005話 働かざる者食うべからず
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「まだいてぇーよ。何も殴ることはないだろ。お陰で次の授業に間に合うかギリギリだ」
廊下を走るなと小学生の頃から教わっているが、今はそんな事を守っていられる程の余裕はなかった。
「ごめんッス!つい、手が出てしまったんすよ!それもこれもこの女が悪いッス」
「うぅー、それは酷いです。別に貴方へ酷い事をした訳じゃないじゃないですか。勝手に貴方が取り乱して、勝手に手を出しただけに見えましたけど」
俺と腕を絡ませて狛町を揶揄う一宮。
今はそんな事して立ち止まっている暇はないだろ。
このまま行けば次の授業は遅刻確定だ。
入学式早々授業がこんなにあるのもおかしな話だけど、それと遅刻は話が別。
教師やクラスメイトからの評価は下がってしまえば、華々しい学校生活は泡となって消えていく事だろう。
「天命、この女に騙されちゃダメッスよ。きっと前世はゴリラか蛇ッス」
「ふふっ、可愛らしいこと。随分とスピリチュアルな事を言い出すのですね。見た目はスポーツ好きの少年といった感じですのに、乙女らしい一面もあって私は良いと思いますよ」
「あー!言っちゃいけないこと言ったッス!やっぱり、この女悪い女ッス!」
ごめん、本当に遅刻するから急いで───
キーンコーンカーンコーン
「「「あっ」」」
遅刻、確定しました。
「遅いぞー、もう授業始まってんぞ。早く君達もエプロンに着替えろ」
指定されて調理室へ行くとエプロンに着替えた丹波先生とクラスメイト達がいた。
場所を聞いた時点で何となく気付いてはいたけど、案の定料理器具と食材が並べられている。
本当に今から料理をするらしい。
分かるよ?料理は恋愛において必須テクニックだって。
でも、もう少し後でも良くないか?
今の気持ち的には寮で休みたい気分だ。
普通は入学式前日までに入寮するはずだけど、ここは入学式の後じゃないといけないらしいから、まだ1度も行ったことないけど。
「何故、いきなり料理を作らせれるのかと思っている生徒も多いと思う。実際に例年、調理実習はもっと座学が進んでから行うものなんだけどな。今回はそうも言ってられない事情がある」
「事情?料理を作らないといけない?なんすか、それ?」
「5等級クラス以外のクラスは、皆、下校してそれぞれの寮に戻って昼食を食べている頃だろう。しかし、君達の寮は今日だけ寮母さんが昼まで不在でね。なら、いっそ実習を兼ねて昼食を作ろうという魂胆なのだよ」
理には叶っているな。
寮へ行っても食べる物がなければ、空腹で倒れてしまうだろう。
そうなれば、責任は学校側に問われる。
それよりは授業という建前で、各自で昼食を作らせる方が良い。
「ん?待てよ。30人もいるんだから、全員やる必要はないんじゃ?帰れば、寮母さんがいる所もあるだろうし」
「あー、その話だが君達はみんな同じ寮だ。等級毎に寮は分けられているからな」
「「「ふおぉーーーー!!!」」」
男子生徒の歓喜の声。
「「「えぇーーーー」」」
女子生徒の嫌そうな声。
綺麗に分かれた反応がみんなの思考を物語っている。
俺は男だけど、そんな分かりやすく反応したりはしないぞ。
いや、同じ年齢の異性と同じ屋根の下で生活するとか憧れるけどな。
ちょっとしたハプニングがあるかもとかさ。
……どうやら、俺も同じ穴の狢でした。
「馬鹿な事を考えている所申し訳ないが、男女で生活スペースは分かれているからな。共同スペースは食堂兼リビングとキッチン、ランドリーくらいだ。常に寮母さんが隣接した住宅に在中しているから変な気も起こせないだろう」
「「「えぇーーー」」」
明らかに残念そうな男子生徒の声。
「「「いえーい!!!」」」
