「ちょっと待ってください」

 ディユリオンは携帯で名を調べ、安堵した。

(筆者注:函館卓 ハコダテスグルはフィクションです。実名にいらしたとしてもこの作品と一切何の関わりもございません)

「日本の警察は良いな…」

「どうして」

「海外だと、まだまだいろいろあるんです」

「いつものことだが、上層部の腐ってるところにいろいろあるのはどこでも同じだよ。ディユリオン君。おっと、このわたしの発言は内密にな」

 それでも何かあったら相談。その壁は決して高くはない。

 紳士は暖かく説いた。

 ディユリオンはただ静かに微笑していた。シュトランゼは再び泣いていた。

「良い旅を。もし道に迷ったら連絡するんだよ」

 船の航行がゆるやかになった。

 元警察官の紳士と別れ、二人は部屋に戻って荷物をまとめた。


「どこに行こうか。フクイチでも見に行く?」 

「そうだなぁ。福島の壁を一度は見に行ってみたいかも」

「ふふ。ジョークだよ」

「福島はどうなるのかな。無人地帯が増えるってことは、ホリエモンがどこかの本で言ってたみたいにロケット開発の場所なんか良いかも」

「いつかは北の興隆国みたいにミサイルと言って人工衛星を打つのかなぁ? 核弾頭付きのやつ」

「いや…それは、アメリカも中国も、ロシアも、フィリピンも韓国もブラジルもカナダも、いろんな国、200ヶ国以上のひとたちも許さないと思うよ。北の興隆国に行った某検索エンジンの会長さんなら分かるかも」

「あんまりひどい政治をするなら独立すれば良いのかなぁ?」

「金銭的独立ならポイントカードで十分してると思うよ」

「あ。やめた。旅行じゃ政治のオハナシしたくないよねっ」

 船は仙台港に到着した。



 第7話「理想郷を探して」(最終話)


 ディユリオン:岩手に着いたらしたらばの友人とお酒が飲んでみたいなぁ。

 シュトランゼ:だめだよ、わたしたちは未成年でしょ。

 ディユリオン:雪かきとか、畑とか手伝って

 シュトランゼ:雨にも負けず、雪にも負けず? ときどきはお洒落。

 ディユリオン:ときどきはうまいモノ。

 シュトランゼ:ベクレル計るの?

 ディユリオン:数値的には結論出かかってるよね。三陸産の魚は大丈夫っぽい。

 シュトランゼ:どうして?

 ディユリオン:海底に放射性物質が溜まってるから、水面にいる魚はとくに当初の予想よりもひどくないんだ。

 シュトランゼ:いつまで気にするの、ディユリオンちゃん。

 ディユリオン:気が済むまで。


   了

  









名古屋港から仙台までの運賃は片道・消費税込みで6500円~7000円。詳しくは「名古屋港 フェリー」のGoogleやYahoo!Japanの検索でどうぞ。


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― 新着の感想 ―
[一言] こんにちは。 ご無沙汰しております。 楽しく拝見させていただきました。 言葉遣いが巧みでいて諧謔と風刺を利かせた面白い作品だと思いました。ややシュールな調子がたまらなく好きです。 激辛、で…
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