第1話:『放課後の小さな調査室』
教室の窓から射し込む午後の光は、どこか懐かしい匂いを帯びていた。秋山紗凪はカバンを肩にかけ、転校初日の緊張を抑えながら教室に入る。
「……ふう」
クラスはすでに騒がしく、誰も紗凪に気を留めない。むしろ、それが心地よかった。人と関わるよりも、物事の裏側を見るほうが、ずっと落ち着くのだ。
放課後、文化部紹介の時間。壇上に上がったのは、地味な雰囲気の少女、三好凪。図書委員で部長を務める彼女は、淡々と部活の内容を説明する。
「放課後鑑定室――略してフォレンジアです。科学と観察で、校内の不思議や問題を解き明かします」
紗凪の目が、少しだけ輝いた。証拠と論理で真実を探る――それは、自分の得意分野に他ならない。
放課後の部室に通されると、そこには旧式の顕微鏡、古い試薬瓶、そして紙の山があった。顧問の理科教師が、淡々とした声で説明する。
「ここで大切なのは、目に見えるものだけで判断しないこと。証言も証拠の一部だ」
その瞬間、紗凪の心に小さな火花が走った。人の言葉を分析し、科学的に検証し、世界の隠れた真実を暴く――ここなら、自分が求めるものがある。
「やってみたいです」
凪は微かに笑った。「歓迎します、秋山さん。まずは小さな事件からね」
初めての共同作業。小さな誤解、失くしたプリント、放課後の不思議――紗凪は静かに、しかし確実に、この部活に惹かれていくのだった。