明らかに嬉しそうな女子生徒の声。
教師のたった一言で立場は逆転してしまったようだ。
分かっていたけど、そんな都合良い話はないか。
またしても、騒がしくなり始めたクラス。
隙あらばこうなるから担任である丹波先生の気苦労は計り知れない。
「寮の事は、後で寮母さんから説明があるだろうから今は説明を省かせてもらう。それでは、今から各々の班で作るメニューを決めて、調理を開始してくれ。料理というのは男女関係なく、恋愛では重宝されるテクニックだ。手は抜かずに取り組めよ。あぁ、それと遅れて来た3人は、小冬小白を入れて4人で調理をやってくれ」
丹波先生の視線の先には1人で椅子に座っている小さな少女がいた。
背丈は小学生と見間違えそうになるけど、このクラスにいるって事は同じ高校1年生だよな。
確かクラス分けの時も見かけた記憶がある。
「よろしくな、小冬」
「うん……よろしく」
短い返事はあったけど、それ以上は言葉を返すつもりはないらしい。
ちょこんと椅子に座ったまま、ただ何も言わずに下を向いていた。
「だぁーーー!!!もう我慢出来ないッス!勝負ッスよ!勝負!ちょうど良いから料理対決にするッス」
「そうですね。私は争うつもりはないですし、みんなで一緒に作れたらと思っていましたが。挑まれた以上は逃げる訳にはいきませんね」
あっちはあっちで勝手に盛り上がってるな。
バチバチと火花が散る中で背後に犬と蛇の幻影が見え始めて来た。
初対面で人と仲良くなるのは難しいけれど、逆もまた然り。
ここまで喧嘩出来るのも難しいと思う。
2人は勝手に別々の物を作るみたいだけど、俺はどうしたものか。
「なぁ、俺は何を手伝え──」
「「大丈夫です(ッス)」」
こいつら本当は仲良いんじゃないか?
息ピッタリで否定して来たぞ。
さてと、働かざる者食うべからずなんて言ったもんだが、やる事もないんじゃ仕方ない。
小冬の様に大人しく座って料理が出来るのを待つか。
「隣、失礼するな」
椅子を持って来て小冬の横に並べる。
嫌な顔はされなかったので、隣に座るのを了承してくれたと思って良いだろう。
「小冬は参加しなくて良いのか?あの感じじゃ、行っても追っ払われるだけだろうけど」
「……小白は大丈夫。いつも周りはそんな感じだから」
「そんな感じって?何もさせてもらえないってことか?」
「そう。中学の行事とか実習とか、小白は何もしなくて良いから大人しくしておいてって。家でも危なっかしいからって何もさせて貰ったことない」
「そうか」
無視されるのかと思ったら、ちゃんと会話をしてくれた事に驚く。
まだ顔を上げてはくれないけど、全く付け入る隙がないって訳でもないらしい。
それに彼女は大丈夫って言ったけど、本心なのだろうか。
時折見せる、小さく顔を上げてクラスメイトを見る姿はどこか羨ましそうだ。
「なぁ、料理とかもやった事ないのか?」
「ない。火を使うと火傷するから、包丁を使うと手を切るから。理由は色々あるけど、……ない」
「じゃあさ、俺と一緒に作ってみないか?」
「一緒に……良いの?小白と料理作ってくれるの?」
誘ってみたら、目をキラキラと輝かせてこちらを見てくる。
意思表示が下手なだけでちゃんと料理はやりたかったんだ。
今までは過保護な環境に身を置かれていたせいで、どうやって他人と接すれば良いのか分からなくなってしまったのかも知れない。
なら、誰かが手を引っ張ってあげれば、すぐにでも社交的になるだろう。
「授業の一環だし、何もしないって訳にもいかないだろ?メインは2人が使ってるだろうから、副菜で何か一品作れば良いだろ」
座っている小冬に手を差し伸べる。
彼女は満面の笑みと共に小さく頷いた。
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