群青の夜空
純文学の練習です!
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雲一つない青い空。黒い夜空のカーテンに散りばめられた満天の星。その星々を映し出す夏風香る海。
夏樹は自身の生まれた季節である夏を思い出し、恋焦がれていた。
春も明け、すっかりと雨の香りに染まりきった夏前の梅雨の時期であった。
雨模様の校庭を眺めながら思い出にふけている夏樹に声がかかる。
「夏樹!サッカーしようぜ!」
「………。何言ってんだ葉。外は雨だぞ。」
「室内だ!室内!体育館でやっから取られる前に行くぞ!」
そういえば授業のチャイムが鳴っていた。授業も聞かずに思い出に浸っていたせいだろうか。それとも、恋焦がれるあの子に思いふけていたからだろうか。そんなことを考えながら、席を立つ。
葉と体育館に向けて小走りでかけてはいるが、夏樹の気持ちはどこか遠い世界にあるようだった。
雨のせいだろうか。思い出の夏が近いからだろうか。夏樹は喋りながら走る葉に適当な相槌を打ちながら、後を追いかける。
体育館に着くと、他のクラスの人たちがバスケやバドミントンをしており既に満杯の状態であった。
その様子を見た葉は悔しそうに夏樹に喋る。
「くそー!!また遅かったか!雨の日はこうなって嫌なんだよー!」
「いいじゃん。どうせ二人しかやんないし。また端っこでパス練でもしよう。」
夏樹がそう言うと、夏樹と葉は狭いスペースに入りこんで対面でパス練習を始めた。
葉はパス練習をしながらいつものように夏樹に喋りかける。
「なんでうちの高校の奴ってみんなスポーツしたがるんだかねー!別にスポーツが強い高校って訳じゃないのに!」
「自称進学校だからな…。勉強のストレス発散だろ。」
いつもの他愛もない会話をしながらお互いにボールを蹴り合っていた。
しかし、今日の葉はいつもとは少し違った。
「なぁー。夏樹は好きな人とかいんのかー?」
突然の質問に夏樹は少し動揺を見せ、蹴ったボールが少し浮いてしまった。
葉はそのボールを華麗に受けてにやにやしながら夏樹に喋った。
「おおっと!その様子だと好きな人いるなー??」
「こんな人がいるとこでそんな話はやめろよ…。年頃だからそりゃいるだろ…。いきなりびっくりしたわ。」
「おうおう!動揺してんなー!もしかして美月先輩か!」
図星であった。
美月先輩は3年生で野球部のマネージャーだ。夏の炎天下、サッカー部の練習でばてていた夏樹にスポーツドリンクをくれた女神のような先輩だ。その時に一目惚れをしてしまっていた。
夏樹は、我ながらなんて浅い理由で好きになってしまったのかと少しの後悔があった。しかし、そうなるのも無理もないほどの美人マネージャーであった。
野球部のマネージャーであるのに、透き通るような白い肌。大きい目。整った顔立ち。おまけにスタイルまで抜群。
あんな人と付き合えたならこの人生が無くなってもいいと思えるくらい幸せなんだろう。
夏樹はそれほど美月先輩にぞっこんだった。
少し動揺している夏樹を見て、葉が近づいてきた。
「美月先輩はやめた方いいぞ…。めちゃくちゃ競争率高いからな…!美人だし、めちゃくちゃ頭いいって話だぞ!」
「そういうお前は好きなのかよ…。」
「俺はもう雲の上の存在!って感じだ!付き合うとかじゃなくて推しだな!ありゃ!」
「そうか…。そういうもんだよな…。」
二人で話をしていると、授業始まり5分前のチャイムが鳴った。
「うお!やべ!次の授業別室のやつじゃん!急げ急げ!!」
葉はそう言いながら猛ダッシュで駆けていった。葉はかなりの俊足のため夏樹は追いつけずゆっくりと小走りで教室へむかっていった。
放課後、雨も上がり夏樹と葉はサッカー部の練習をしていた。
サッカー部は野球部とは別のグラウンドで練習しているため、美月先輩とは全く会うことはない。
夏樹はそちらの方が練習に集中できてまだいいな。と思っていた。
練習が終わり、夜の20時ごろ帰りの支度をしていた夏樹と葉は先輩と一緒に部室で雑談をしていた。
