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暇人本棚

雨やどり

作者: 灯月樹青

(――雨なんて、嫌いだ)


振り続ける雨にそう文句を言ってみたところで、雨は止む事も強くなることもせず、ただ同じように振り続ける。

それがとても腹立たしい。

それでも俺がどう思っていようが、雨はザーッと同じように地面を叩く。


――…祐二(ユウジ)


地面に叩きつけるような雨音が、忘れたくても忘れられないある声を蘇らせる。

それは5年間付き合っていた女の声。

俺は頭に浮かんだ声を振り落とすように頭を振って見せる。


(雨なんて嫌いだ。嫌な事ばかり…思い起こさせるんだから)


それは忘れたい記憶だった。

そして、忘れきることの出来ない記憶。


――…祐二(ユウジ)


頭の中のかつての恋人は変わらず俺の脳裏に居続ける。

それは俺の会社の後輩であり、恋人であり、そして…妹となった女性ヒト

彼女と出会ったのは俺の勤める会社で、彼女は俺が新人教育を任された後輩だった。

クルクルとよく変わる表情に小さいけれど誰もが可愛いという容姿ナリ

けれど性格は可愛らしいというよりは凛々しいという言葉が似合うような、そんな女性ヒトだった。

彼女から告白されて付き合い始めるまで、そう時間はかからなかった。

彼女の容姿からは想像出来ない性格のギャップが俺には新鮮で、楽しかった。

色々な物を見て、色々な話をした。

その先に結婚という字が自然に浮かぶ程に。

誰から見ても、俺達はお似合いのカップルだったんだ。

…あの、雨の日までは。

今日のような雨の日から、彼女は急に余所余所しくなった。

二人で出掛ける事が減り、一緒にいる事が減り、お互いの事がわからなくなっていった。

こういう別れ方を自然消滅というのだろう。

会社は同じだったが、数年前から部署の別れた俺達は、会おうとしなければ会う事はなかった。

俺は仕事が認められ、本社に異動となり、単身東京に向かった。

東京での仕事は大変だったがやりがいがあり、あっという間に時間が過ぎていった。

その間に起こった事と言えば、別居した父について行った弟が結婚したのだと手紙で報告があったぐらいだ。

写真も何もないそっけない手紙だったが、それが逆に弟らしかった。

嫁を見たいなら顔を見せろという事だろう。

そう思い、何年かぶりに顔を出した俺を迎えたのが、嘗ての恋人だなんて、世間はなんて狭いのだろう。

俺は自分がボロを出してしまう前にさっさとこの場から去ってしまいたくて、挨拶もそこそこに仕事が残っていると言って小一時間もしないうちにその家を去った。

それがかれこれ1か月ほど前の話しだ。

多分もう父の所に顔を出す事はないだろう。

俺は自分が思っていた以上に動揺していた。

俺は忘れたと思っていただけで、まだ彼女に対する想いがこんなにも残っていたのだ。

弟の妻となった彼女を、俺の義妹となった彼女を、こんなにも好きで居るなんて間違っているから。

もう会わない、もう会えない。

あの雨の日さえなければ…、彼女は俺の隣にいたのだろうか…。



雨をキーワードに昔書いたお話です。

もうひとつとセットのつもりだったけど…もうひとつを書いてないみたい(^_^;)

これ一つだけなら雨関係なくてもいけますね(^_^;)

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