第三章 とある二人の訓練
基本的に、龍宮寺家の者は他の者達と共に学校生活を送るのだが、孫馬鹿とも称される理事長の勝手な意向で、甲我以外の他の者達と接触する事は禁じている。が、それでも彼女に近付く者達がいるのは確かだが、それら全ては事前に守られるか、亜寿沙が対処している。あまりにもしつこい場合は甲我が出動する事になっている。
だからこそ体育というのは、本来であれば龍宮寺も一緒に活動出来るのだが、先程の理由により甲我、もしくは龍宮寺一族に通ずる者達のみが共に運動が出来るように、理事長が勝手に命令をした。
一年の時はそれにより、龍宮寺一族に関係する者達だけで構成されており、二年になってもそれは変わらない。なんならOBとして年齢が高い層の人も来ることがある。
それが、龍宮寺専用の体育館である。
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「これはこれは婿殿、今回は儂達の為に手加減をしていただけるということで、宜しくお願い致します」
「いやいや、龍宮寺一族に関連する一族が来るのは毎回知ってますけど、未だに現役であらせられる皆様を相手に手加減とか、流石の俺も厳しいんですけど? だって滅茶苦茶殺気込められてますやん」
「去年の雪辱をここで晴らそうなんて考えておりませぬぞ! ただ、ほんの少し、殺気を込めて目玉を一つ頂こうかと考えている次第ですぞ!?」
「滅茶苦茶来るやん! それ滅茶苦茶来る奴ですやん!? 俺嫌ですよ? あの時は皆さん強いからちょっと本気にならざるを得ない状態でしたからね?」
「でしたら、今回も同じようにお願いしますぅ~~。あの時の婿殿の人間離れした波動が忘れられなくて忘れられなくて……」
「波動ってなんですか!? ちょっと亜寿沙!! このお爺ちゃんお婆ちゃん達をどうにかしておくれ!! 今日来るOBが歴戦の戦士とか聞いてないんだけど!?」
専用体育館の広さは通常よりやや大きく、簡単には壊れない素材で作られており、頑丈。それゆえ、暴れても平気な部分がある。
甲我が困っているが、その困っている表情を見て亜寿沙はクスリと笑い、
「皆、甲我に会いたがっていましたのよぉ! お相手してあげなさい!」
「会いたがってくれるのは嬉しいけど、殺気が隠しきれてねぇんだよ!」
あらあら、困ったものねぇ~、と亜寿沙が達人級の老人達にゾロゾロと近付かれている光景を見ながら、両手にバンテージを付けてもらっている。
「亜寿沙お嬢様も、ご老人様方の様にご熱心ではないんですか?」
笑みで声をかけるのは、龍宮寺一族に使えるメイドにして、同じ学年の友人、”西園寺 弘美”。西園寺家の一人娘である。西園寺家は龍宮寺一族に属している一家であり、常に四天王を排出し続けている天才一家とも言われている。
ピンクのツインテールをした可愛らしい顔つきで、体操服を着ている。
「弘美。貴女も、甲我と戦いたいんでなくて?」
「まさか。私は甲我様の前で尻もちを付いてしまった人間ですよ。恨み辛み妬み嫉みはあれど、戦いたいとは思いません」
笑顔で額に怒りマークが出ていそうな表情に、亜寿沙が微笑する。
「きっと、西園寺の上の方々が暴れてくれますよ。確か、血走っているあちらのお爺様とお婆様が、弘美の身内でしたわね?」
「えぇ。一番悔しがっていたのは、西園寺家だと思いますので。といっても、他の一家だって悔しい思いはしておりますからね。私の幼馴染だって悔しがっていましたから。今回はパートナーの為に来ていませんが」
「貴女もパートナーはどうしたのかしら?」
「今日は体調を悪くしたということなので、おやすみだということでしたので、こちらにお邪魔させていただきました。おっと、本当にお邪魔でしたかね?」
「まさか。甲我が強くなる為だったら、あぁいう強者を交えさせても問題はありませんわ。それに、甲我が負けるところなんて見たことがありませんもの」
二人が甲我達を見れば、二人の老人の攻撃を両手で捌きながら容赦なく足蹴にしている甲我がいる。二人の老人とは、西園寺の老師と言われている二人であり、夫婦。現役時代は西園寺家で最強の夫婦と恐れられていたとかだが、
「まさか、あの二人を相手に訓練しているなんて……。やはり、たったお一人で総本山に渡り合っただけの事はありますね。そこ”だけ”は尊敬します」
「えぇ、そうね。強く強調したいのは分かるわ。けど現状としては、甲我は圧倒的にあの二人より強い事が一年前にも、そして現在でも証明してしまっている。本当に不思議な男の子ですわ」
