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赤子泣いても蓋取るな

作者: 黒楓
掲載日:2026/03/07

久しぶりの更新です!

 激しく求め合い、ふたり同時に果てて限りない幸福感に包まれ、今、私は……ミスディオさんの胸に甘えながらお話をせがんでいる。


「ええ~! 今日は華ちゃんの番じゃん!」


「そうなんだけど……今の私のアタマの中、ミスディオさんでパンパンなんだもん!」


「私だって! 華ちゃんでパンパンだよ!」


「でも、ミスディオさんならできるでしょ? お願い!」


「何それ! ホント! こういう時の華ちゃんって甘えん坊なんだから……」


 そう言いながらも……

 私の髪に指を絡め頬をくっ付けたミスディオさんは……囁く様に語り始めた。



 ◇◇◇◇◇◇


「もう、顎、疲れちゃったよ」

 こう言い捨てて、()()の代わりにタバコを咥え、ヴィヴィアンのハートシェイブライターで火を点けた。

 もちろん、いつもはこんな客あしらいはしないのだけど……

 コイツ、鼻につく程のイケメンの癖にずっと皮かむり象さんを決め込んでるから……

 こっちだって!

 キチンと剥いて丁寧に清めてあげたのに……もう10分も経過して……いい加減ムカッ腹が立ったのだ!


「アンタさあ! 『オンナ泣かせ』ってほざいてたけど! 今までどんな“マグロ”を決め込んで来たんだよ! オンナをバカにするのも大概にしろよ!」


 客は項垂れたままのモノを見ながらボソリ! と宣う。


「オンナ、泣かせてきたのは事実だけど……ちゃんとご奉仕はしてた。『始めちょろちょろ、中ぱっぱ!』で」


「何それ!」


「ク〇イキだって中◇キだって、ちゃんとさせてたって事!」


「バッカじゃねえの?! そんなのオトコの甲斐性だろ!」


「フーゾク嬢に言われたくねえよ」


「フーゾク嬢にこんな事言わせんなよ! ホント! お前みたいなヤツサイテー!!」


 こんなヤツのせいで店クビになるのもバカバカしい話なのだが、この時の私はいつになく瞬間湯沸かし器で怒りを止められず、売り言葉に買い言葉で……ファイティングポーズをとっていたのだけど、いきなり相手は消()()した。


「……肩スカシかあ?」って言葉が頭をよぎる。


「……そうだな……フーゾクのお姉さんの力を借りなきゃならないなんて信じられないんだけど……」


「だからどうしたよ?!」


「オレ、すべてにおいてイケてるヤツだったんだ!」


「よく言うよ! フニャチンのくせして!」


「そこよぉ! イキナリそうなっちまったんだ!」


「はぁ~?」


 客は顔をしかめてため息をつく。


「とあるパーティで捕まえたのが財閥系の令嬢でさ」


 私は返事をする気も無くフン! と鼻を鳴らしたのだが客はそのまま話を続ける。


「これは逆玉に乗れるなって手応えがあったから既成事実を作ったら……」


「オトコがそれ言うかぁ~」


「オレだから言えるんだ! オレ、仕事も出来っからよ!」


「へえぇ~そうかい!」


「そうよ! しかしだ!! とんでもねえ事が起こったんだ!」


「そりゃ、ろくでもない事だったんだろうよ」


「ああ、ろくでもねえ事だ! カノジョの方から 言って来たんだ! 『あなたと絶対に結婚したいから今日は()()()()で!』って!」


「ん? 何を?」と私が尋ねると客が今日使われる事の無かった“ゴム”のパッケージを目で指した。


「ああ、そういう事ね。でもそれって『渡りに船』じゃね?」


「ああ、その通りだけどよぉ~ そっから全然、屹たなくなった」


 こう吐き捨てる客の顔が情けなくて、私は吹き出し、ついでにケラケラと笑ってやった。

 ああいい気味だ! 天罰ってヤツだ! だから笑いながら慰めてやった。


「まあ、きっと一過性のものだよ。今日はダメでもそのうち治るんじゃね? 次はアンタのガールフレンドにでも試してみるんだね。そこでもダメだったら“不能者”のレッテル貼ってもらって潔くオンナを卒業しな!」