「なぁなぁ。葉、夏樹。最近うちの学校で幽霊が出るって噂知ってっか?」
「えー!なんすかそれー!お化けとかでるんすかうち!」
「そうなんだよ…。屋上ってよ…鍵かかってんじゃん?それなのに屋上に人影があったって言うやつがたくさんいたんだよ!」
「警備員かなんかじゃないんですか?」
「警備員だったらライト照らしてるはずだろ?それがな…。真っ暗な中一人立っているそうなんだよ!!」
「うへーー!!!こえー!!!」
話が盛り上がっていると、サッカー部の顧問が入ってきた。
「おいおーい。もうそろそろ消灯だから下校しなー。」
「はーい!今でまーす!」
葉が明るく返事すると、先生は部室から出ていった。そのタイミングで先輩がコソッと話してきた。
「なぁ…。今日の夜に人影が見えたら屋上までのぼってみねぇか?めっちゃ気になんだよ…!」
「ええーー!俺怖いっす!!幽霊とか無理っす!!!」
「先輩夜にどうやって校舎に入るんですか…。セキュリティとかないんですか…?」
「うちの学校って12時からセキュリティのやつが入るらしい!だからその前ならいけると思うぜ…!」
コソコソと話しながら部室を出る準備を進める。
部室から出て真っ先に屋上の様子を見た。
しかし、人影はない。
「なーんだ。いないのかよー。」
「うあぁ…。よかったぁ…。いなくてぇ。」
「そうだな…。」
「ん!そういえば明日練習試合だから2年のお前らも出場すると思うからしっかり準備しとけよ!」
「おっす!スパイク持って、脛当ても持ちましたっ!!」
「あっ。脛当て置いてきた…。ちょっと取ってくる。先に帰っててくれ。」
「おう!お疲れ様!じゃ!葉、帰るか!」
「おっす!じゃあまた明日な!夏樹!」
「お疲れ様です。おう。明日な。」
そう言って夏樹は小走りで部室まで向かった。
途中、練習終わりの野球部とすれ違った。野球部の練習が終わったってことは、美月先輩も帰りなのだろう。
偶然会えないかな。夏樹はそう思いながら部室まで小走りで向かう。
サッカー部の部室に着き、鍵を開けるために鍵を取り出している最中、部室棟の陰から声が聞こえてきた。まだ野球部が残っているのか。と思いながら鍵を探していると、女性の声と男性の声が聞こえてきた。
美月先輩…?と思いながらその声が気になり声がする方向に行ってしまった。
部室棟の角から少し顔を覗かせて見てみると、美月先輩と野球部のキャプテンである茂先輩がいた。
いたというより、美月先輩は壁に押し当てられ茂先輩にキスをされながら胸をまさぐられていた。
「茂くん…。」
「美月、好きだ…。」
それを見た夏樹は全身に感じたことのない衝撃を感じた。胸が強く締め付けられる。鼓動が速くなる。吐き気を催す。
耐えきれなくなった夏樹はその場から逃げるように急いで去っていった。
どこか遠くに。どこか。走らなければいけない。どうして。なぜ。無理だ。死にたい。
様々な感情を抱えながら、校庭の隅でうずくまった。夏樹は激動の内面とは裏腹に静かに泣いた。
たった一回。たったの一回だ。話しかけられただけで何を思っていたんだ。夏樹は己の中にあったエゴと楽観的な期待とそれを裏切られてしまった悔しさ、喪失感で胸がいっぱいだった。
夜10時を過ぎた頃だろうか。泣きも治ったころ校舎の方を虚な目で夏樹は眺めていた。
「美月先輩は茂先輩と付き合ってたのか…。そうか…,はは…。俺だけ好きで…。馬鹿らしいや…。」
思いふけながら、ふと空を眺めると満天の星空が輝いていた。夏樹はこの星空の一部になりたい…。と考えながら、立ち上がって帰ろうとした。
その時、ふと先輩が言っていた屋上に目をやった。
人影だ。あぁ…。本当にいるんだなと。そう思っただけだった。屋上にいる正体のしれない人影よりも思春期において衝撃的なことを体験したばかりの夏樹には大ごとのように見えていなかった。
しかし、人影の後ろにある綺麗でしょうがない星空に目を奪われる。
俺も…。あの屋上で星を見たい…。そう思いながら、夏樹は気づけば屋上のある階段を上がっていた。
屋上の扉が少し開けかかっている。夏樹は何も考えずに扉を開けた。