「そんな男の子に惚れた亜寿沙様も、変わりました~~ね!」
弘美が亜寿沙の頬を掴んで引っ張ると、頬を赤くしながらも頬を掴んでいる手を掴み、頬から放させる。
「全く、弘美ったら。それより、模擬戦をお願いしますわ?」
「了解です!」
二人が、甲我達とは違う場所に二人が移動し、お互いの距離を一メートル内に。そしてお互いに構える。亜寿沙の構えは、日本刀を持っていてもおかしくない二刀流の脱力された、構えとは中々言えない体勢。弘美は西園寺家に伝わる構え、人差し指と中指を真直ぐにし、やや中腰で左足、左手を前に出した構え。
特に西園寺家の構えは、甲我と戦っている夫婦も使っている暗殺拳に近い。それとは真逆に亜寿沙の構えは、やや猫背気味になっておりかっこ悪い。そして顔付きは無表情。
「行きます」
「言わなくても来て頂戴。いちいち攻撃する事を報告するなんて、おかしいでしょ」
「ですね!」
弘美は右足を左足に近付けさせて身体を丸くさせて、顔を左にやや向けて左目で亜寿沙を捉える。直後、右足に力を入れて左足を前に滑らせるように出し、左手を蛇のように、そして身体を最速で出す。
弘美が出しているのは西園寺家が過去に取り入れた中国拳法の一つ、蛇拳。それを西園寺家が違う形で得た拳。その左手の指が亜寿沙の目を捉え、蛇のように飛び掛かる――頃には、亜寿沙は飛び掛かり終えており、弘美が亜寿沙の隣を通り過ぎていた。左肩から右脇腹に駆けて斬られたかのように。
「ぐ!?」
「弘美。貴女のお爺様お婆様は、私のこの程度の速度なんて簡単に見切り、すかさずに対応を変えているわ。甲我はそんな二人を相手に対応を変えて訓練を……いえ、戦っている」
弘美が斬られたような痛みを感じながら甲我と自分の祖父祖母を見る。同じように蛇拳を使用している。それも両手だけでない、両足や動き、全てが蛇のように動いている。飛び掛かる速度も比にならない。それなのに、甲我はそれら全てを捌き切り、あろうことか反撃の一撃を同時に与えている。
「弘美、貴女では甲我に見切ってもらえるどころか、触ってすらもらえないわ。そんな貴女が、私に意識せずに甲我に向けているなんて千年早いわ。先ずは私を倒してから、甲我に挑もうとする事ね」
「……中々に手厳しい。こちらは、お爺ちゃんお婆ちゃんの二人が、甲我様にあぁも遊ばれているのを目の前にしていて、ちょっとだけショックを受けているのに」
「衝撃を受けている暇はありません」
弘美がその場で振り返り先程と同じ構えをすると、一メートル離れた位置に亜寿沙が立っており、先程と同じ構えをしている。それだけで弘美は冷や汗を流す。
「相も変わらずのその脱力、飛び込む勇気を称賛してほしいんですけど?」
「褒めてほしいのなら、もっと飛び込みなさい。左手の手先、左足の足先、身体、そこから来る目に見えない速度を出すのが先ず貴女の課題の筈よ? 弘美」
「……確かに。やはりお二人はお似合いだ。好きなように言ってくれるので、大変助かりますよ」
「あら? 甲我に何か言われたんですの?」
「肩から前腕にかけての動きが一辺倒で分かりやすいと言われました」
「あっはっはっは! 流石甲我ね。貴女の一直線の動きを明確に伝えているわ。もっと、動かしなさい」
言葉が終わったと同時に弘美は低い体勢になり、縦による回し蹴りを放つ。亜寿沙からすれば目の前に足先が飛んできてる状態だろう。それを僅かな動きで回避し、次に来る攻撃を感覚で予測し、その前に背後へと飛ぶ。直後、蹴っていた足が足元を狙って突きをしていた。
「それよ、それ。速度が大事なのよ、貴女の場合。けどまだまだ、瞬蛇拳とは言えないわ。瞬きしている間に攻撃をしなければならない。今のは瞬きには到底追い付かないわ」
「訓練中の努力中の天才なので、こうご期待!」
左手による刺突が亜寿沙を襲うが、それら全てを亜寿沙は左手で叩き落す。弘美が舌打ちをし更に速度と、角度を変えて、より予測し辛くさせる。が、それらも左手で、それも左手一本で叩き落す。
「相も変わらずその捌き能力は、流石龍宮寺一族ですね! 悔しいですよ!」
「あら? 主人が強い事は喜ばしい事では?」
「こちらの立場もお考え下さいな! ご主人――様!!」
左手先が先程よりも素早く、蛇のように戻す速度も上げて、亜寿沙の叩き落しを回避して自身のリズムを取り戻す。それを見た亜寿沙は嬉しそうな顔をし、
「成長する親友を見るのは、大好きよ?」
そう一言、呟いた。