「それはできねえ!」


「なんでさ! アンタ、仕事も出来んだろ?! だったらオンナのコネなんかアテにしないで、それこそ、オトコを屹てろよ! そしたらもっとマトモな女が寄って来るよ」


「それじゃ意味が無い!」


「何でさ?! どう考えたって、その方が男らしいだろうが! 違うか?」


 渋面を作って黙り込んでしまった客に……私は何とも言えない違和感を感じちゃったんだよね。

 これ、なんか変だよね! って……


「勇気が無いのかもしれねえなぁ~」

 ボゾッ! と客が口にした言葉が……私の中でじわじわと違和感を広げる。


 これって私が放った『男らしい』って言葉を隠れ蓑にして何かから目を逸らせている。


「アンタさあ! なにか物凄い怒りがあるだろ?」


「えっ?!」


「アンタの言動、スジが通らないもん! 何かもっと以前から……怒りを抱えてない? アンタに近い人に対して……」


 私の言葉に客はハッ! と顔を上げた。


「上の姉が……来月結婚するんだ! 下の姉は姉で……この間、結納を済ませたし……だからオレは……」


「自分だけが取り残されて寂しいって思ったわけじゃないだろ?!」


 客は頷いた。


「そうだ! 寂しいからじゃない! オレは!! アイツらより『いい結婚』をしたかったんだ! そして! アイツらの事を!! 『ざまあ』してやりたかったんだ!」


「何がそんなに憎いんだ?」


「アイツらは! オレが小学生の頃からオレの事を“解剖”して、ずっと玩具にして来たんだ!! オンナに対するご奉仕だって、それこそ! グイグイ押し付けられて仕込まれた!!」


「……そりゃ、きっと……殺したいほど憎いんだろうねぇ~ 知らんけど」


 こう、声掛けしても……ただただ唇を噛み締めるだけの客に私は言ってやった。


「だったら修羅場を起こす相手が違うだろ?!」


 客はため息をついて頷いた。


「修羅場を起こすんだったら、そのオンナどもの結婚式でだろ?!」



 ◇◇◇◇◇◇


「結局どうなったの?」って聞くと……ミスディオさんは両手を組んで天井に向かって伸びをした。


「さあねえ~ その客はそれっきりだったし……だけどさあ~華ちゃん! 人の心って……つくづくおっかないねえ~」


 ミスディオさんの目の端に光るものが見えた様な気がして、私は夢中でカノジョを抱き締めた。

「大丈夫! 私が絶対! ミスディオさんを守るから!!」


「私だって! 華ちゃんの事を守るよ!」

 とミスディオさんは私を抱き返す。


 そして私たちは……第2ラウンドへと突入した。




「赤子泣いても蓋取るな」 ~了~



このお話は拙作「喪女 華恵さん」のスピンオフです!


本編はこちら

https://ncode.syosetu.com/n2084hh/



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― 新着の感想 ―
スピンオフって、チャンと全話読んだ読者からすれば「ご褒美感ハンパないです♡」 「今日は華ちゃんの番じゃん!」のところで、私の名かにパァっと花が咲き乱れました(⌒∇⌒)
おーあー  あー、彼は悪い方向に吹っ切れちゃったんですかねー  女性から男性への性加害は、未だに問題にもされない事が殆んどでしょーからねー  闇深 
おぉ、黒い……真っ黒! でも、ここまで行くと、いっそ清々しい気がします。 フ〇ャ〇ン君も言うだけ言われて、少し楽になったのでは? オトコも色々抱え込んじゃうと、荷物を自分でおろせなくなるんですよね。 …
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