1:スローライフ
「先輩。今回の異世界人、若いっすね」
「――ん? あぁ、ありゃ日本人の学生だな。そういえば俺、今日で里帰りするからその兜やるわ」
「まじすか! あざーす」
大聖堂での異世界人召喚の儀――。
甲冑を身に纏い、”召喚の儀”の守衛としてやってきた俺――ドイルは『しがない』現地人。
各国より集められた聖女たちが次々と、異世界日本人とバディを組んでいくなか――
「ちょっとそこのあんた、お手洗いに案内しなさい」
「――あ、はい」
兜を被っていなかったせいか。
目の合った女神のように美しい――少しばかし小麦肌の聖女を、過去に数回しか来たことがない大聖堂内を案内することとなった。
「それにしても――異世界人って言っても、なんかパッとしない連中よねー。芋臭いというか乳臭いというか……。なんでわざわざ”私”という大聖女様が、ガキンチョのおもりなんかしないといけないんだか――。はぁ」
「……まあ、とはいえ彼らには『特異なスキル』が召喚の特典で宿るといいますし。暇つぶしには良いのではないでしょうか?」
「――プッ。あんた言うわね! せっかくなら、あんたみたいな性根の腐った奴だったら良かったわ」
(いや、それだけは勘弁なのだが。『世界平和のために旅をする』ってどんな罰ゲームだよ。んな、面倒なことは異世界からやってきた日本人にやらせとけば良いんだよ)
「……そうっすね」
そんな与太話をしながら、召喚の儀が行われた大広間に戻ると――
「おぉ、聖女ベルナ。やっと戻ってきたか、探したぞ」
「どうなされたのですか司祭様――。あれ? それよりも、私の腰巾着は……」
背の低い、白髭を生やした司祭は首を振り――言った。
「スローライフが何とかと言って……逃げおった」
「はああああああああああああああああ??!!」
ベルナの声が、三人しかいない大広間に響いた。
「いやいやいやいや、じゃあ私どうするんですかっ?! 一人旅なんて無理ですよ! せめて荷物持ち、荷物持ちぐらい用意してください!」
「んあぁ……そんな急に言われても、残っている路銀はこれっぽちじゃし……あっ」
困った様子の司祭は俺を見て、ひらめいたような顔をした。
「そこの守衛! おぬしのせいで、聖女ベルナがバディの異世界人に逃げられてしまったではないかッ! 罰として、聖女ベルナの奴隷――いや……『バディ』を組むことを命じる!!」
(噓だろ……)
「はっ! 司祭様の命、喜んで承りました」
完全なる縦社会であるこの世界――一端の守衛である俺が司祭に口答えすることは死罪に値する。
しかしそれは、これまで十年間の苦労が……水の泡となった瞬間だった。
なんせ俺は、里帰りしてスローライフを送ろうと思っていたからだ。
そして――、俺は聖女ベルナの奴隷となった。