扉の先には見たこともないぐらい綺麗な星空。満天の星空が広がっていた。
その光景に夏樹は思わず声を漏らしてしまう。
「おお…。すげぇ…。」
感嘆している夏樹に声がかかった。
「すごいだろう。この星空。」
夏樹ははっとして声の方に目を向けた。
美月先輩だ。美月先輩がそこにはいた。
吸い込まれるような綺麗な空と綺麗な先輩。しかし、美月先輩がなぜここにいるのかと不思議に感じた。
「え、あ、え、え、美月?先輩…?」
「あぁ…。そうか…。美月の知り合いか。」
あまりパッとしない回答に夏樹は違和感を覚えた。しかし、目の前にいるのは紛れもない美月先輩の姿である。
美月先輩(?)は、夏樹に近づきながら喋りかけてきた。
「美月は元気かな?私は美月が心配でね。」
「いえ…。美月先輩とはそこまで話したことがないというか…。というより、あなたは美月先輩じゃないんですか…?」
「そうだね…。私はね、美月の双子の姉さ。」
美月先輩に似たその女性は、納得をせざるを得ないくらい美月先輩に似ていた。
夏樹は驚きを隠せずに目を見開いていると美月先輩の姉が喋り始めた。
「2年前くらいかな?私はこの屋上で死んだんだ。美月を置いてね。」
夏樹は何を言っているか理解できなかった。しかし、それでも淡々と話を続けてくる。
「私はね、星空が大好きでいつも空を眺めていた。将来は天文学者になるって決めていた。けどね、天文学しか興味のない私は変人扱いされてしまってね。美月には多大な迷惑をかけてしまっていたよ。」
「は、はぁ…。」
「ある夜、この綺麗な星空を見てたら、私は掴みたくなった。星空が欲しいと。そう願った。君も綺麗だと思うだろう?ここからの眺めは。でも、気づいたら屋上から落ちてね。私は星になってしまっていたよ。笑えるだろう?」
「えっと…。え、何を言ってるんですか。」
「君は願っただろう?星になりたいと。」
たしかに願った。消失感から願った。だがそれは幽霊になりたいとか、死にたいとか。そういう訳ではない。そんな大ごとではない。夏樹はそう思っていた。
しかし、美月先輩の姉は見透かしたように夏樹に語りかける。
「君は美月のことが好きなんだろう?」
「え、いや、その…。」
「いいのさ。わかっている。美月は私と違って誰にでも優しい。惚れるのも無理はない。」
「はい…。でも…。」
「失恋した。君は一つの情熱を失ったのだよ。見ていた限り、君はサッカーにはあまり情熱を向けていないだろう。」
夏樹の内面は完全に見透かされていた。夏樹はその言葉で大きく動揺をしていた。
夏樹の動揺に構わず、美月先輩の姉は語り続ける。
「君はその燃え盛る情熱を一つ失い、願った。星になりたい。死んでしまいたい。この夜空に浮かぶ星のように輝きたいと。…私の手をとりたまえ。星空の一部として歓迎するよ。」
その言葉を聞き、夏樹は怖くなってしまった。
この手をとれば死んでしまう。そう直感で感じた。
恐怖を感じ、後退りをしていると美月先輩の姉は夏樹から少し離れていきまた喋り始めた。
「そうか…。はやとちりだったね。まぁいいさ。またいつか君に会いたい。君と会ったのも何かの縁かもしれないからね。次に会う時に何か情熱を燃やしてくれていることを期待するよ。じゃあまた。」
と言いながら、屋上から落ちていった。
夏樹は驚いて、屋上の下を覗き込むが何もない。
一体なんだったのだろう。そう思いながら校舎から出て帰路についた。
その後、夏樹は屋上に行くことは一度もなかった。夜空のように美しいあの人に会うと、今度こそ星になってしまうと思ってしまっていたからだ。
しかし、卒業したあとになっても夏樹は夏が来る梅雨の時期になるとあの夜のことを思い出す。
あの夜の綺麗な星空と星空のように綺麗な先輩の姉のような人物が忘れられず、夏樹は大学に入学したあと、吸い込まれるように天文学サークルに入った。
あの夜、掴みたいと思ったほど綺麗だった星空。星空のように綺麗だったあの人。星空になりたいと願ったこと。星とは一体何で、あの人は一体なんだったのか。
いつか星空をその手で掴むまで、彼はずっと星を探し求めている。




